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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter66

 Dr.パルナサスの鏡  ~ マツダ アテンザ XD GJ系 2013年式 ~
The Imaginarium of Doctor Parnassus ~ Mazda Atenza XD GJ 2013 ~

am 7:00 
銀座中央通りを アテンザで通勤している僕は 
いつも 外壁がすべて鏡面に仕上げられたビルの前で 信号に捕まる

僕は この場所を『Dr.パルナサスの鏡』と呼んだ

あるとき・・・
ブリオーニ製のウールスーツを纏う
ダヴィンチコードを解いた ラングトン博士のような紳士が
鏡の中では 隣に立つミニスカートの女子高生に
襲い掛かろうとする オオカミに見えた
また別の日には 
上着から足元まで ブランドで着飾ったOLが 
鏡の中では 
美しいピンク色の羽を捨てた ダークグレーのフラミンゴとして映った
このフラミンゴは くちばしから 周囲に煙をまき散らしている
どうやら 彼女はヘビースモーカーのようだった
そんな彼女が 侮蔑の表情で目を向ける先には 
段ボールを たくさん持ったホームレスがいた 
彼は 知的で鋭い眼光の 大鷲に見えた 

この壁は 僕にだけ 
映り込んだ人の 本性を見せる不思議な鏡だった
あるとき 
自分は どう映っているのだろう・・・
そう思った僕は アテンザから乗り出して鏡をのぞいた

そこには・・・
暗黒宇宙をさまよう孤独な旅人 
太陽光を パネルでキャッチできなくなった 
ヴォイジャー1号の姿が浮かび上がっていた

遠くで輝く 太陽は ライフラインのはずなのに
眩しすぎる存在から 目を背ける ガラクタ人工衛星だった・・・ 

カノジョと別れて 2年・・・
真っ赤な2008年式 GH系アテンザの 
助手席をリザーブしていたカノジョの口癖は

「お互い 隠し事はなしよ!」 だった
しかし・・・ 
 
カノジョとの関係が 日常化していく中で 
デートも オートメーションのように こなすようになり
いつしか トキメキを 感じなくなった僕は 
残業と言う名目で デートをキャンセルして 
同僚との飲み会を優先するようになった 

♪ Valerie Broussard - Actually ♪

そして カノジョは 出て行った・・・
いなくなって 初めてわかる喪失感・・・
時間が戻せるならば あの頃の自分を 殴ってやりたかった

それからの2年間は 僕にとっては 
Dr.パルナサスの人生・・・ 1000年よりも長く感じられた

そして・・・
今日 1月11日・・・

僕は いつものように Dr.パルナサスの鏡の中に 
ガラクタ人工衛星(自分)を見ていた

そのとき・・・
ボイジャー1号の太陽電池パネルに 
あの遠くで輝く 眩しい太陽光が照射された
これまで視線を外していた僕は 
条件はbんしゃのように 光の根源に目を向けた

あっ・・・
真っ暗な宇宙空間の中で 唯一輝き続けた 太陽は 
カノジョだった・・・

別れた後 濃紺のGJ系アテンザに乗り換えていた僕と同じように
ロングヘアーだったカノジョは ショートボブにイメージを変えていた  

そして ずっと前から この場所で 僕のことを見ていた・・・

運転席を飛び出した僕は カノジョの前に立った

「僕は・・・ 君がいないと どこまでもガラクタだ」

カノジョは 
そんな 僕の頬にそっとキスをしながら呟いた

「気付いてくれる日が きっと来ると 思ってた・・・」

1月11日は鏡開き 
Dr.パルナサスの鏡が 砕けて消えた日 
アテンザの助手席は 再びリザーブされた


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