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一歩踏み出す勇気を。サイエンスコミュニケーターいつかさん

弊社土原がいつかさんのラジオ(サイエンス・エクスプレス)に出演させていただいたのをきっかけに、いつかさんにインタビューさせていただきました。
7/11より、いつかさんが総合科学研究機構のCROSS研究員になられました!

普段は会社員をしながら研究とラジオMCをしているいつかさん。
やりたいと思ったことにその都度挑戦し、全部つなげようとして今に至ったそうです。
不安ながらやっていたところ、YouTubeで週末研究者の存在を知り、いろんな生き方があっていい、私の在り方もいいと肯定できるようになったとのことでした。
一歩踏み出す勇気。そんなの無理だよって言われてからがスタート。まわりの声に負けずに挑戦していきたいと感じました。

社会人、研究者、気象予報士。昨年始めた科学系ラジオMC。

ー今、どんなお仕事をされていますか。

いつかさん:いつかさんって何者?ってよく聞かれます(笑)。
社会人で研究者、気象予報士です。去年5月から茨城県筑波市のラジオMCをしています。

―どのようなきっかけでラジオ「サイエンス・エクスプレス」のMCになられたのですか?

いつかさん:サイエンス・エクスプレスは、茨城県の研究所や科学館の知識を全国のみなさんにお届けする科学系ラジオ番組です。
専門家や研究者の方々にお話をお聞きし、中高生向けにわかりやすくお届けしています。出演してくださる研究者の方々は、地域に貢献したいとおっしゃられます。優しくてお話上手な、すごい方ばかりです。関係者以外の方からも、良い企画をやってるよねと褒めていただいてます。

最初は地道に探して企画書を送ってたんですが、なかなかチャンスがありませんでした。知り合いの知り合いにラヂオつくばの社長さんがいると聞いて、お話させてもらいました。
気象予報士に受かってからお話がくるようになりましたね。

いつかさんにオンラインでインタビューさせていただきました

飛行機雲の魅力を知ってほしい。実験教室で科学を身近に感じるきっかけをつくりたい。

―研究はどんなことをされていますか?

いつかさん:飛行機雲の観測、研究をかれこれ5年ぐらいやってます。
基本的に「雲」は、雨や対流活動など災害をもたらす部分にフォーカスされがちですよね。
飛行機雲は、この後雨が降るよというサインでもあり、より科学を身近に感じやすいと思うんです。知名度はありますが、魅力があまり知られてないんです。

―確かに、教科書でも飛行機雲はあまり扱われてないです。

いつかさん:飛行機雲が人体に悪い影響を与える、というデマもあるんですよ~。
人工的で疑似科学的な形だと一部では嫌われてるんです。よくわからないものはみなさん怖がっちゃいますよね。正しい知識を持ってきちんと発信できる人が今までいなかったんだと思います。

今まで雲の本をたくさん読んできましたが、飛行機雲に特化したものは一冊もありません。将来的には本を出版して、アンチ飛行機雲派の人にも、読んでみたい、知ってみたいと思うきっかけを作りたいと思っています。

また、気象予報士として出張授業をしたりしている傍ら、子ども達に実験教室を開催する等、地域で地道に活動もしています。
実験教室中に、「それ見たことある!」って子どもたちから声があがることがあり、悔しくて。パターン化せず、誰も見たことない新しい実験をやってみたいなって思っています。

でも、個人で活動しているので、実験するにも観測するにもお金がなくて...
気象文化創造センター(https://www.wxbunka.com/)の助成金の募集要項に、「草の根活動をしている人」という項目があり、これは私だ!と思いました。
以前ラジオ関係のイベントで交流があった くもM先生(@science_kido)に、ぜひ共同実験者になってくださいとお願いし、アドバイスいただいています。

ー会社員との両立は、スキル、タイミング、時間の部分での難しさがあると思います。飛行機雲の研究は、時間的にいつされているんですか?

いつかさん:昼間は基本デスクワークをして、研究は夜にやっています。飛行機雲は日中出歩いてる時に見つけたら記録をとっています。助成金をいただいたので、定点観測を始めました。
プログラミング等は外注でお任せして、データを見るのは自分でしています。まだ実験を始めたばかりでこれからという感じです。

みなさんにお金や知恵をお借りして研究させていただいています。

いつかさんが観測した飛行機雲➀
いつかさんが観測した飛行機雲②
いつかさんが観測した飛行機雲③

筑波に多く存在する研究施設や研究者を知ってほしい。自分が楽しいと思うことを発信したい。

ーそもそもなぜ研究者のことを発信したいと思ったんですか?

