映画と車が紡ぐ世界chapter140

戦艦バウンティ号の叛乱 ポルシェ911 GT3 2014年式
Mutiny on the Bounty　Porsche 911 Gt3 2014

私たちの島には　
伝統的な漁法がある
引き潮になった入り江に　魚を追い込むため
舟の上や海岸から石を投げる　投擲漁法だ
祖父は　
島一番の投擲漁師だったが　父の代になると
効率の良い　沖合漁法が隆盛し　
投擲漁法は　神事でしか見られなくなった

しかし・・・　あの悪夢の日曜日・・・　
突発的に発生した嵐　
海は　父を　ワタツミの神様の下へ連れていってしまった
そして・・・
この島の漁は 　再び投擲漁法になった

「今日も　大漁じゃのう」

「まだまだ　未熟なくせに　神様は　何故かアイツを贔屓する！！」

マリンブルーの海に浮かぶ　真っ白な舟の上
舳先に立って　石を投げるのは　幼馴染の彼
石を投げるたびに　
どんぶりと揺れる舟のしんがりで
Puhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaと
煙草をふかしながら　毒づいているのは　私の祖父と　彼の祖父
そんな　二人の老人に挟まれながら　海の世界に逝った父を感じる私

いつも　この四人で漁に出る
穏やかで　平和な日々
大人になっても　ずっと　こんな日が　続けばいいのに・・・
そんな私の小さな想いは　
舟が港についた途端に　儚く崩れた

「Kenji君！　今日も調子いいねぇ！」

漁を終えた私たちを待ち構えていたのは
バウンティ号のブライ船長（Charles Laughton）のような
どこか　胡散臭い　島の村長だった

！！
村長の横には　見かけたことのない黒づくめの男がいた

「このお方は　南海メッツの　スカウトさんだ　
　Kenji君！　キミに　話があるらしい」

彼の投げる石は
島の誰よりも遠く　そして誰よりも正確な場所に届いた
そんな彼の能力に目を付けた村長が　内緒で男を　呼んだらしい
しかし　彼には全く興味がないようだ

真っ白なシャツを　
汗でびっしょり濡らす村長も　
直射日光を浴び続けているのに　
汗一つ出さない　黒づくめの紳士
どちらにも目を向けず　彼は　ひたすら　舟の整備を続けている
　
「君が　プロ野球選手になって活躍してくれれば　この島も有名になる
　そうすれば　島の　みんなが豊かになるんだ」

村長の言葉は　彼の耳に全く届かない
しかし　そんな彼の背中に向かって村長が　ほくそ笑みながら続けた

「それに・・・　プロになれば　ポルシェだって手に入るぞ　」

ピクリと反応した彼・・・
　
「ポルシェ？！」
彼にとって　ポルシェは特別な車だった

「いつかはポルシェに乗れるような男になれ」
それは　父と一緒に　ワタツミの神様の下へ行った　
彼のお父さんの口癖だった

あの悪夢の日から　二日後・・・
島の砂浜に　
ポルシェ911のミニカーが漂着した
彼は　それを父親からの贈り物だと信じている
彼にとって　ポルシェは　お父さんとの絆そのものだった

彼の　心が　揺れているのが私にはわかる

「行ってきなさいよ！」
彼の背中を押す私・・・
その晩の月は　
いつもより大きく　そして　涙の絶えない私の目と同じ真っ赤な満月だった

黒い紳士が　島を発つ日・・・
臆病な私は　本土とつなぐ連絡船の発着場に行くことができず　
一人・・・　
停泊した漁船の中にいた
空と海の境目を　眺めながら
時間が　どんどん　流れてほしいと願った
彼との思い出が　風化してしまうくらいに・・・　
そのとき・・・

「こんなところで　何やってんだ！」

！！

突然　目の前に彼が現れた！

「Kenji・・・どうして・・・」

「フレッチャー・クリスチャン（Clark Gable）は
　大切な人を　一人ぼっちにはできないとさ　ho　ho　ho」
彼の後で　
いつものように　煙草を　Puhaaaaaaaaaaaaaと一気にふかしながら
二人の老人が　笑った

♪　Taylor Swift - Everything Has Changed ft. Ed Sheeran　♪

私たちは　いつものように　海に出た

「Kenji・・・ホントにいいの？」
涙が止まらない・・・　

「泣き虫のお前と　憎らしいおじいたちを　置いていけるか！」
そう言うと　彼は　立て続けに石を投げた　

すると・・・
イワシの群れが　私たちの舟の真横に　集まった

「あっ・・・」

私たち4人のボートの下で　イワシ達の群れが
巨大な　ポルシェ911を形作った

「こうすりゃ　いつでもポルシェに乗れる
　お前には　いつまでも　助手席に　乗ってもらうぞ」

彼の言葉に　
胸いっぱいになった　私の隣で

”はい！”と元気良く答えたのは　老人二人だった

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※1789年6月14日 ウィリアム・ブライ艦長以下
　19人の乗った救命艇が41日かけてティモール島に到着しました