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映画と車が紡ぐ世界chapter145

オール・ユー・ニード・イズ・キル:三菱 RVR GA3W型 2017年式
Edge of Tomorrow : Mitsubishi RVR GA3w 2017

< ツギノシンゴウヲ ヒダリデス >

「また 遠回りを案内してるね」
カノジョが言った

RVRに搭載されたナビゲーションが 最短距離を示すことはない
前の車に設置してあったNaviを
移植して すでに10年 ともに走っている
古いナビなんて意味がないと カノジョは言う

「こいつは 賢いから 
 僕のハンドルさばきでも安全なルートを 提案しくれるのさ」
僕は いつもNaviを弁護した

「何度経験したって 学習しなきゃ 先には進めない・・・」
トムクルーズ好きなカノジョが言いたいのは 
ケイジとリタの物語・・・ 同じことの 繰り返し・・・

付き合い始めて7年目を迎えても
一向に ゴールを目指そうとしていない僕に 
カンパリオレンジのような 
少しだけ苦みを加えた カノジョの一言が突き刺さる

ははは・・・と 僕は笑うしかなかった

携帯のNaviに比べると 約5分遅れてカノジョの家に到着
玄関まで送ろうと
エンジンOFFボタンを押す

RVRのメーターに現れた 
”SEE YOU” の文字が やけに浮かび上がって見えた

いつもと 違う・・・
そんな思いが 頭をよぎった瞬間 カノジョが言った

「やっぱり だめかなぁ 私たち・・・」

いつしか カノジョに頬には
きらりと光る一筋の道ができていた

それから 2週間
長かった梅雨も明けて 待ちゆく人々は 夏の訪れを喜んでいる
その中で 僕だけは 
未だに梅雨前線真っ只中・・・

「私は時間を大切にしたいの・・・」
カノジョが残した最後の言葉

確かに 僕の秒針は 皆よりゆっくり回っている
どうして みんな 
こんなに 時間に追われているのだろう
時間は 人が生きやすくするための 単なるルールだ
何でも 早くできることが よいことだとは 僕には 思えない

時間を無駄にしているわけではない

それだけは カノジョに伝えたかった しかし・・・
カノジョの時の流れから弾き出された僕に
チャンスは二度と訪れることはないだろう

< コノママ チョクシンデス >
カノジョが いなくなって 変わったことがある
Naviが 最短距離を示すようになったことだ

あと5分だけ
君と長くいたい 
僕は カノジョが乗っていないときに何度も 何度も 
遠回りのルートをNaviに学習させてきた
そんな学習履歴を リセットしたから・・・
しかし
Blueに点滅する もう一つのランプだけは押せなかった

夏の虫すら 音を上げる熱帯夜
突然 カノジョから連絡が入った

「ココアが 泡を吹いてるの! 助けて!!」
カノジョの愛犬ココア(バセットハウンド)の一大事!
RVRは 英雄リタ・ヴラタスキの歩兵用パワードスーツを
凌駕する勢いで カノジョの家に向かった

「夏バテだって・・・(笑)」
点滴で 完全に元気を取り戻したココアを 後部座席に乗せた帰り道

「今日は 本当に ありがとう」
カノジョが言った

「でも 少し心配だったのよ このNavi古いから・・・
 あらっ!? 今日は 遠回りしないの?」

カノジョはNaviの案内が 変わっていることに気付いた 

「コイツは は君と別れて一度 死んだんだよ
 だから もう遠回りはしない・・・
 でも・・・ こいつの中には まだ少しだけ以前の記憶が残っている」

僕は Naviのブルーボタンを押した
「京都・大徳寺 天橋立 鳥取砂丘・・・あらっ?これは・・・」

「そう・・・ 僕たちの これまでドライブ履歴さ
 こいつは 全てを記録している 僕と君の全てを
 だから こいつを手放せなかった・・・ でも・・・もういいんだ」

♪ John Newman - Love Me Again ♪

僕は ブルーのボタン・・・
完全リセットボタンを 押そうとした

「待って・・・」
カノジョが僕の手を握った

「ココア! RVRの中は気持ちいいわね!
 だから 次の道を左折しましょう」

それは 以前のNaviが示した 5分遅れのルート・・・

” ワン! ”
後部座席から 賛同の一声

Naviが答えた
< ドウロジョウキョウガ カワリマシタ シンゴウヲ ヒダリデス >

僕とカノジョの時間軸が 再び重なった


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