いつかさん:筑波は研究機関が多いんです。もっとオープンになったらいいなと思っています。
筑波に住んでいる者として、ラジオやライターなど何かしらの形で研究者の方々にお話を聞いて回り、発信していきたいとずっと思っていました。
私は興味の幅がすごく広く浅い性格なので、色んな学問のいいとこどりをして、「これ楽しいよ!」って人々に伝えたいです。

お笑い芸人のミラクルひかるさん(https://www.instagram.com/miracle_hikaru_official/)が、「自分の近所で3人の人が楽しいって言ってくれたら、全国の人でたくさんの人が楽しいって言ってくれる」って言ってました。
楽しいと思ってる人は、間違いなくいっぱいいるだろうなって信じてやってます。

ー科学に興味を持ったのはいつ頃ですか?

いつかさん:もともと子どもの頃から理科がすごく好きでした。理科の先生がずっと当たりだったんです。理科が相当好きな先生にずっと当たってきました。

小学校の頃から特に関心が強かったのが地球温暖化です。
地球温暖化について学ぶか、自然環境保護系の仕事をしたいなと思っていました。
当時好きだったテレビは、「動物奇想天外(1993年~2009年、TBS系列)」と「素敵な宇宙船地球号(1997年~2009年、テレビ朝日)」でした。

高校は進学校で、大学に行くのが当たり前の環境でした。大学に行くか、英語ができないけどNGOや海外に行った方がいいのかな、と悩んでいる時に、
たまたま足尾銅山鉱毒事件のドキュメンタリー番組を観ました。一人のボランティアの方が声をあげたことがきっかけで、荒れた山の再生を果たした軌跡でした。個人の力を超え、みんなでやればすごいことができるんだと衝撃を受けました。
森林再生について学びたい、大学では森林を専攻しようと熱くなりました。

親からは反対されていて、「学力があるから推薦でも試験でも大丈夫。」って先生に押してもらって受けたのに、試験当日緊張してしまってどちらも落ちちゃいました。
すごくショックで落ち込みました。

受験に失敗して落ち込んでいる時、中高一貫校で6年間お世話になった化学の先生で天文部の顧問に、「科学の世界、サイエンスは全てつながってるから大丈夫よ。」って言われたんです。その時は信じられませんでしたが今となっては納得する言葉です。

いつかさんのラジオ収録の様子(上防災科研の取出さん)
いつかさんのラジオ収録の様子(原子力機構の大泉さん)

一度は途切れたと思った道。「森→海→空」サイエンスは全部つながっている。

ー印象的な体験はありますか?

いつかさん:高校生の時、サイエンスキャンプに行きました。研究所が全国から中高校生を集めて合宿するんです。実験や講義、バーベキューもしました。
その時、全然知らない人と出会ったり、科学の楽しさを他校の子と共有するってめちゃめちゃおもしろいなって思ったんです。

大学は、強いて言えば一番楽しかった化学の道に進むことにしたのですが、熱い思いや思い入れがないので成績もよくありませんでした。大学4年生の時に、大学内外で好きな研究室に所属できることになった時、もともと森林とか環境がやりたかったんだよな、と思って研究室を選びました。

ジャムスティック(https://www.jamstec.go.jp/j/)が、地球温暖化と関係の深い炭素循環の研究をしていました。高校の時にサイエンスキャンプでお世話になっていて印象が良く、卒業論文で1年間行きました。
最後に、院生に混じって一般発表をさせていただいたりして楽しかったけど、やりきった感があり、進学はしませんでした。

なぜかその後、サイエンスの他に興味が移っていました。お花屋さんになりたかったんです。(笑)。

―お花屋さんですか。だいぶギャップありますね(笑)。気象予報士はどのような経緯で取得されたのですか?

いつかさん:学生時代に接客業をしていて、お客さんから直接ありがとうと言われるような職業に就きたいな、と憧れていて、自分の手で作品を生み出すお花屋さんになりました。
社会人2、3年目になると、資格を取る友人が増えました。私も理系の資格を取りたいなと思って、気象予報士を受けたという経緯です。

「森」から始まり、「海」を経て、「空」。一周まわってきました(笑)。
やりたいと思ったことでその都度恵まれてやってきました。全部つなげようとして今に至ります。

最近キャリアカウンセラーさんの診断を受けて、私は性格的にひとつのことをこつこつするのが苦手なんだと気づきました(笑)。
仕事とは別に、ラジオと実験をやっていることでバランスが取れてるんだろうなって思っています。

辛い時は先生の言葉を思い出す。かつての自分のような中高生に向けてメッセージを届けたい。

―全てが繋がったなと思う瞬間はありましたか?

