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#109 チャレンジを促すわたしの勇気

小中高生向けのパーソナルトレーニングでは、基本的にフィジカルトレーニングが中心になる。
受講生がそれぞれの競技で課題としているスキルが何かを明らかにしたうえで、その課題につながるようなトレーニングになっていないと意味がないので、指導者からふだんどんな指示や指摘を受けているかを受講生に確認しながら、齟齬や矛盾がないように(受講生が混乱しないように)フィジカルトレーニングを合わせている。

そして、課題によっては、いままでのやり方を少し変えてみないことにはパフォーマンスアップはむずかしいのではないか、と思うこともときどきある。


パーソナルトレーニングに来ている受講生のうち、一番多いのはフィギュアスケート競技者。
そして、ほぼすべての受講生に共通している課題に、必ずといっていいほど、ジャンプがある。

フィギュアスケートのジャンプは言うまでもなく、むずかしい。
滑走運動+跳躍運動+回転運動の組み合わせであり、複雑すぎるし、それぞれの運動の要素は、どれも身長や体重、腕や脚の長さといった個体差にも左右されるからだ。


ジャンプの細かい課題は人それぞれだが、ある程度上位レベルになると、そこから先は試行錯誤の連続になるのだと思う。
そのため、フィジカルトレーニングと合わせて跳び方も少し工夫の余地があるのでは・・と思われる受講生には、スケートの先生からの指導内容をできる限りヒアリングして、その指導内容から外れない範囲で「この部分を改善できる余地があると思う」と伝えている。

これはわたしにとってめちゃくちゃ高いハードルだ。

なんと言っても、フィギュアスケートそのものは門外漢。
運動力学的にどういう要素があって、どのような筋力や柔軟性が必要か、というバイオメカニクスの勉強はずっと続けているけれど、スキルそのもののやり方に口を出すのはかなりハードルがある。
というか、フィギュアスケートに限らず、自分の経験のある競技や柔軟系の技(Y字バランスやビールマンなど)以外については、その競技特有のスキル指導はやらないし、やるべきでないと思っている。

ただ、フィジカルトレがきちんと課題に合っているかを随時、見直しているなかでいくと、スケートのジャンプについてはどうしてもトレーニング効果がすぐには出ない。そのスパンがめちゃくちゃ長い。

受講生も「こういうトレーニングを積み重ねていくことでパフォーマンスが変わる」というのは頭で分かっているだろうが、モチベーションに全く影響がないわけではないと思う。
「改善できるなら少しでも早く改善したい、ジャンプを成功させたい」という想いはどこかしらにあるだろう。「この筋トレ本当に意味あるんかな」という気持ちも過ぎるかもしれない。
それほどフィギュアスケートの練習量は半端ないし、身体への負担も大きく、本当に地道な積み重ねが必要な、めちゃくちゃ厳しい競技だと思う。


で、だ。

受講生からヒアリングを重ねて、スケートの先生の指導内容と齟齬が生じないように「こういう改善の余地はあると思うけど、やってみない?」と勧めたところで、また、ハードルがある。

改善を試みるということは、イコール、必ず「失敗が続く」からだ。

ジャンプの失敗は、わかりやすく言えば転倒だ。
転倒が続けば気持ちが萎えるというのは想像に難くない。

チャレンジがすぐ成功するほど甘くはない、転倒しているのはチャレンジしている結果だから仕方ない、といくら頭で思っていても、チャレンジ精神は絶対削がれる。
弱気になって、以前のやり方に戻したくなるのが普通の感覚だと思う。


一度でも「自分でやり方を変えるチャレンジをして、いままでよりもさらに良いパフォーマンスが出せた」という成功体験があれば別だけど、そうでないとチャレンジし続けることはむずかしい。

なので、こちらとしてもチャレンジを促すのは怖い。相当に勇気がいる。
でも、受講生たちのパフォーマンスはなるべく早く向上させてあげたい。

では、どうするか。

わたしがやれることとしては、チャレンジしていることへの細かいフォローアップだと考えている。


たとえば、陸でのジャンプはスタジオでもできるので、チャレンジしてみたやり方を動画に収めて、これまでのやり方と比較したものをその場ですぐに見せる。

下記の画像は動画の一部をスクショしたもので、上が回転の速度を上げるためのチャレンジ、下が弱気になっていつものやり方に戻ってしまったもの。

1回目のジャンプはたしかに着地がグラついてしまったが、課題としていた回転の初速度は少し上げられることができていた。
それを本人にもわかるように比較動画でスロー再生で見せて、チャレンジした結果の失敗だから着地は気にしなくていい、これからのトレーニングの中で強化できるようにしていく、ということもメモ書きして伝える。

めちゃくちゃ手間はかかる。

だけど、これはチャレンジを促した側の責任かな、とも思う。

いや、そんな必死にならんでも・・とチラリと思うときもあるが、本当に受講生のパフォーマンスを上げたいならこちらが必死にならなければ絶対に変わらない。
こちらの必死さが相手に伝わる保証はないし、伝わったら伝わったで「なんかうざい・・」と思われる可能性だってあるかもだけど、まずは本人にチャレンジし続けてもらわないことには改善の一歩は始まらない。

チャレンジを促すって、まじ大変。

でも、パーソナルトレを始めたときから受講生のパフォーマンスアップに貢献したい欲に憑りつかれてしまっているので、気づけば毎回必死になってしまう。
好きでやってるんだから、も、性分ですね〜。

最後までお読みいただきありがとうございました。


なお、フィギュアスケートジャンプの運動力学的解説はホームページに記事を投稿しています。良かったらご参考ください。

動画をその場で素早く比較できるソフトはダート・フィッシュというソフトです。おすすめです!





もし気に入っていただけましたら、次回の更新もぜひ楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです。