見出し画像

映画と車が紡ぐ世界chapter138

ナイアガラ ジャガー・XK140 1957年式
Niagara Jaguar XK140 1957


カノジョは 近所の人に よく声をかけられている
それも 僕に気付かれないように こっそり・・・
 
「この間は・・・ ごちそうさま! またね!」

昨日は 交番勤務のお巡りさん
今日は 新聞配達のお兄さんに 声をかけられていた

カノジョは 何をしているのだろう
ペトリコールの匂いがツンと鼻を刺激した
見上げると 
モッタリとした都会の晴天
雨の降る気配はないが 僕の中で 小さな雨雲が発生していた
 
僕たちは 半年前に結婚した
山と海が背中合わせ 
大自然に囲まれた寒村から 
生まれて一度も外に出たことのないカノジョの瞳には
450km離れた この大都会が どのように映っているのだろう
 
テレビもインターネットもない
身内は おばあさんだけだったカノジョに 都会暮らしが馴染めるだろうか
そんな不安の中での出来事だった

「お~! Sakiちゃん またよろしく!」

喫茶店のマスターまでも・・・
 カノジョは いったい何をしているのだろう・・・

南国のスコールを髣髴させる大雨の晩 
僕とカノジョが見た映画は ナイアガラ
可憐すぎる女性と それを超える絶佳な瀑布が織りなすstory
外の雨を見ながら 

「ナイアガラの下にいるみたい!」

無邪気に 燥ぐカノジョだったが
エンディングを向かえるころには いつもよりぐっと 僕に体を預けてきた

「いつまでも 一緒だよね」

元気に田園の畦道を飛び回っていたカノジョが とても華奢に見えた

「あの子は寂しがり屋なのよ
 だから 一人にしないでくださいね・・・」

笑顔の おばあさんが 僕に残した最後の願いが 胸の中で木霊する
 
「はい! 必ず!!」

目の前で僕を見つめるカノジョ
そして 目を瞑ると にこりと微笑む おばあさんの両方に 僕は誓った
しかし・・・
日に日にカノジョは あの日 観たモンローと重なり合っていく
僕の中の雨雲は いつしか積乱雲になっていた
 
「今日は 記念日だから 早く帰って来てね」

6月1日の朝ぼことだった
 
記念日・・・? 何の・・・?
結婚記念日には程遠い 
もちろん誕生日ではない 告白した日・・・
いや あの時は木枯らしが吹いていた
 
気になった僕は グーグルで6月1日を検索する
恋多き女性・・・ Marilyn Monroeが生まれた日・・・
発達した積乱雲から ギラリと稲妻が流れた
 
結局僕は 
何の記念日かわからぬまま 家路についた
時計の針は 22時を回っていた
 
「ごめん・・・ 急いで帰ろうと思ったんだけど・・・」

いつものようにガレージまで出迎にきたカノジョは
両手を背中に回して 頬を膨らましている
 
「もう しょうがないなぁ!
 その代りに ヘッドライトをハイビームにして!」
 
???
 
言われるままに XK140のヘッドライトをハイビームにして点灯させた
どんよりした 
都会の夜空に ヘッドライトの光軸が浮かぶ
その前に立つカノジョの横には・・・ なぜか 扇風機!
 
 「いくよ! えいっ!」
右手で リモコンのスイッチを押したカノジョ すると・・・ 
無数のシャボン玉が 飛び出した

夜空に舞ったシャボン玉は 
ヘッドライトの灯りを受けて 虹色に輝いた  虹・・・? 

そうか! 僕が初めて あの街を訪れたとき 
夕立を避けて酒屋の軒下に避難した僕
そのとなりに カノジョがいた

トトロが ジャンプしたような 猛烈なスコールが終わったとき 
カノジョは言った  

「あっ虹・・・」 
目の前に 広がる海の上に 大きなリング状の虹が浮かんでいた 

「輪っかの虹は 愛を運ぶんですって」
 カノジョが 言ったその日が 6月1日だった
僕とカノジョの 虹の記念日は 二人が出会った日 

ローズ・ルーミス(Marilyn Monroe)は
ナイアガラの下で 虹を見れたのだろうか・・・
数えきれないリング状の虹を見つめながら 僕は思った 

「はい! これ!」
カノジョの手には真っ白なお皿 その上には 金色のプリンが乗っていた

「貴方の大好きな プリンです!  
 近所の人に 何度も試食してもらったから 
 おいしさは お墨付きです! いかがですか?」 

♪ Jealous Guy - John Lennon ♪

!!

おまわりさん・・・ 新聞屋さん・・・ 
そして喫茶店のマスターの顔が浮かんだ

「もちろんさ!」 

ジャガーXK140のヘッドライトに照らされながら
僕たちは 金色のプリンを頬張った 

シャボン玉が飛び交う中
僕のハートの雨雲も 
いつしか消えて 大きな虹の輪っかができていた 


※ XK140はMarilyn Monroeが所有していたスポーツカーです





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?