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映画と車が紡ぐ世界chapter98

ビューティフル・マインド メルセデスベンツ  CLK DTM 2006年式
A Beautiful Mind Mercedes-Benz CLK DTM 2006

57年前の8月29日
サンフランシスコのキャンドルスティック・パークで
最後のコンサートを行った ビートルズ 

ペーパーバック・ライターの僕は 
コスタビクトリアのデッキから ホワリと空を見上げた
真夏の空に 似つかわしくない どこまでも高く碧い空が続く

「また あの人のことを考えていたでしょ!」
隣でAnnnaが叫ぶ
小麦色に焼けた肌とアゲハチョウの髪飾りが特徴的な少女は

「私がいるからいいじゃない!」
と頬を膨らませた

「そうだな・・・」
2年前に別れたカノジョへ 手紙を書いた
もう一度 同じ道を歩けないかと・・・
大桟橋で 乗船券を手に5時間待った・・・しかしカノジョは現れなかった

「パソコンと小説 そしてAnnaちゃんがいれば いいんでしょ」
そう言って カノジョは出ていった
返す言葉も見つけられず 
カノジョの後ろ姿を見つめた僕の涙を
そっと 掬(すく)ってくれた
盃のような オレンジ色の半月が 
今日も 僕とAnnnaを見守っていた

翌朝目覚めると
やさしい月に代わり
やんちゃに燃えるお日様の下で 船は名古屋港に寄港した
あてもなく 
ふらりと下船した僕とAnnnaは 
元素記号47番(シルバー)色の CLKガブリオレが停車するカフェに入った

カランとした店には 一組のカップルがいた
CLKの所有者であろう 
すこし日に焼けた肌に 淡いピンク色の麻のジャケットを羽織った紳士は
向かいの女性を一瞥もせず 
CLKを見つめながら 漆黒のコーヒーを飲んでいる
同じように 
スカイブルーのスカーフを巻いた女性も
只管 スマートフォンを見つめていた
 
二人に 会話はなかった
愛情は とうに枯渇しているのだろう そう思ったとき
何の目配せもなく 
同時に 席を立った二人 
ジバンシーのキセリュズルージュの甘い香りが 囁いた

~いつまでも どこまでも~

!!
それは 遠い昔 僕がカノジョに誓った言葉だった

「あの二人 なんか不思議・・・」
耳元で呟くAnnaの一言が
僕の左脳の中で ビートルズの旋律に変換された

♪ The Beatles - Paperback Writer ♪

~ 僕はしがない ペーパーバック・ライター
  好きな女性がそばにいても カノジョを連れ出す勇気もない
  自分の描いた ストーリーの中で 
  ロマンスを満喫する臆病者 ~

思わずAnnnaを 抱き締める・・・

「痛いよ・・・ ヤダよ・・・ 君がほしいのは 私じゃないでしょ!」
涙を浮かべる Annnaを見て 我に返る僕・・・

「ごめん・・・」

相手先不在の言葉が 
フワリフワリと浮遊して 店の外へ出ていこうとしたとき
CLKの二人と入れ替わりに入ってきた
ペイズリー柄のフレアスカートが それを捕まえた

「わたしこそ・・・ ごめんなさい・・・」
純白のブラウスに
明らかに長くなったストレートヘア・・・カノジョだった

「今からでも ご一緒できる?」

「いつまでも どこまでも!」

「Annaちゃんは?」

「君の隣にいるよ」
そう僕が言うと カノジョは言った
「Annaちゃん ごめんね!
 私も やっぱり彼が必要なの また一緒にいてもいいかな?」


僕の幼馴染であり・・・
僕が書いた小説『嵐の海で』の主人公でもある
永遠に12歳のAnnaは ニコリと笑って 頷いた 
天才数学者ジョン・ナッシュ(Russell  Crowe)を見守る
諜報員パーチャー(Ed Harris)のように

コスタビクトリアの汽笛が啼いた 

カノジョと僕は 2年ぶりに強く 抱きしめあった
そんな 二人を見守るように アゲハチョウがフワリと飛んだ


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