スライド1

価格設定とは「財布」をしこたま観察すること

スライド2

「値決めは永遠の課題」

商品やサービスの値決め、本当に難しいですよね。
格安スマホのように戦略的に低価格とする場合をのぞき、売る側は1円でも高く設定したいものです。
しかし、この質問のように価格を高く設定した反動により受注数・販売数が減り、トータル売上が下がるリスクと戦うことになります。

「価格戦略」「価格設計」は、事業の規模や業種・業界関係なく、最も重要なテーマの一つです。

経営の死命を制するのは値決めです。値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格決定は無段階でいくらでもあるといえます。

稲盛和夫

これは、京セラ創業者の稲盛さんのお言葉
「経営の死命を制する」とまでおっしゃっています。まさに経営課題ですね。

顧客が価格だけで購入するわけではないことをマーケターは覚えておく必要がある。顧客は支払った価格に対して得られるベネフィットという点から、最大の価値を与えてくれる製品を求めているのである。

フィリップ・コトラー

こちらは、現代マーケティングの父といわれているフィリップ・コトラー教授の価格に関するお言葉。「顧客は価格の高さ・安さだけで購入するわけではない」と言い切っています。

「どのような理由で価格を決めたのか」は重要な企業秘密のため、ノウハウや事例が世に出にくいという背景があります。

一方で、たとえば下記の記事のように、売上が厳しくなった場合に価格改定が犯人にされがちです。

一般的な価格決定プロセス

では、どのように価格決めを行うのが良いのでしょうか?
前述のコトラー教授によると、価格決めには6つのステップがあるそうです。以下、簡単に説明します。

※知っている人は『企業視点に加えて「買う人」の立場で考える』まで読み飛ばしてください。

スライド3

1、目的の明確化
価格をする目的が何なのかを明確にします。目的の種類としては、売上・利益の最大化やシェアの最大化、競合対策などが考えられます。

A、売上の最大化
価格設定に関しては「売上の最大化」と「利益の最大化」を目的としたケースが最も多いのではないでしょうか。高すぎず、安すぎない適切な価格の設定が求められます。

B、目標利益率の達成
売上の最大化ではなく「利益」の達成を目的とするケースです。たとえば製造原価のかかる商売や、資金が少ない創業期などで、利益確保を目的に価格設計をすることが多いとされています。

C、製品ライフサイクルごとの変更
導入期・シェア拡大期・維持期・衰退期、製品ライフサイクルにあわせた価格変更です。

D、市場・競合企業対応
上記3つは自社で主体的に価格設計するケースですが、税率変更や競合企業の価格値下げなど、市場や競合企業の価格変更に対抗するための価格改定もあります。

STEP2、価格に対する需要の予測
価格の需要を「価格弾力性」を考慮して予測します。

一般的に、スーパーで販売している商材、日常生活に必要なものは価格弾力性小さく、嗜好品は大きくなると言われています。当てはまらないケースも多分にありますので、あくまで一般的に、です。

STEP3、コストの評価
続いて、コスト計算を行い「利益」が望めるかを確認しますコストは「固定費」「変動費」に分けられます。
価格を下げて需要(売上)が増えても、それ以上にコストが上がってしまっては経営観点では厳しいため、試算をしておきます。

STEP4、競合他社の価格・コスト、価格の分析
競合他社の価格とコストを調査して、市場での競争力がある価格なのか、コストが適当なのかを検討します。加えて、競合他社が提供している価値(オファー)についても検証します。

STEP5、価格設定方法の選択
価格設定の方法を決定します。
コトラー教授は、以下6つの方法を提示しています。

1 、マークアップ価格設定
 製品コストに利幅(マークアップ)を上乗せする方法
2、ターゲットリターン価格設定
 目標投資収益率から逆算して価格を設定する方法
3、知覚価値価格設定
 マーケット・リサーチにより「売れる価格帯」に価格設定する方法
4、バリュー価格設定
 顧客が適正と感じる価値に価格設定する方法
5、現行レート価格設定
 競合他社の価格を参考に価格設定する方法
6、オークション型価格設定
 買い手がオークション方式価格決定する方法

STEP6、価格の決定
上記の5ステップを経て、価格の最終決定を行います。

企業視点に加えて「買う人」の立場で考える

いかがだったでしょうか?
もしこの価格決定プロセスを知らなかったのであれば、改めて手順に従って価格設定を検討してみてください。

ではここからが本題。
私のオリジナルです。

上で紹介したコトラー教授の価格決定プロセスは「企業視点」での価格決定プロセスです。企業視点(売り手視点)も大事ですが、加えて顧客視点(買い手視点)も持っておいた方が当然良いですよね。

〝実際に買う人”の立場に立つことで、価格設定の現実味(リアリティ)が増し、より売りやすくなります。

では、顧客視点(買い手視点)として、具体的に何を検討すればよいのでしょうか?