いつかさん:気象予報士になった時と、気象文化大賞を受賞した瞬間は、夢のチケットを手に入れたという感覚と、やっとスタートラインに立てたと思いました。
でも、これまで1年間ラジオをやってきて、想像していたよりまだまだ険しい道だなって思っています。

中高生で進路に悩んでいたり、やりたいことをなかなか見つけられなかったり、信じた道があったのに受験に失敗して挫折しちゃったりとか。そういった過去の自分のような人達にピンポイントに届けたいっていうのがあって、ずっと続けています。

実験は、深夜に何時間かけてもうまくいかず、辞めたいって心が折れそうな時もあります。
子どもたちの笑顔の為にやってきたけど、自分が笑えないわ、と思うこともありました。そんな時、「実験というのは最初から絶対うまく行かない」「みんな乗り越えてやってきてる」「だんだんやってるうちにわかってくるようになる、考え方が柔軟になってくる」「うまくいかないことが研究の面白さでもある」等、ラジオで中高生向けにお話してくださる先生方の言葉は、研究者ビギナーの私にも響き、救われています。

ーラジオで中高生に伝えたい、届けたい思いもあるけど、ご自身の為にもなってるんですね。めちゃめちゃ素敵です。
東北大学の近藤先生(近藤先生note)が、「研究者の素質は楽観的であること」とおっしゃっていました。

サイエンスコミュニケーターとして、ここから更に発信していく。

ーこれから何をしていきたいですか?

いつかさん:私は、サイエンスコミュニケーターを自称しています。
サイエンス・エクスプレスを一人でも多くの方に知っていただき、聞いてもらいたいです。
視聴者層は大人が多くて、実際聞いて欲しい中高生層に全然届いていないなと感じていています。
今後、中高生とのタイアップ企画をやっていきたいです。

学校でチラシを配ったんですが、学生の反応は薄かったです。今後動画を作ったり、広報にも力を入れていきたいです。
発信って難しいですね~。

実験も続けていきます。去年1年間かけて真空実験の装置を作ったので、そこに飛行機雲に見立てた気体を走らせたいです。湿度や乾燥状態等の条件を変えることで、気体の消え方がどう変化するのかを見せていきたいです。

今興味を持ってない人にどうしたら届けられるかもずっと考えています。
私からすると、どの学問、どの研究分野も同じくらい興味深いなと思いますが、一般的には違うんですね。

地震や原発に関心を持つ方が多いと思ってましたが、最近は思いのほかiPSが人気です。どれにも興味をもってもらいたいという反面、興味の入り口は、人気でわかりやすいものにしたほうがいいのかな、と悩んでいます。

それから、今まで学んだり教わってきたことを結構忘れちゃってることに危機感を覚えてます。
自分も学習していきたいし、伸ばしていきたいです。

ー目指す方向や、挑戦していきたいことはありますか?

いつかさん:目指すところはいくつかあります。
飛行機雲の研究を科学館のような所に展示してもらいたいです。
他の実験教室の先生に実験の提案や情報共有をして、自分達が見つけた実験を、全国でやってもらえたら嬉しいです。

ー他の先生とコラボという視点で、JALやANAと組めそうですね。

いつかさん:提携系も狙ってます(笑)。将来的には、客員研究員になりたいなと思っています。あんまり大きな声では言えないですけど(笑)。

いつかさんの実験の様子
いつかさんの講演の様子

一歩踏み出す勇気。人生はもっと楽しくなる。

ー若手研究者に一言お願いします。

いつかさん:私のように、社会人をやってて科学が好きで、実験や研究やりたい、やってみたいけど、って方が実はもっといるんじゃないかなと思っています。

極地でこんな研究したら面白いんじゃないかと中高生が提案する「南極北極科学コンテスト」が国立極地研究所(https://www.nipr.ac.jp/)であります。受賞したら、南極に行く研究者たちが実際に実験してくれるんですよ。

―夢あるな~!めっちゃ面白いですね!

いつかさん:興味深いですよね。
YouTubeで、何年か前に賞をとった中高生が今何をしてるのか、があがってて、平日会社員で週末研究者の方がおられました。
それを知った時、「社会人で研究活動するのって変じゃない、いろんな生き方があって、私の在り方もいいんだ」って落ち着きました。

例えば、化学系の動画やnoteを見て楽しいなって思っているけど、自分は研究分野の蚊帳の外って思っちゃってる人がもしいるなら、一歩踏み出す勇気を持ってもらえたら人生もっと楽しくなるよっていうのを伝えたいです。
一歩動き出したら手やお金を貸してくれる人がいる。科学や研究の業界との関わり方は多様であると知って欲しいです。

ー一歩踏み出す勇気はどこから出てくるんですか?

いつかさん:じっとしていられない性格で、今楽しいことに飛びついてるだけかもしれません(笑)。誰もやってないことをやっていって、楽しさを共有したいというのがあります。

―見てるだけが好きで、それで十分な人もいますよね。やりたいけど自分にはできないと思ってる人はどうしたらいいでしょうか?

いつかさん:会社によっては、副業NGだったり色々あると思いますが、アカデミックな世界は別世界って思い込んじゃってる人いますよね。
この記事を読んで、実は自分でもできるんだって、誰かの気づきやきっかけになれたらいいなと思います。

いつかさんのラジオのHP、YouTube &Podcastはこちら!是非聞いてみてください!

HP(写真や図説を公開中)

https://saieku.com/

YouTube(短編動画を公開中)

Podcast(ラジオ音声全編を公開中)


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