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鬼滅の刃『無限列車編』を改めてふりかえる――悪夢から目覚めたい時は

※本稿は、ネタバレを含みます。

朝。陽の光を浴びても、嫌な夢が脳裏から離れなかったことは、あるだろうか。もしくは、白昼夢の暗渠に囚われてしまう経験はお持ちだろうか。筆者はどちらも有り、悪夢から早く醒める方法を模索してきた。

結論から言うと、目を覚ますためには、“身体”に意識を向けるのがいい。

経験的には分かりやすいことかもしれないが、そのプロセスの明示を試みた。本稿は、漫画/アニメ『鬼滅の刃』と、 哲学書『暗黙知の次元』のコラボレーションにより、お送りする。

鬼滅の刃『無限列車編』――“夢幻の夢の中へ”

“ねんねんころり、こんころり”
“もう目覚めることは出来ないよ”
 ――永遠の夢を見せる術者・魘夢(えんむ)
あらすじ
2020年、TV アニメ“竈門炭治郎 立志編”に続く物語“無限列車編”が、劇場アニメーションとして描かれる。炭治郎たちが次に向かうは、闇を往く《無限列車》。多くの人が行方不明になっているこの列車を舞台に、新たな任務が始まる。
 ――映画『鬼滅の刃』公式サイトより

さて、『無限列車編』をご覧になった方は、主人公の炭治郎が、夢中から目覚めるプロセスを、覚えているだろうか。


そう、水面に映る自らを見て、本能の警告を聴き、道具――刀を、手にとったのだった。

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『暗黙知の次元』に、光を当てる

炭治郎の夢と目覚め。わたしはこの現象に、ポランニーの“暗黙知”がもたらす知見を結びつけてみたくなる。

暗黙的認識において、ある事物に近位項の役割を与えるとき、私たちはそれを自らの身体に取り込む、もしくは自らの身体を延長してそれを包み込んでしまう。その結果として、私たちはその事物に内在する(dwell in)ようになる。
 ――マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(一部改変)

「近位項」の言葉が、わかりにくい。例えば、私たちは誰かの顔を認識するとき、顔のパーツを見てから、“遠ざかるように”顔の全体像を把握するだろう。そして、その顔のイメージは、その場から離れたとしても思い浮かべることが出来る。この場合、顔のパーツが近位項にあたる。視覚したことによって、網膜に像を映し、内在化したのだ。

さて、ここで「無限列車」に戻ろう。魘夢は、自らを列車と同化させ、乗客を内包することによって、支配しようとした。魘夢が仕掛けた、夢を見てしまうことによって。その様子は、先のPVでもうかがい知ることが出来るだろう。


では、魘夢の術に対抗するには、どうすればいいのか。その逆を、やればいい。

“私たちは、目覚めているときはいつも、事物との身体的接触を感知し、その感知に依拠している”
“外部にある事物に意識を向けることによって自らの身体を自覚するのだ。”
 ――マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(一部改変)

空想的イメージを内在化することによって夢の世界に入り込んでしまうなら、身体の外側に、目を向ければいいはずだ。夢は内から、湧くものだから。

外に目を向けることで、逆説的に己の身体が知覚される。このとき、感触――触覚が、目覚めの鍵となる。

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…まあ色々書いたが、映画は映画で、気軽に楽しむが吉だろう。喫茶店の薄明かりの中、ポランニーを読んでいたら閃いたので、深読んでみた。


『無限列車編』を、漫画で読みたい方はこちら▼


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