スライド4

上記は、アメリカの有名な投資家であり経営者でもあるウォーレン・パフェットの価格に関する格言です。

この言葉にもあるように、私は買う人の立場に立って「価格」と「価値」について検討してみることをオススメしています。

「価格」は「財布」に変換する

買う人視点では、価格は支払額となります。
財布の中にお金が入っていないと支払いはできません。当たり前ですね。
お金=予算です。

営業ヒアリングのフレームワーク「BANT(条件)」をご存知でしょうか?
「BANT(条件)」の最初のBはBudget(予算)です。営業マンがヒアリング時に必ず把握すべきことの最初の項目が「予算」なのです。

スライド5

ただし「予算」のありなしの把握はとても厄介で、たとえば「予算がない」と一口に言っても、

・残っている予算額が本当に少ない
・価格が高くて予算が足りない
・他の商品向けの予算はあるが、提案を受けた商品は購入するつもりはない
・工面すれば捻出可能だが、予算がないことを断り文句して使っている

など、様々な意味合いで使われます。
“本当のところ”を確認する腕が試されます。

私は営業職ではなく事業企画職ですが、プロダクトの機能や商品スペックの検討と同じくらい、この「予算」について考える時間をとるようにしています。

どんなに高機能の製品を作っても、財布にお金(予算)が入っていなければお客さんは買うことはできません。買ってもらえなければ、製品は世に出ることすらできないからです。

あなたが販売しようとしている商品・製品・サービスは「誰のお財布から支払われるのか?」

この問いに明確に答えられるようになると合格です。

さらに、もし販売後に当初の想定と異なる予算から捻出されている事がわかれば、「新たなお財布の発見!」という副産物も得ることができます。

予算を確認するための主な質問はこちらです。ご参考ください。

スライド6

「価値」は「財布のひも」に変換

価値は「財布のひも」に変換しましょう。
買い手が持っている「財布のひも」は、どのような理由で緩むのでしょうか?

たとえば、あなたがランチで人気の弁当のお店の店主だとしましょう。
売上を伸ばす策として、お弁当の種類や美味しさといった「商品開発」をしたくなりませんか?
でも、お客さんが買っている隠れた理由が、味も値段もそこそこだけど、10秒で買える、だったらどうでしょう。
美味しさを増すために「出来立てを盛り付けます」をやってしまったらアウトですよね。

人間の購買に至る理由は複雑で、まさしく人間的です。

私はこの「財布のひも」の緩ませ方に関しては、
(1)得たいもの、(2)失いたくないもの、(3)面倒でないもの
の3つの観点から、買い手にとっての価値があるかを確認しています。

(1)得たいものは、「隠れた理由」であるインサイト
(2)失いたくもの(3)面倒でないものが、顧客が負担する費用

に該当します。

価値(財布のひも)の主な項目はこちらです。

スライド7

古今東西、ランキングやレビューが効くのは、とりあえず1位を買っておけば安心、評判の良い商品を選んでおいた方が失敗の確率が少ないだろう、という隠れた心理に影響を与えるからですね。

まとめ

価格設計、どちらが優れているではなく、企業視点(売り手視点)と顧客視点(買い手視点)の両面から検討してみてはいかがでしょうか?

価格ってとても奥深いものです。たとえば、この記事にあるように、失う場面に遭遇すると急に価値が増します。

「その金額をもらったらLINEの利用を1ヶ月間やめる金額」と「もし有料だったらいくらまで支払うか」の金額の差(平均)、じつに1万5,888円。

価格設定の難しさと大切さを物語る数字ですね。

スライド8

サポートもとても嬉しいですが、記事へのスキ(ハートマークをクリック)や、アカウントのフォローももっと嬉しいです。