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映画と車が紡ぐ世界chapter136

地下室のメロディー アルファロメオ・ジュリエッタ 750系 1959年式
Mélodie en sous-sol Alfa Romeo GiuliettaSpider 750 1959


午前10時
60度の仰角から降り注ぐ 日差しの中
僕は母校に到着した 
1959 Alfa Romeo Giulietta Spiderの ステアリングを
4時間 握りしめていた両腕は いつの間にか ピンク色に染まり  
ところどころ ピリピリとした パルス信号を発していた

♪ Mélodie en sous-sol ♪

Fuuuuuuuuuuuuuuuu !

ロング・ブレスを一つ
緑の萌えた 懐かしい香りを 体全体に取り込むと 
駐車場の前に見える プールに向かった

アイツと一緒に 泳ぎ続けた3年間
右脳に保管された 10年前の思い出アルバムが開き始めると 
両手に持った ボストンバックが 重たく感じた 

ヌルリとした プールサイドを慎重に進んでいると 
背後から 
ガツッと 両肩を鷲掴みされた 

「よく来たなぁ! んっ! 少し痩せたか?」

僕が ギャングじゃなくて 命拾いしたのは
昔から
容赦なく 他人の領域に踏み込んでくる ガサツな男・・・ 

僕は頭を下げた

「今日は よろしくお願いいたします」
 
アロハシャツに 麦わら帽子という
真夏の申し子・・・ いや真夏の中年男は
僕の想定した通りの時を刻んだ容姿で立っていた 
未だに現役の 水泳部顧問だ

「ホントに お願いしていいのか?!」

「はい! 僕のわがままを聞いていただき むしろ感謝しています」

既に ヘインズのTシャツにカイパン姿になっていた僕は
もう一度 頭を下げた

「5月17日に
 プール掃除を一人で やらせてもらえないでしょうか?」

2週間前 母校に連絡を入れていた

「それじゃ!ヨロシク!
 今日は真夏日だから これを貸してやる!」

そう言うと 顧問は麦わら帽子を 僕の頭にのせた

Goshi Goshi 
Basyyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

半年でジャングル並みに成長した 藻を取り除いていくと 
スカイブルーの世界が 少しづつ顔を出しはじめる

思い出アルバムが ぱたりと開く 
アイツと 一緒にデッキブラシ競争をする映像が浮かび上がった

Goshi Goshi 
Basyyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

小学校から高校までの12年間 
いつも 隣を泳いでいた アイツ
同じ自由形の選手だったが
アイツは 女子の代表選手 そして 僕は 万年補欠・・・
卒業まで 一度も勝てなかった

いつか お前に勝ってやる

その時こそ・・・
心に誓った その日は やってこなかった・・・

Goshi Goshi 
Basyyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

社会人になった 僕たちは 偶然 大都会で再開した
アイツと プール以外の話をはじめてした その日
僕の思い出アルバムには 
カノジョが 運命の人だ ということと 
カノジョの趣味が 折り紙だという事が 記された

それなのに・・・
カノジョとの新しい関係が芽吹いて 一年が経過した三か月前・・・ 

Goshi Goshi 
Basyyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa! 

「私・・・ フランスに行くの そこで結婚する 
 彼は・・・」

その後の情報は・・・ 僕の右脳の許容を超えた

今年の夏
僕は 自由形50mで カノジョに 挑戦するつもりだった

「もし 僕が勝ったら 結婚してほしい」

またしても 「その日」は 
永遠にやってくることのない 夏の日となった

太陽の仰角が 
再び60度を指し始めたころ 
完全にスカイブルーを取り戻したプール

ボストンバックを開ける

「好きにしていいぞ!」

シャルル(Jean Gabin)のように 真っ黒なサングラスをかけた
顧問が プールサイドに立っていた

僕は・・・
プールに ボストンバックを放りこんだ

Buku Buku・・・・
水底から 紙が浮かび上がってくる

もちろん お札 ではない
色とりどりの 
折鶴が大空を飛ぶように 浮かび上がり プールを覆った 

「タイム・・・計るか・・・」

「ハイ!」

既に 水であふれかえっている瞳に ゴーグルは不要だ・・・

より遠くへ・・・ 
僕は   飛んだ・・・
遠くに スカイブルーのGiuliettaが見えた

Zabyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuun

一掻きするごとに 思い出アルバムのページが 白紙に変わる

Bashaaaaaaaaaaaaaaaaan!

Kachi ! 27秒!

その日 僕は カノジョの記録を超えた


彼を 見届けた 1959 Alfa Romeo Giuliettaのヘッドライトは  
帰り道は 幌が必要ね・・・ 
そう 語っていた

地下室のメロディ・・・Alfa Romeo Giulietta


※ 120年前・・・ 1904年5月17日が ジャンギャバンの誕生日です


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