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映画と車が紡ぐ世界chapter115

地下鉄のザジ ルノー カングー 1.6 2003年式
Zazie dans le métro Renault Kangoo 1.6 2003

豊洲駅の2番ホームから
午前1時00発車の電車に乗ったカップルは 幸せになれるという

「どうしても 今日 乗りたいの」

年明け早々 北国への転勤が決まり 遠距離恋愛に不安を感じる
僕とカノジョを乗せたカングーは 駅に向かった

Shiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiin

終電を迎え終えた地下通路は 物音ひとつしない
無音の音が耳の中に響いた

「どうして・・・ まだ午前0時なのに・・・」

カノジョはザジ(Catherine Demongeot)のように泣いた

遠くから ストームトルーパーのような駅員が睨んでいる
慌てて僕は カノジョの背中を押した 

 

Jyeeeeeeeeeeeeeeeeee と鳴く 
ネオンサイン『Cafe des Deux movie』の下にある扉へ避難する

Karan 
という音と共に フワリと心地よい暖気が僕たちを包む
カウンター席が6つと 
テーブル席が2つの小さなCafébarには
キューピー人形のように つるりとした肌に
ポアロのような口髭を生やした バーテンダーがいた

涙が止まらない カノジョに言った
「都市伝説なんだから 仕方ないじゃないか・・・」

「幸せの電車は 確かに ありますよ」
右の口角をキュッとあげる 独特の話し方のバーテンダーは 
ジェームスボンドが こよなく愛したカクテル
”ヴェスパー”をカノジョに差し出しながら言った

「しかし・・・
 あの電車は 本物の愛を持つ人だけしか乗れないのですよ
 自分の想いを 相手に押し付けるような関係では 
 本当の愛を持っているとは言えません
 意識せずとも 常に相手を思い 労わる 
 それが 本物の愛なのですよ」

いつからいたのか カウンター席に座る 
山高帽にちょび髭の老紳士が続いた

下を向いて 震えるカノジョを 僕はギュッと抱きしめた

「それなら 僕たちには資格があるはずだ!」
さっきまで 
カノジョの重たい愛情と 
離れ離れになる環境で不安いっぱいだった しかし・・・
老紳士の一言が 
霞みがかった僕の行き先を示してくれた
もう 迷わない

「そのようですね それじゃあ そろそろ時間ですよ」

ニコリと笑うバーテンダーが 指をパチンと鳴らした

気付くと僕たちは 駐車場に停めたカングーの中にいた

時計は 午前0時45分

ホームには 僕たち以外誰もいない
目の前に貼られた マンション広告は
いたずら書きされた ちょび髭のキューピーだった

Faaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaan

午前1時00分 列車が入ってきた

「遠くて 寒い街だけど 一緒にくるかい?」

北の街で降った大雪のおかげで 
大幅に遅れた最終電車
カノジョの想いが 都市伝説を本物に変えた

♪ Nylo - Someone like you ♪

誰もいない 車両に乗り込んだ二人を
山高帽のチャップリンのマナー広告が 迎え入れたとき
駐車場に取り残されたカングーの
バックミラーにぶら下がっていたストームトルーパーが 
きらりと輝いた

ザジが体験したように 
地下鉄には ちょっとした ミラクルが存在する


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