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映画と車が紡ぐ世界chapter142

フォーエヴァー・ヤング 時を越えた告白:BMW i8 I12型 2014年式
Forever Young BMW i8 I12 2014


景気の底上げによって
日本中が活気付く中 僕の会社は波に乗り遅れた
しわ寄せは 社員に凝縮された結果 僕は休み返上で 業務についた
そして今夜も 
自宅についたのは ガラスの靴の魔法がとける時間を超えていた

「ただいま・・・」

8.5m先の リビングに立つ カノジョの後ろ姿は
マネキンのように微動だにしない
僕の知らないうちに 防音壁が 構築されたらしい

「ただいま!」

声量を挙げて もう一度アピールと 
カノジョは スッと寝室に消えた

カノジョも働いている
その上 家事も完璧にこなす
本当に 頭が下がる思いだが
僕だって 好きで午前様を気取っているわけではない
それに・・・
大変なら 甘えてくれればいいのに・・・
カノジョの一方的な仕草に 
左脳のヒューズが カチリと音を立てた

それでも・・・
食卓におかれた アナゴの天ぷらが僕の鼻孔をくすぐる
カノジョの料理は 最高だ
薄口の天つゆで あっさりアナゴを一気に食べ尽くした
でも・・・
アナゴは ウナギにつけるような 甘タレの方がうまいんだ
今日の僕は ちょっとひねくれていた 

Don!!

寝室から 鈍い音が聞こえた

「どうしたの・・・」

寝室を覗くと カノジョが クローゼットの前で倒れていた・・・

病院のベットに横たわるカノジョの傍で
真っ白な腕に繋がれている点滴を 多分・・・見ながら
燃料切れのロボットのように 僕は ボンヤリ座っていた

♪ Billie Holiday - The Very Thought Of You ♪

「失礼・・・」

短髪の白髪 丸眼鏡をかけた 小太りの医師だった

「奥さんは 
 いつ目が覚めるかわからない状態です
 体に問題はありませんが ココの回路が ショートしている」

医師は、左中指で 自分のこめかみをコツコツ叩いた

!!

「それは 植物人間という事ですか・・・」

「まぁ そう言うことですねぇ」

蜘蛛が差し出した 糸が切れて 
真っ黒な世界に落ちていく カンダタのように 
僕はフォワリと この世界から 消えてしまいそうになった

「カノジョと 会話することは もう できないのでしょうか・・・」

誰に話しかけているのかさえ 分からなくなりそうな僕に 老紳士が言った

「今の 医療技術じゃ 難しいですねぇ・・・
 今の技術じゃ・・・」

真っ白なカノジョの顔
「ごめんよ 僕が君をこんな姿にしてしまったんだね」

その時・・・
背後にいた老医師が 僕の口元にひんやりしたガーゼをあてた

!?

「カノジョが目覚めるまで 君も一緒に寝ていなさい
 そうすれば 謝ることが できるじゃ・・・」

老医師の声が 途切れた・・・
それは 僕の意識が 無くなったことを指していた

!!

気付くと僕は 
アナゴの天ぷらの前に座っていた

「ここは・・・」

ダニエル(Mel Gibson)が
目覚めたときのように混乱した僕は ゆっくり深呼吸をする

夕飯を前にして 居眠りしてしまったようだ・・・

よく考えてみると
夢の中に出てきた 老医師は 北王子魯山人と瓜二つだった
カノジョが憧れていた 
食通 魯山人が医者の格好で出てくるなんて・・・
自分の 想像力の乏しさを 笑った

そう言えば・・・
カノジョが教えてくれた 魯山人の一言が蘇る

「東京のアナゴは 羽田 大森に産する本場ものでなくては 美味くない
 あなごは 甘たれでは くどくて駄目だ
 京阪で うなぎに使う醤油に付けて焼くのがいい
 しかし・・・
 焼くのは堺近海のがよく 東京もんは 煮るか てんぷらがいい」

確かに 魯山人の言う通り
アナゴの天ぷらは最高だ! それも カノジョ手作りは飛び切りだ

キッチンの向こうから

「やっぱり 魯山人は最高でしょ!」

そう言いながら 現れるカノジョを ゆっくり待った

いつも キミに甘えてばかりで ゴメン・・・
これからは キミのことを 一番に考えるよ・・・

カノジョへの謝罪の言葉を考える僕 
その後ろにある 壁面テレビからニュースが流れた

「2124年 7月5日・・・ 
 今日は110年前に販売された
 BMW 初のスポーツ電気自動車 i8を紹介しましょう・・・」



7/5は 穴子の日です 
魯山人の言うように 羽田に穴子を食べに行こうと思います



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