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映画と車が紡ぐ世界chapter128

ストレイト・ストーリー マツダ デミオSPORT DE系 2013年式
The Straight Story Mazda Demio Sport DE 2013


「キャンセルできないんだ・・・ ゴメン!」
短い両手の指を 思い切り伸ばして 顔の前で手を合わせる

「開花宣言の日に 千鳥ヶ淵でデートする約束だったのに・・・
 私との約束が 日に日に軽くなっていくみたい」

カノジョの返事は フワフワしていた

「必ず 埋め合わせするから・・・」
そう言う僕に

「去年の誕生日も クリスマスの分も まだ埋まってないけどね」
カノジョの呟きは 僕のハートに Zakuri と音を立てて 突き刺さった

「仕方ないじゃないか・・・」
神様も 酷なことをする 
一年中 忙しいわけではないのに 
カノジョとの大切な日ばかり アクシデントを起こしてくれる

「仕方ないじゃないか・・・」
もう一度 囁きながら 僕は取引先の扉をノックした

それなのに・・・
大切な約束を反故してまで挑んだ商談は 結局 不発に終わった 

~約束が 日に日に軽くなっていくみたい~

頭の中で 繰り返されるカノジョの一言

Fuuuuuuuuuuu
ため息をつきながら 見上げた空は 
すでに 星屑の世界だった

それは 老農夫が
時速8kmのトラクターを駆って 560km離れた兄の下に向かう物語
映画『ストレイトストーリー』を思い出させた
出発前夜・・・
老農夫 ストレイト・アルヴィン(Richard Farnsworth)と
娘のローズ(Sissy Spacek)が 見上げた夜空を

「カノジョにも 見せたかった・・・」

!!
そのとき 星が流れた

「よし! 今日のうちに 東京にもどろう!」 
決心した僕だったが すでに 東京行の終電は出た後だった

どこまでも運がないと思ったとき
再び アルヴィンの顔が浮んだ
何度も 壊れるトラクター 彼もついてなかった
でも 彼は 出逢った人たちに助けられた

!!

そして 僕も・・・ 
駅前のレンタカー店に Shinagawaナンバーの車が停まっていた
店員は 東京まで送り戻す手間が省けると 半額でレンタルしてくれた
神様の気まぐれの おかげで  
僕は アルヴィンのトラクターの
12倍の速度に 8倍の燃費の デミオという相棒を手に入れた

オリオン座の見守る星空の下
安曇野インターの入口で 
『高崎 以外のどこか』と書かれたプラカードを持つ
ヒッチハイカーの青年が目に入った

そう・・・ アルヴィンも 家出娘を乗せていた

「旅は道連れだよな!」
相棒に同意を得ると 彼を助手席に招き入れた

「自分は 花農家なんて継ぎたくないんです 自分の道は自分で決めたい」
青年は言った

「それに 結婚相手も親に決められてしまったんですよ!
 令和の時代に ナンセンスでしょ!」

確かに・・・

「相手は 悪い人じゃないんです・・・むしろ・・・
 でも・・・ 彼女を受け入れたら 親の言いなりになってしまう!」

Don!!
インパネに 重いハートを乗せた拳が 炸裂した

「今のキミのほうが よっぽど ご両親の束縛を受けているね」

「どうしてですか! 僕は自由だ!」
目を赤くして睨む青年をよそに デミオの窓を全開にした
冷たい風が 青年の よどんだ思いを慰める

「両親から逃れるために家を出てた
 両親が薦めるから 彼女と一緒になれない ほら・・・
 君の主張は 主語がすべて ”両親”だ」

「それじゃ・・・ 僕は どうすれば いいんですか・・・」

力なく うつむく青年に言った
「君だって もう わかっているじゃないかい」

「えっ・・・」

「高崎以外のどこか・・・と書かれたプラカード
 あえて”高崎”と書く必要はないよね
 いやなら その近くで降りなきゃいいだけのことだ
 君は 潜在的に 高崎に戻りたがっているんだ」

青年の頭をなでながら 僕は続けた
  
「だから僕は・・・ 君を高崎まで送る」
助手席から すすり泣く声が聴こえた

青年の家は 何代も受け継がれてきた 重厚な日本建築だった
深夜にもかかわらず
両親と共に ロングヘアの彼女が 彼を優しく迎え入れた

「僕に あんなことを 言う資格があったのだろうか・・・」
独りぼっちになった僕は 東京に向かった

♪ Pinkzebra feat. Benji Jackson "We Won't Stop Dreaming" ♪

23:55・・・
玄関のチャイムが鳴った

「こんな夜遅くに・・・誰・・・」
そっと モニターを覗く

!!

ピンク色のカーネーション
そして星空のように 
ちりばめられたカスミソウを やっとこ 抱える短い指・・・

Fufufu・・・

キッチンに戻ったカノジョは
コーヒーカップを温めながら思った

もうしばらく 
この 星空(花束)を 見つめていよう これだけ 待ったのだから・・・


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