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児童精神科医 千村浩先生との出会いから生まれたバディたち ~We are Buddies 特別対談イベント「新しい家族の在り方、社会の在り方を模索する」レポート 前編~

6月26日に開催された WAB(We are Buddies)対談イベントの報告記事前編です。「新しい家族の在り方、社会の在り方を模索する ~家族の境界を超える試みが、新しい関係性と社会を創る~」と題した、代官山やまびこクリニックの院長・児童精神科医の千村浩先生と一般社団法人 We are Buddies 代表理事・加藤愛梨の対談。代官山やまびこクリニックからの中継で、なごやかな雰囲気で始まりました。まずは、代官山やまびこクリニックとWABの連携体制についてご紹介するところからスタート!

【ゲストプロフィール】
代官山やまびこクリニック院長、児童精神科医
千村 浩(Hiroshi Chimura)

30年の行政官経験の後に、精神科、児童精神科の医療に従事。
昨年7月に、代官山やまびこクリニックを開業。母と子、家族が幸せに輝くために、子どもの成長する力を信じて、お子さんやお母さんの言葉に耳を傾け、一緒に治療を考える医療を心掛けている。日頃の診療の中で、子どもたちから学ぶことがたくさんあると感じている。忙しい時ほどリラックスを心掛けて、読書、音楽、スポーツを楽しむ。

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WABとやまびこクリニックに共通するもの

加藤愛梨(以下、加藤):
先生とは、昨年10月からのおつきあいです。出会いのきっかけは、バディに参加している保護者の方からの紹介でした。ざっくばらんにいろいろな話をして、意気投合することができて、スモールスタートでなにか一緒に始めよう、ということになりました

クリニックに長く通われている中学生のお子さんがいらっしゃり、「この子がWABに参加したら良さそう!」という千村先生の直感が働いて、その子・保護者の方とお話する機会を作っていただいたのが、最初の連携でした。それ以来、千村先生経由で参加していただくことになったバディズは6組になります。

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クリニックからの紹介でのマッチングの場合、通常と違うのは、マッチングの前に千村先生と私とバディ候補の方とがお話する時間を持つこと。そこで千村先生からバディ候補の方に、お子さんの状況を説明していただきます。

今では、それに留まらず、マッチング後に困ったことがあったら、クリニック経由でなくても、千村先生にはアドバイザー的にかかわってもらっています。We are Buddies に参加されている親子さんに代官山やまびこクリニックをご紹介することもありますし、様々な形で協力体制をとっています

「WABと共通する思いは、新しい出会いを楽しむこと」

千村浩先生(以下、千村):
昨年7月、発達障害のお子さんの診療を中心としたクリニックをオープン。子どもたちが好きなことやりたいことを大切にできるよう、子どもの主体性を重んじながらの、お子さんとご家族のサポートを大切にしています。

クリニックのおとなりではやまびこ村も運営しています。ここでは、保護者の方の学び、つながり、癒しの場として、お子さんのサポートをしていきたいと思っています。

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私の人生についてですが、東京・秋葉原出身、ざわざわしたところですが、とてもいい街です。その後、川越、札幌が私が育ったところです。仕事は、国や地方の行政機関、国際機関での勤めを経て、児童精神科医として勉強して仕事もしてきて、代官山やまびこクリニックを開業いたしました。

WABとのつながりをあらためて考えてみて共通するのは、未来を見つめ続けること、信じること・信頼し合うこと・新しい出会いを楽しむこと。それから特に感じるのは、子どもたち・若い人たちからいつもいろいろなことを教えてもらっているということです。
とにかく、人生は刺激に溢れているという、私自身が楽しい体験をさせてもらっています。

千村先生との出会いから生まれた、3組のバディズ

6組のうち3組の方々について、ご紹介します。

その1)お散歩しながらおしゃべりするのが楽しい Hくん×かずやさん

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2人はオフラインで遊ぶことが多く、いつもお散歩をしているそう。WABでは、現在30組ほどのバディズが活動していますが(2020年6月現在)、30組あれば30通りの遊び方があります。この2人の場合は、言葉数が多い方ではありません。学校であったことを話したりするよりも、散歩をしながら、目の前に現れた植物などを見つけて、これってなんだろうね、などとと話したりすることが多いそうです。

