見出し画像

映画と車が紡ぐ世界 chapter70

デイ・アフター・トゥモロー
 ~ ランドローバー・ディスカバリー4 HSE 2011年式 ~
The Day After Tomorrow ~ Land Rover Discovery4 HSE 2011 ~

「Where will you bee・・・(その時あなたは どこにいますか)」
カノジョが言った

「もちろん 君のそばに!」
甘すぎる言葉に 自分の顔が熱くなるのを感じた

「大好き!」
映画館でThe Day After Tomorrowを見たあと
僕らは ディスカバリー4の中で 
永遠の愛を確かめ合うように キスをした

それなのに・・・
5年後 僕たちは別れてしまった
カノジョが 不整脈で倒れ 病院に運ばれたとき 
僕は 会社の同僚たちと飲み会の真っ最中だった

「貴方がいなくて寂しかった・・・」
ベッドに横たわるカノジョは 壁に向かって呟いた

君の状態を知るすべがなかったのだから 仕方がないだろう・・・
そんな 言い訳のオーラが僕の身体から 
蒸気のように噴出していたのだろう

「Where will you bee・・・」
壁に反響した カノジョの思いを背中で聴きながらも
僕は 返事をせずに病室を出た
ランデブー飛行を続けていた 見えない糸が途切れた瞬間だった

カノジョが退院して間もなく 僕たちは別れた
一人きりの部屋・・・
ディスカバリー4の車内・・・
そして 僕のハート・・・
どれも エメンタールチーズのように ポカリと空洞ができていた
 
「いちいちアイツに 気遣う必要がなくなって 気楽じゃないか!」
誰もいない車内で 僕は自分自身に話しかけた
それでも・・・
急な残業の日は つい・・・ 誰もいない自宅に電話をしてしまう

「これじゃ アイツがいるときと 何にも変わらないな・・・」
ディスカバリー4に向かって呟きながら 苦笑した

半透明のカノジョは いつまでも僕の前から 消えることはなかった

観測史上初めて 114cmの積雪を記録した日
爆弾低気圧が人々を 瞬時に凍らせたあの映画のワンシーンが 
僕の脳裏に蘇った

「アイツ・・・大丈夫か・・・」
ディスカバリー4を駆って カノジョが務める町役場に向かった
人一倍世話好きのカノジョのことだ
こんな日は 町民のために東奔西走して 残業しているに違いない
真っ暗な 役場の前でカノジョが ぽつねんと立っている姿が 
脳裏に浮かんでいた

3.0 リッターV6 ガソリンエンジンは 吹雪をものともせず
道なき道となった国道を進む
リッター5.8キロという 時代に反する燃費だが 
どんなシチュエーションでも大切な人を守ってくれる安心感と 
力強さを兼ね備えた ディスカバリー4は 頼もしかった

キセノンヘッドライトが 
町役場の玄関を照らしたとき 
5年の歳月を感じさせない 想像通りの カノジョがそこにいた

「Haru君?」
久しぶりに 本物のカノジョの声を聴いた

5年間空席だった助手席にカノジョが戻ってきたのを確認した僕は
二人が好きだった ドリス/・デイを流した

♪Doris Day A Fool Such as♪

ディスカバリー4は静かに動き出した

「私・・・貴方が来るって確信していた気がする」
カノジョが 言った

僕とカノジョを結ぶ糸は 切れてなかった
今でも 僕たちは 思いを共有できるんだ
凍えるように冷たく 
だだっ広い車内と 心の隙間が 少しだけ埋まった

しかし・・・ 
僕は知っていた・・・
カノジョが婚約したことを・・・

カノジョの家に到着したとき
「Where will you bee・・・」
カノジョが言った

ツインルーフを開けた僕は 夜空から降り注ぐ 粉雪が車内を舞った

「・・・ディスカバリーの中さ」
いつでも 君が望む場所へ行けるように・・・
という一文は 僕の胸にしまい込んだ

春一番という文字が初めて新聞に掲出された2月12日・・・

僕に 春が来るのは まだ まだ先のようだ・・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?