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『獄中シェイクスピア劇団』(語りなおしシェイクスピア 1 テンペスト )  マーガレット・アトウッド (著), 鴻巣 友季子 (著) クドカンのテレビドラマ一気見しているくらい面白い(最上級誉め言葉のつもり)


マーガレット・アトウッド (著), 鴻巣 友季子 (著)


Amazon内容紹介


「『テンペスト』の演出に心血を注いでいた舞台芸術監督フェリックスは、ある日突然、部下トニーの裏切りにより職を奪われた。失意のどん底で復讐を誓った彼は、刑務所の更生プログラムの講師となり、服役中の個性的なメンバーに、シェイクスピア劇を指導することに。―十二年後、ついに好機が到来する。大臣にまで出世したトニーら一行が、視察に来るというのだ。披露する演目はもちろん『テンペスト』。フェリックスの復讐劇の行方は!?」


ここから僕の感想


 あのね、死ぬほど面白い。どんな感じかというと、宮藤官九郎のテレビドラマ、一作全13回とかを、まとめて一気見しているような感じ。止まらない。

 シェークスピアとか「ノーベル賞最有力候補アトウッド」とか、全然、ビビらんでいい。最高のエンターテイメント。元ネタの『テンペスト』も、全く知らなくてOK(僕も読んでない。)


 クドカンの、「タイガー&ドラゴン」や「いだてん」で、落語の元ネタとドラマの事件進行が、ダブりながら見事な構成で進んでいく、あの感じ。喜劇なんだけれど、泣かせるような切ない感じもあるところも、ああいう感じ。「監獄のお姫様」のような、復讐劇とか、なんだか、そういういろいろをまとめて小説にしました、クドカンが、と言われても納得する。

 面白いし、構造としてよくできているし、読み終わるとテンペストについても、もうわかった気分になっている。全体のノリが、そういう感じなの。一泊二日で読んでしまった。ぼくはたいてい小説一冊読むのに一週間くらいかかるのだが、これはあまりの面白さに、一気読みでした。


 マーガレット・アトウッド著・鴻巣友季子訳、という同じ著者訳者の、『誓願』を読んだばかり。あれもディストピア小説『侍女の物語』続篇ということで、暗い難しい小説かと思って読んだら、アメリカのテレビの政治アクション連続ドラマみたいな内容でびっくりしたのだが、もしかすると、このマーガレット・アトウッドという方は、ものすごくエンターテイメントな小説を書く人なのではないか、と思ってしまう。もちろん、文学的な深みも、人物造形、描写も、とても深いと言えば深いのだが、いやーそれよりも、面白さが、すごい。サービス精神というよりは、そういう風に書くことをこの人自身が楽しんでいるような感じがする。


そもそもこの本を読んだのは。


 この前、物書き修行中の長男と、昨年読んだ本ということで岩波新書『暴君――シェイクスピアの政治学 』スティーブン・グリーンブラット (著)の話をしていて、私が、「面白かったから、シェークスピアの戯曲をあれこれ買い込んだがなれないので全く読めない」と言ったところ、「『テンペスト』なら、面白いし、すぐよめるんじゃない」と息子がアドバイスをくれた。で、あ、『テンペスト』じゃなくて、この『獄中シェイクスピア劇団』買ったまま積読していたなと思い出して、読んだらまあ、と言うことだったのでした。原典『テンペスト』はまだ読んでいない。買ってはあるが。

鴻巣さんの翻訳について

 途中出てくる、元々のシェークスピアのセリフを、囚人の役者がラップにし直して歌うところ、鴻巣さんが、ものすごくおそらく苦心しつつ、上手に訳しているところも注目。いろいろな引用出典、訳者注を、本文の流れのなかにどんどん書いておいてくれるスタイルなのも、すごく読みやすい。 

 といういかにも目立つ翻訳者の仕事な部分もなのだが、そうでない、ごく普通の地の文、主人公の独白など、小説のベースとなるところの翻訳が自然でリズムがよく、「読んでいて、楽しい気分にどんどんなる」というのが、いちばん素晴らしいところだと思いました。


ということで、難しい本は苦手、面白い本が読みたい、と言う人にもお薦めできる。シェークスピア、読みたいけれど、どこから手を付けたら、という、私と同じような悩みの人にも、超おすすめ。クドカンドラマ大好き、と言う人にも、ほんとにお薦め。

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