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『菜食主義者』ハン・ガン(著), 川口恵子(編集), きむ ふな(翻訳) ノーベル文学賞受賞ニュースで、「あれ、買った記憶あるけど読んでない」と思ったので本棚探して読んでみた。ノーベル賞選考理由通り、ユニークな意識と詩的文体の、短いけれど重ため小説でした。

『菜食主義者』 (新しい韓国の文学 1)  2011/6/15
ハン・ガン (著), 川口恵子 (編集), きむ ふな (翻訳)

Amazon内容紹介

「新しい韓国文学シリーズ」第1作としてお届けするのは、韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家、ハン・ガンの『菜食主義者』。韓国国内では、「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。
 ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる夫(「菜食主義者」)、妻の妹・ヨンヘを芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫(「蒙古斑」)、変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ(「木の花火」)―
3人の目を通して語られる連作小説集

Amazon内容紹介

ここから僕の感想

 今年のノーベル文学賞の人の本、前に買って積読で読んでない気がする、と思ってAmazonで検索したら、この本を2022年2月に購入していた。ということはどこか本棚か段ボール箱の中にあるはずと探したら、あった。

 ので、さっそく読んでみた。活字大きいしゆったり組んであって本文290頁、100頁前後の中篇3つが合わさってひとつの連作小説になっている。すぐ読める。読めた。

 暴力的な毒父親に育てられたがゆえの生きづらい子供の話
なもんで、個人的にはたいへんつらいお話であった。でもまあそれはこの小説の一面、そういう側面としても読めるというだけで、そのいきづらさの造形はとてもオリジナルなものでありました。

 韓国の現代文学、女性作家と言えば、『もう死んでいる十二人の女たちと』パク・ソメル著、が面白かったよなあ。(僕はこれのほうが正直面白かった)。あの人は1985年生まれ。このハン・ガンさんは1970年生まれだけれど、二人とも光州の出身なのだな。光州事件のあったあそこは、何か小説家を生み出す力が特になんかあったりするのかしら。

 話は『菜食主義者』に戻って、この連作小説、Amazon内容紹介の通り、一つの家族のお話ではあるのだが、視点人物が三篇で変わる。突然菜食主義者になっちゃう女の人ヨンヘの、一篇目は夫、二篇目は義理の兄(姉の夫)、三篇目は姉の視点で語られる。この立体的多視点で人物や出来事が語られていく腕前はさすがにとても上手である。

 ハン・ガンさんはお父さんもお兄さんも小説家なんだそうだ。

 お父さんもお兄さんも小説家、なるほどなあと思うのだよな。性別と年齢の異なる視点から人物や出来事を多視点で理解し描写する、ということが、家族・生育成長過程から日常的にあったみたいな、そういう感じはあるそのこと自体が生きづらさの原因になっていたりするのだと思う。父も兄も小説家って、かなりハードな家族環境だよな、おそらく。

選考委員会は選考理由について、「ハン・ガン氏の力強く詩的な散文体の文章は歴史的な心の傷と向き合いつつ、人間のもろさをあらわにしている。彼女はすべての作品を通して、心と体や、生と死の関係についてユニークな意識を持っていてそれゆえに、彼女の詩的で実験的な文体は現代の散文文学における革新的存在といえる」

NHK NEWS WEB 2024年10月10日 22時17分

なんだそうだが、「ユニークな意識」全開の小説でした。「菜食主義」って、はじめに現れる現象は、肉を食べないってことなんだけれど、それがここまでその意味内容というかイメージが膨らんでころがっていくのね、という驚きはあります。美しかったりグロテスクだったり、最後まあ、理解不能なところまでいく。イメージとしては分かっても、納得は全然できないよね。まあ、読んでの楽しみではある。

 お隣の国・韓国の現代小説というのは、これは韓流ドラマとか映画とかと同様、日本と似ていて理解できるところと、伝統習慣や社会背景が違って「あらまあ全然違う」というところの混じり合い具体が、読んんでいて面白かったりするのだな。欧州や南米の小説を読むのとは違う、そういう「親近感と違和感」の入り混じり具合を楽しむという側面もある。

 ノーベル文学賞ってどんな?という話題にのっかって、読んでみるのもいいんではないかしら。ほんとにそんなに長くはないので、わりとすいすい読み切れると思います。おすすめかなあ、うーん。「楽しかったあ」とか「感動した―」とかいう類の本ではないですよ。「うわ、純文学、さすがノーベル賞」というのを読む覚悟で読んでね。


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