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映画と車が紡ぐ世界chapter139

レ・ミゼラブル アウディ・Q3 8U系 2017年式
Les Misérables Audi Q3 8U 2017


♪ TEL ♪
「Sayoko 電話よ!」

「はーい」

!!
母に呼ばれて ダイニングの電話に出ようとした私の前に 突然大きな壁!

「こんな時間に電話してくるなんて ロクな奴じゃない!
 そんな男と付き合うな!」

今どき20時を『こんな時間』と呼ぶ父は 元警察官 
21世紀の日本では考えられない 我家のルールが 
私をクモの巣に はまった蝶のよう拘束していた

私は父に反抗したことはなかった でも・・・
その日 私を拘束してきた紫色のチェーンが 切れた

「もうすぐ30になるのよ! いい加減 子ども扱いはやめて!」
生まれて初めての反抗

「お父さんのおかげで 恋人どころか 友達も作れないじゃない!」

『お前の親父さん怖いから』・・・ 『Sayokoの家は厳しいから・・・』
そう言う仲間たちは 
いつも私との距離を 2歩離れた場所に設定していた 

そんな思いの弓によって 押し出された言葉の矢は 
父の左胸にドスンと突き刺さった

無言のまま 後ろを向いた父の背中は
ジャベール(Russell Crowe)が身を投じたときのように
いつもより二回りも小さく見えた

♪ Les Misérables - Javert's Suicide ♪

その日から 我家にルールは無くなった
携帯電話も手に入れた
自由だ・・・

大空を自由に 飛べるようになった私は 
気持ちを寄せていた彼との距離も縮めることができた

「一度しっかり ご両親に挨拶しないと・・・」

結婚を意識した彼の言葉に 
私は 浮雲の上を浮遊するような 心地よさを感じた

しかし・・・
彼を両親に紹介するには しっかり計画が必要だ
今はまだ その時期じゃない
私は 自らルールを作った
彼とのデートは 家の近くの駅で終わりにしていた

21時30分・・・
かつての我が家の門限21時を超えている
以前なら 父が怖くて 絶対にできなかったこと
それが 今では何の躊躇もなくできてしまう
少しだけ罪悪感を覚えながら 家路に付こうとした 

そのとき・・・

ポツリ
小さな雨粒は すぐにスコールへと変わった

「予報では 雨なんて言ってなかったのに・・・」

新興住宅地の駅前・・・
平日はサラリーマンの帰宅ラッシュで賑わうのに
土日になると 店はすべて閉まっている
タクシーは 一台も止まっていない 終バスは21時だった・・・
門限を守っていた私には知る由もなかった街の姿・・・誰もいない街
家まで歩くと20分 雨の中は きつい・・・ 

「・・・どうしよう」

そう思った瞬間

Fannnnnnnnn!
クラクションが鳴った

Q3・・・父だった

「偶然近くを通ったんだ・・・」
ウィンドウを開けて父が言った

あの日以来 父と二人きりになったことはなかった

Q3の車内は 重力が3倍に感じられる
このままだと 押しつぶされる・・・ そう思い始めたとき

「この車は お前も知ってる通り アウディQ3だ
 それに合わせて クエスチョンを3つ させてくれ」

「えっ?」
私が状況を把握する前に 父はしゃべり始めた

「まず1つ目 恋人はできたか?」

「・・・うん」

「そうか それじゃ 二つ目 仲良くやっているか?」

「うん・・・」

「最後のクエスチョンだ 幸せか?」

私は胸を張って言った

「はい」
大きく頷く頷いた父は それから 一言も発しなかった

家のガレージに付いて 
父が運転席のドアを開けると Q3の車内灯がほの暗く 点灯した

!!

運転席に付けられた灰皿には 吸殻がこぼれるほど 詰まっていた・・・

私は知っていた 
父がタバコを吸うのは 車内で人を待つときだけ・・・

「職業病だよ・・・」
父はよく言っていた 警察官だったころの習慣・・・

!!

「お父さん・・・」

私は 少し前を歩く父に声をかけた

♪ 携帯 ♪

とその時 携帯が鳴った・・・ 彼からだった

「今! 何時だと思っているの! 明日にして!!」

私は 父の娘なのだ

♪ Les Miserables - Epilogue ♪


ジャヴェールが 川に向かって飛び込んだのは
192年前・・・ 1832年6月7日のことでした


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