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映画と車が紡ぐ世界chapter118

第17捕虜収容所 イスズ ビッグホーンRS 73GW型 2001年式
Stalag 17 Isuzu Bighorn RS 73GW 2001

男子寮は 「第17捕虜収容所」と呼ばれていた
梅林に囲まれ 
春には甘い香りが立ち込める 長閑なこの場所が
なぜ 捕虜収容所などと呼ばれているのかといえば
門限17時と女人禁制という
2大看板をはじめとする 17の厳しい規律があったことに起因していた

『伝統こそ道なり』 
という玄関に掲げられた書を
こよなく愛する鬼軍曹のような寮長は ビックホーンと呼ばれていた 
禁忌事項を破った者に 
ホイッスルを吹いて警告するからという者
また 
寮の前にある駐車場に停車された愛車 Isuzu Big Hornに由来するという者
その説は二つに割れていたが 正解を確認する寮生はいなかった
できれば 寮長とは距離をおきたい だれもがそう思っていたからだ

軍隊のように厳しい寮生活だったが 
仕送りを期待できない僕にとっては ここを追い出されるわけにはいかない
寮則だけは 確実に順守すると誓った

不思議なもので
半年もすると 規則は 完全に生活リズムになった
愚痴をこぼしていた カノジョも 
僕の門限に合わせた結果 自身の成績も上がり 何も言わなくなった 

しかし・・・ 
突然の腹痛で 学校を休んだ僕を介護するため
カノジョは こっそり寮に忍び込み 僕を看病した
二日間 うなされ続けた僕が 
ようやく峠を越えたころ 看病疲れのカノジョが 
部屋で居眠りしているところを 寮長に見つかった

 「本寮 始まって以来の有事だ!」
今にも泣きだしそうなカノジョの横で 怒髪天の寮長
彼の頭に 大きな角が見えた
Big Hornの由来は どうやらこれが正解のようだ 

「退寮も やむを得ないか・・・」
そう思ったとき 寮長が ぼそりと呟いた

「どうせ 病気を口実に いちゃついていたんだろう 
 つまらい女だ!」

!!

カノジョへの侮辱に 
我を忘れた僕の右拳は 気付けば 彼の左頬を捉えていた

「きっ貴様! 退学を覚悟しろ!」

その時・・・
焦点の合わない視線で部屋の外を見ていたカノジョが 
突然走り出した!

「貴様! 逃げるのか!」
後を追う寮長 
フラフラしながらも続く僕

カノジョは 寮の厨房に飛び込んだ!
!! なんか 焦げ臭い・・・

厨房は コンロの油が引火して 火柱が天井を焦がし始めていた

「あっ 火をつけっぱなしだった・・・」
寮長が叫んだ

厨房入ると同時に カノジョは 
着ていたコートに水を含ませ コンロに被せた

Jyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu

水蒸気と共に 獰猛なオレンジは姿を消した

「よかった・・・」
よろけるカノジョを 抱きかかえようとしたとき 
一緒に倒れそうになった僕らを 寮長が支えた

「お前たちの騒動のおかげで 大事に至らなかった・・・
 だが・・・ 礼は言わん」
そう言うと寮長は 僕らを 厨房から追い出した

その後・・・
腹痛の原因が寮の食事による 軽い食中毒だったこともあり
カノジョが寮の中にいたことは うやむやになった

後日カノジョのもとに 
送り名のない贈り物が届いた
中身は あの日 黒こげになったコートより数段上等な 
バーバリーのダッフルコートだった・・・

・・・ ・・・ ・・・

「ここはなぁ 父さんが4年間世話になった寮だ!
 飯は旨いし! 厳し寮長もいる! お前もしっかり勉強できるだろう!」
そう言うと 息子の背中を押した

玄関には 頭髪は真っ白になっていたが  
頑固な雰囲気は あの頃のままの寮長がいた
そして 駐車場には あの頃と同じビックホーンが駐車されている
敷地の外で家内を待たせ 
僕は 息子と二人で 寮に入ろうとした

Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiii

懐かしいホイッスルが 鳴り響いた 

「そこの方! 奥さんも 一緒に連れてきなさい!」
玄関から 寮長が叫んだ
寒さがまだ 
身に染みる時期だったが 
梅林のつぼみは 大きく膨らみ始めている
雲の合間から フワリと顔を出した太陽が 寮の玄関を照らすと

 「伝統は育むものなり」
女人禁制の文字が 書き換えられていた

遠くから 
吹奏楽部の演奏が聞こえた
♪ 第17捕虜収容所 テーマ曲 ジョニーが凱旋するとき ♪




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