千村:
Hくんは、他の医療機関で検査を受けたところ、発達の偏りの可能性がみえるということで紹介されてきました。初回は、お母さんと2人の生活に緊張感があるなあ、というのが第一印象でした。Hくんは字を書くのをいやがる、がまんができない、というところが気になるということをお母さんから聞いて、発達のかたよりと同時に、2人の間にお互いに緊張感が生まれているかもしれないという印象を持ちながら、診察を始めました。
お母さんとの関係や、家庭の中の環境を変えるのには、WABを通じて新しいお兄さんのような存在とつながりを持てたらいいのではと思ったんです。

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加藤:
WABに参加するようになって今まだ3カ月ですが、2人を見ていて変化は?

千村:
最初に感じたのは、お母さんの余裕がでてきたこと。最初は、お母さんからの言葉は、Hくんが「あれもできない、これもできない」という話が多かったんです。それが、「うちの子は、こんなこともできるんですね」という言葉に少しずつ変わってきました。子どもと話をしていても、最初は診察室で緊張していたのが、お母さんが一緒にいても余裕が見えるようになりました。母子のコミュニケーションが、最初のころの緊張に比べて自然になってきている感じで、母と子の間に新しい風が入ったような印象でした。

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加藤:
かずやさんに聞いたら「新鮮で楽しくて、けっこう疲れる」と言うんですね。それは、ふだん大人としかかかわっていないから、いつも使っていないコミュニケーションの筋肉を使っている感じらしいです。リラックスしているけど、留学の初日みたいな疲れがあるらしい。その体験が新鮮らしく、とても楽しんでいる様子でした。

千村:
違う人と出会う、ということは楽しいことですよね。

その2)自分が好きなものの話をたっぷり聞いてほしいCくん×話を聞くのが好きなひびきさん

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バディを組むのは基本的に同性同士ですが、たまにこの2人のように、大人バディが女性、子どもバディが男子という組み合わせがあります。実はCくんはやまびこクリニックからのご紹介、第1号でした。Cくんは地理が大好きで、好きなことについてたくさん話したい子。大人バディは、自分が知らないことを聞くのが大好きな女性。そんな2人です。

千村:
C君は5年生からほぼ学校に行けていないお子さんで、クリニックの初診は中学2年生でした。初めての時は、質問をしても、一言も答えてもらえませんでした。小学校に入る前から、他の人に関心がなかったそう。ひとりで遊ぶのが好きで、ほかの人と言葉を交わすこと自体に慣れていない子でした

どうしたらいいかな、と思っていたときに、Cくんが好きなことを見つけ出せたことが糸口になりました。彼は、山の地形、川の流れの方向、昔と今の川の流れの違いとか、日本中のお城の歴史、それから葉っぱから木を見分けたり、植物・動物・鉱物・地理もとっても好きで知識も豊富。こんなにたくさん知っているってすごい!と感動していました。彼には、好きなことや知っていることを第三者と話したり教えたり、ということが必要と思い、そういう話を聞いてくれる人はいませんか?と、WABに聞いてみたら、いい方と出会うことができました。

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加藤:
大人バディのひびきさんは、相手の年齢に関係なく接する人。お散歩が好きで、自分が詳しく知っていることを話す人の話を聞くことが好き。散歩しながらCくんの解説を聞けるのがほんと楽しいと言っています。2人は、出会って半年くらい経ちます。毎月会っていて、たまにオンラインでのおしゃべりも楽しんでいるそうです。

千村:
クリニックに来始めての数カ月は、私が話しかけても表情が変わらなかったCくんが、だんだん私が提案することにうなずいたり、いやだと意思表明することが増えてきましたね。ほかの人とのコミュニケーションはまだ難しいかもしれませんが、ひびきさんとの外出が楽しみになっているんだと思います。

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彼は生活リズムが昼夜逆転していて、まあそれもしょうがないかと許容しつつも心配していたのですが、最近、少し朝起きる生活に変えてみないか?と提案したらうなずいたんですね。それは、彼にとって親ではない第三者で、自分の好きなことに耳を傾ける人と出かけることが楽しくなり、約束の時間に間に合うように、朝起きて支度することが必要だと、おそらく彼自身が感じたのでしょう。そこが大きく変わったこと。

