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ユニスティール鋼


 皆さん、こんにちは。ヒヒイロカネって聞くと、派手なカラーのマントヒヒ(つまりはマントヒヒじゃなくてマンドリル)の肖像画がプリントされた紙幣を想像してしまう木賃ふくよし(芸名)です。

 なお、ヒヒイロカネとは日緋色金(諸説あり)と書く、古代日本に存在したとされる空想上の金属。オリハルコンやミスリル、アダマンタイトなどと同類であるが、本日の話には特に関係はない。

 現実と伝説の狭間にいる金属としてはダマスカス鋼などがあるのだが、これは説明すると長くなってしまうので、各自で勝手に調べてくれ。そして、これも本日の話題には特に関係ないのである。
 マントヒヒもマンドリルも関係ない。一旦頭の中をリセットしてから本題に移ろう。


 時は5〜6年ほど前の話だろうか。ワタクシはバーを経営しており、まだ例のコ ロ ナ騒ぎになる前の話である。
 場所は京都の繁華街だけあって、街は外国人だらけ。ワタクシが経営していたバーは外国人向けの店ではなかったが、それでも時折外国人が迷い込んでくる。
 その日はまだ夜と言うには早い、19時過ぎ。
 まだ来客はなかった。油断しているワタクシの耳にチリン、というドアベルの音が聞こえる。
 来客だ。
 シルエットを見る限り、かなり大柄で日本人ではない。
 店に入ってくる際のドアの潜り方も堂々としており、日本人ではない事を裏付けた。白人で、がっしりとした骨格、何よりズボンとベルトからせせり出ている腹の肉が日本人のそれではなかった。まるで鏡餅のような腹肉が、本来なら逆三角形の体型を、更に三角形に戻していた。逆三角形は三角形に勝てない、と板垣恵介は言っていたが、そういう事か。(時系列的に、当時はまだ言ってない)
 「Hi.You Open?」(やぁ、開いてるかい?)
 英語が話せないワタクシにでもわかる。
 「Yes.どうぞ、カウンターへ」
 どうせ英語は話せないので、無理に定型文を言って話が通じると誤解させるよりは、日本語とゼスチャー混じりで話した方がいい。会話が通じないなら辞めておこう、という選択肢を残しつつ、カウンター席を促す。
 その外国人は特に臆する様子も見せず、カウンター席に座った。
 「Beer」(ビールをくれ)

 その外国人のリクエストに、何本か、日本の地ビールと世界のクラフトビールの瓶を並べて見せる。
 「Oh! Great!」(こいつは凄いね!)
 彼はその中から日本の地ビール(当時大流行のIPA。超苦いビール)を選んだ。
 ワタクシはビールグラスに中身を注ぎ入れ、彼の前に提供する。彼はいち早くビールに口付けると、小さく強く何度も頷き、
 「Nice Beer」(良いビールだね)とサムズアップした。
 ここで日本人なら、何か適当な話題を振るのだが、何しろ日本語は通じそうにない。
 これまでの行動や体格、風貌からすると、高確率でアメリカ人なのだが、あくまでステロタイプな話だ。
 気になるのは発音だ。いかにも慣れない第一外国語を話している様子はない。しかし、発音がどうにもアメリカ英語のそれとは違う気がするのだ。
 現在の予想だと、トータルではアメリカ人。次いでオーストラリア人。
 それからカナダ、中南米、イギリスあたりが予想に入っている。
 他に来客がある訳でもなし、このまま黙っているのも気まずい。
 少なくとも、最初に英語を使用したからには、最低限は英語話者であるはずだ。ワタクシは知ってる限りの英語定型文を使うことにした。

 「Where are you from?」(どこから来たの?)

