【六日目】バイクは孤独な乗り物【別府→阿蘇山→宮崎】
今日も孤独なライダーは野を駆け山を駆け、寂しさとの二人旅を続ける。硫黄の匂いが立ち込める別府の街を抜け、九州の脊梁に向かう。30分ほどで由布岳を捉えた。
ただひたすら県道11号線を下り、やまなみハイウェイに入る。道路標示には0°Cの表示が。地面はところどころ凍結して白っぽくなっていたし、路肩には雪が残っていた。あまりの寒さで、それでも1時間くらいは我慢して走っていたのだが、堪らずレインウェアを重ね着した。レインウェアは防寒具にもなりうると読んだことがあったが、まさにその通りであって、周りの景色を楽しむくらいには余裕が出てきた。
遠くに煙が出ている山があると思っていたら、それが阿蘇山であった。北側から見ていたので、南中高度の低い太陽によって逆光になってしまい、見えにくかった。今思うと火山灰で覆われていたのもあるかもしれない。それでも、阿蘇の町の、盆地になった部分が一望できた。
阿蘇山の東側をぐるっと回るようにして、そのまま阿蘇パノラマラインで南の麓から登山して行った。まず驚いたのが、道路に薄く火山灰が積もっていること。車のすぐ後ろを通ると埃が飛んでくるため、車間距離をしっかり開けなければならない。近くで見ると、思っていた何倍もの煙が出ていた。あまり大きな山でないのにどこからあんなに出し続けているのか不思議な気持ちになった。残念ながら火山活動が活発化しているということで、途中で道路が通行止めになっていた。
お腹が空いたのでチキン南蛮を食べようと思った。ゲストハウスの人におすすめしてもらった「おぐら 本店」に向かう。阿蘇山の麓からは150kmくらい離れていた。ひたすら山間部の道を通っていくわけだが、こういった道は、流れは早いが割と単調で飽きるのも早い。そうなると私の心はぽっかりと空いてしまうわけで、そこに感傷的な気持ちが流れ込んでくる。小学生の頃に家族で海へ行った思い出などという遠いものから、旅の道中親切にしてくれたおばちゃんのことなどという近いものまで、過去を振り返っていた。バイクで飛ばしているとどんどん過去が過ぎ去っていってしまうような、得体のしれない不安感があった。そんな不安も、うめえ飯を食えば一気に吹き飛ぶ。
六日ばかしバイクで一人旅をして気付いたのは、一番楽しいのはバイクに乗っているときだということだ。バイクに乗っている時、私はどこか俗世とは隔別されているような心地よさを覚える。別に厭世の気があるわけではないのだが、この感じが、一人旅の隠遁的属性とぴったり合うのだろう。バイク乗りは孤独なものであるとよく言われるが、lonelynessというよりもsolitudeの方の孤独であり、好まれるほうの孤独なのだ。
そんなこんなで気分よく旅の一日を終えた私は、その気分に任せて野宿することにした。というのも、宮崎の海辺から見た空がものすごく綺麗だったのだ。
波の音を聞きながら寝る夜は最高だろうと思った。私は屋根以外何もない、コンクリートの上に寝袋を敷いてそこで寝ることにした。
走行距離 362km
食事代 1672円
ガソリン代 1947円
宿代 0円
雑費 890円(通行料など)
計 4509円
総走行距離 1620km
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?