映画と車が紡ぐ世界chapter165
ニード・フォー・スピード:
フォード・マスタング シェルビー GT350 2016年式
Need for Speed:Ford Shelby Mustang GT350 2016
am 10:00
今年一番の寒波が襲来した Café Mustangには
フォードマスタングのフォトグラフと
マスターこだわりの 82℃のコーヒーに誘われて 今日も常連が集う
「完全になくなりましたね・・・」
保険会社のセールスマン ブリット氏(2005年式を所有)が
庭の鉢植えに水をやる マスターの後ろ姿を見ながら
日焼けした額縁の跡を 指でなぞる
「確かに・・・ マスターの横に唯一残っていた あの写真も外された」
C大学の史学部教授 マック1氏(1970年式所有)が 重い口調で続く
「吹っ切れたんだろう・・・」
向かいの花屋の店主 初代氏(1968年式所有)が
まだ冷めぬコーヒーをFuu Fuu しながら 付け加えた
店の中に飾られている 無数のマスタングの写真の中から
GT350 シェルビーだけが 完全に消滅した
しかし・・・
常連たちは マスターの前で その話をしない
真っ白なシェルビー(2016年式)と一緒に写っていた
白いワンピースに ブルーのロングスカートの女性のことを
マスターが シェルビーと呼んでいたことも・・・
3年かけて 消えたシェルビー・・・
それはマスターの心の整理に費やした時間 常連たちは そう思った
その時・・・
Caraleeeeeeen 扉が開いた
誰もいない・・・
北風のいたずら・・・ 誰もがそう思ったとき もう一度
Caraleeeeeeen 再び扉が開いた そして・・・
Can! Can!
常連たちの足元に
ブルーの首輪をした 子犬のダルメシアンが2匹・・・
ジョウロを持ったまま 慌てて戻ってきた マスター
犬を追い出そうと 首輪に手をかけようとしたとき
!!
マスターの動きが止まった・・・
常連たちが 一斉に マスターと犬たちを見つめる
Caraleeeeeeen
三度目の扉が開いた 3匹目は 大型のダルメシアンだった
「あっ・・・」
ブリッド氏が 指さした店の外には
もう一頭 ダルメシアンを引く カノジョがいた
「マスター・・・
こんなにワンちゃんが入ってきたら 当然 今日は閉店だねぇ・・・」
そう言うと マック1氏は 常連二人の背中を押した
ダルメシアンたちは 首輪にメモをつけていた
1年前・・・
愛車のシェルビーを失った 助手席にいた カノジョの弟も一緒に・・・
巻き込まれた事故だった・・・
しかし・・・ 言い訳はしなかった
カノジョが
婚約指輪を返しに来た時 弟のダルメシアンを連れていた
それは犬好きのカノジョの弟に プレゼントした犬だった
メモを読んだ後 ゆっくりと 店の扉を開放した
サイフォンから棚引く湯気が 外に立つカノジョを フワリと包み込む
2016年型 マスタングのカタログを手にしたカノジョは
4匹のダルメシアンと共に 店に入っていった
「I feel ・・・」
「the need for speed」
「Do you?」
3枚のメモと共に 3年ぶりにCafé Mustangに シェルビーが戻った
♪ Linkin Park - Roads Untraveled ♪