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人間の崇拝から科学革命へ 『サピエンス全史』が問うものとは?

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による『サピエンス全史』。ハラリ氏はコロナ後の社会についても積極的な提言を行っている。

『サピエンス全史』の原著の刊行は2011年、もうすぐ十年経つところであるが、その問題提起は全く古びていない。それどころかコロナのもとで、むしろより切迫した課題を捉えているとも言える。

さてベストセラーになった『サピエンス全史』だが、読んだという人たちに話を聞くと次のような答えが帰ってくる。

冒頭の「認知革命(「虚構の力」の獲得)」や、「農業革命」あたりまでは、おもしろく楽しめたけれど、下巻の「科学革命」あたりからややこしくなり、よくわからなくなる

『サピエンス全史』は大著である。最後までハラリ氏についていくのは骨が折れる。特に最初の方は、今日明らかになっている歴史学や考古学の知見が次々と紹介されている部分で、そうだったのか!と楽しく読み進めることができる。

ところが後半に入ると、知見の紹介という(仮に)答えが出ている話ではなくなる。問いかけ、問題提起が中心となる。しかもその問題提起には答えがない。ハラリ氏は開かれたままの問いを読者に託すのである。

ということで、今回はこの「科学革命」の話に焦点を絞って『サピエンス全史』のページをめくってみようと思う。

『サピエンス全史』の構成

『サピエンス全史』は、約7万年前の話から始まり、ざっくり整理すると以下のように展開する。

(1)約7万年前認知革命(虚構を作り、共有し、協力する力の獲得、言語の獲得)

(2)約1万2千年前農業革命(定住、動物の家畜化、植物の栽培化、その後の都市、帝国、貨幣、一神教、そして文字の発明へ)

(3)約500年前:科学革命

今日の私たちが生きる世界は、依然としてこの最後の「科学革命」の延長上にある。「科学革命」の次の革命はまだ始まっていない。つまりハラリ氏の論じる科学革命について理解することは、現在のワタシたち自身を理解する手がかりになるのである。

科学革命・・・の前に、「人間の崇拝」

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