これからまだ、他の人と話していくには超えていくものがたくさんあるけれど、きっかけは見いだせたと思っています。

加藤:
ひびきさんは楽しんでるだけ、と言っています。大人バディは専門家ではないから、意図して状況をよくするということはできませんが、楽しんでいたら勝手に状況がよくなるということはあるのかな、と思いました。

その3)気持ちのコントロールがむずかしかったMさん×さちさん

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この2人の遊び方は、カフェに行っておしゃべりとか、最近はさちさんが働いていたバイト先のハンバーグ屋さんに行ったりとか。食べ歩きの予定を立てたりしているそうです。

千村:
Mさんが初めてクリニックに訪れたのは小学校5年生のとき。夜眠れなかったり、ちょっとしたことでかんしゃくを起こすなど、ひとの言うことが聞こえなくなって混乱する、ということがたびたびあったそうです。自分自身も、そうやってかんしゃくを起こすことにとても疲れて、いやだと言っていました。

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Mさんは少しずつ治療で元気になってきた過程で、友だちとの学校でのトラブルがあって、先生が間に入ったけれど、仲介や心配のされかたに彼女は納得できず、学校に行けなくなってしまいました。それが今年のはじめごろ。その後、Mさん自身とご両親から事情を聞き、学校の先生とも連携して、本人が何をどう感じ、何を体験したのかを関係者に共有しました。そこから解決口を見出して、少しずつ学校にいられるようになり、教室にいられるようにチャレンジし始めたところです。

Mさんは、きっと違う風が吹いてきたら違うものが見えるようになるかもしれないと感じ、ご両親にも相談して、WABを紹介しました。

加藤:
大学4年のさちちゃんとMちゃんはマッチングのとき、女子会みたいに盛り上がっていました。Mさんもお母さんも、違う年代、違う人生を歩んでいる人と会うことがあまりなかったそうで、それも楽しかったみたいです。

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千村:
Mさんは、大変な体験をしてきたお子さんで、クリニックでも表情が強ばっていることが多かったんです。でも最近は、「どう?」と聞くと、「なんか…さちさんに、辛いラーメンを食べに連れて行かれそうになって、大変だった」などと、笑って楽しそうに話してくれる様子が印象的なんですよね。医者ではこういうことはできないな、と強く思います。彼女の世界にいなかった人がどこかから舞い降りてきて「新しい星の人と出会いました」というような、不思議な体験をしているのかな、と思っています。リラックスした表情になってきたということがよくわかります。

加藤:
千村先生が自己紹介の中で、「人との出会いは楽しい」とおっしゃっていましたが、この2人を見ているとほんとにそうだなと思います。Mさんはロジカルで冷静で、バディのさちちゃんは本能的二人の関係性は対等だけど、一般的な「大人っぽい」「子供っぽい」という言葉の印象で表現するならば、Mさんのほうが「大人っぽい」とみえるかもしれません。そんなあべこべな2人ですが、お互いの違いを楽しんでいるようにみえますね。

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WABでおもしろいのは、一人と一人の出会いなんですけど、その背景にはいろいろな人や世界があるんですよね。Mさんは、さちさんのバイト先のハンバーグ屋さんと出会い、店長とも知り合いました。一見、小さなことのように思えますが、実は大きなことのように思います。たったひとりのバディの相手が、いろいろな世界の入り口になっているから、たった一人との出会いなんだけど、そこから世界が広がっていく、まるごと交換しているという感じが楽しいです。そしてこれは、大人バディにとっても同じことです。

千村:
私が見ている世界と、お子さんが見ている世界と、お父さん・お母さんが見ている世界があって、家族の中の関係も変わってくるでしょうし、いい循環ができているのではないかと思います。皆さん、表情が変わってきてびっくりしています。新しい出会いを体験する楽しさはあるなあと思います。

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後編では、WABによって親子関係はどう変わるかについて語り合います。千村先生には参加者からの質問にもお答えいただきました。
⇒ 後編へ!


執筆:関川香織

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