 すると、話しかけられた事が嬉しかったのか、彼はパッと表情を輝かせ、


 (´°∀°)」 「ユニスティール!」



 と言ったのである。


 (´°Д°)」 何処だよ。知らねえよそんな国。


 ユニ・スティール。ユニは単一を意味し、スティールは鋼である。なるほど、合金ではない鋼なのか。うむ。わかった。いや、待て。鋼って鉄に炭素を混ぜてるよな? 単一じゃないよな? どーゆー事だ?
 いや、そもそもそんな国知らねえぞ。割と世界地図を眺めるのは好きだし、180カ国ぐらいなら名前も知らない、聞いたこともない国なんて、そうそうないはずだ。
 あるとすればアフリカ諸国だろうが、アフリカ人には見えないぞ。いや、単に国ではなく州や街の名前とかを答えたのかも知れない。
 けど、ユニスティール州なんて知らないし、ユニスティールって都市も知らないぞ。アメリカの州なんて全部は把握してるはずもないが、聞いたこともない。ユニスティールという響きはオーストラリアやカナダじゃないっぽい。イギリスならありそうな気もするが、

 割とドヤ顔で、


 (´°∀°)」 「ユニスティール!」


 って、「知ってるだろ?」的な空気で言われても知らねえよ!

 そこでワタクシは、ものすごく「ワカリマセン」な顔をして、聞き返した。


 (´°A°)」 「ユニスティール?」


 (´°∀°)」 「イエス! ユニスティール!」


 (´°A°)」 「ユニスティール、、、?」


 (´°Д°)」 「ユニスティール」(なんで通じないんだ、、、?)


 (´・Д・)」 「ユニスティール、、、」


 途方に暮れる2人。だが、彼は素晴らしいアイデアを思い付いたのだ。


 Google翻訳である。


 いそいそとスマホをパンパンのズボンから取り出し、Google翻訳を起動させる。
 しかしワタクシ、この時、ユニスティールの正体に気付いたのである。見るからにアメリカ人。英語話者。ユニスティール。


 ユニスティール → Uni steel → United states → ユナイテッドステーツ → ユナイステーツ → ユニスティール


 (´°Д°)」 アメリカだわ。


 しかし、せっかく彼がGoogle翻訳を起動してるのに水を差すのも気が引けるので、しばらく気が付かないフリで、彼の翻訳が終わるのを待とうとした。

 すると彼はスマホに向かって、


 音声入力を始めたのだ。


 (´°∀°)」 「ユニスティール」


 (´°∀°)」 「………」


 (´°∀°)」 「………?」


 (´°Д°)」 ←たぶん、翻訳されなかった模様。



 (´°∀°)」 「ユニスティール」←再チャレンジ。


 (´°∀°)」 「………」


 (´°∀°)」 「………?」


 (´°Д°)」 ←やっぱり、翻訳されなかった模様。



 (´°∀°)」 「ユニスティール」←再々チャレンジ。


 (´°∀°)」 「………」


 (´°∀°)」 「………?」


 (´°Д°)」 ←それでも、翻訳されなかった模様。



 母国語話者が翻訳されないってどんな発音なんだよ。とは内心で思ったものの、見兼ねたワタクシが(ちょっと笑いを堪えつつ)助け舟を出す。


 (´・Д・)」 「ユナイテッド・ステーツ?」


 (´°∀°)」 「オーウ! イエース! アメーリカー!!」



 しかも彼のスマホから、ピコン♪ って、音がして「あめりか」って喋ってるし。
 ワタクシのジャパニーズイングリッシュ発音の方が聞き取ってもらえてるやん!

 どんな片田舎出身なんだよ!?

 って思ったら、アリゾナ州でした。


 いや、アリゾナ州なんてUFO目撃者が多く、宇宙人との関係が噂されるネリス空軍基地のあるエリア51しか知らねえよ!!(正しくはエリア51はネバダ州である)って思ったけど、他のアリゾナの話題なんてないので、

 (´・Д・)」 「アリゾナってほんとにUFO飛んでるの?」


 って聞いたら、最初は、


 (´°Д°)」What's?


 って顔をしてたけど、だんだんとノリノリになって、


 (´°∀°)」 「俺もUFO見たぜー!」


 って、げひゃげひゃ笑いながら答えてくれました。良い人でした。アリゾナの発音が独特なのか、彼だけが発音が悪いのかは知りません。良い人でしたが、発音は悪い人だと思います。


 あと、彼いわく、アリゾナは地ビールとワインも美味しいそうです。



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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。