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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter12

男と女 ~ アルファロメオ156 2.0JTS 2004年式 
Un homme et une femme ~ Alfa Romeo156 2.0JTS 2004 ~

アルスターコートの男は
Tokyotowerの展望台にある
Cafe la Tourの西側席から六本木ヒルズを眺めていた

ALBERTA FERRETTIの桃色のストールが
お気に入りだったカノジョと一緒に
金曜の週末 アルファ156でケヤキ坂を下るのが
僕らのデートコースだった

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 週末の六本木名物である大渋滞は 
真正面にそびえ立つ鉄塔を 長い間眺めていられる最高のsituation
結婚して2年たっても このイベントは続いた
僕らに子供ができても 共に白いものが目立つようになっても 
続くと信じていた
「いつか TokyotowerのClub333で ボサノバを聞きたいナ」
という彼女の口癖に対して
「それじゃー君の誕生日は タワーで」
というのが僕の決まったセリフだった
しかし カノジョの誕生日とClub333の演奏日が重なる前に
カノジョは逝ってしまった
 
ショートダッフルコートの女は Cafe la Tourの東側席で 
お台場の観覧車を見つめていた
1年前 この観覧車は取り壊されるという うわさが流た
「透明のかごに乗って 頂上に到着したとき 
 Tokyotowerを見ながら キスをすると
 永遠に幸せなカップルでいられるんだ」
彼から聞いた都市伝説・・・
観覧車が取り壊される前に 行こうと約束した
しかし 観覧車の取り壊しは延期になった
早く行こうが 近いうちに行こうになり 
時間があれば行ってみように変化した・・・ 
そして 彼と私の歯車のほうが 先に壊れてしまった 

Astrud Gilberto - Agua de Beber

Thursday`s concertが始まる
男は Beerを飲み干すと席に着いた
女は ほとんど口をつけなかったCafeを置いて 
   Cafe la Tourを出た

この冬一番の寒むさにもかかわらず 
Thursday`s concertの客席は ほぼ満員だった
女は 一つだけ空いている席を見つけた
「空いてますか?」
「どうぞ」
瞳の潤んだカノジョは 桃色のストールを巻いていた
「リカ・・・」
男の口からこぼれた妻の名前は ギターの音で消された

女は 隣の男が 
別れた彼と同じウィングチップのリーガルを履いていることに気付いた
『男と女』(1966)が流れたとき 女の目から大粒の涙がこぼれ始めた

男が そっとハンカチを渡し 少しだけ肩を女のほうに向けると
女は男の肩に頭をのせて泣いた

Singerは カノジョの泣き声が聞こえなくなるように 
少しだけvolumeを上げた

6等星ほどの小さな恋が生まれた



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