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失われた咳を求めて

 Oasisの名曲「Wonderwall」(1995)の冒頭で発される咳だけを切り取った1秒の動画がYouTubeに上げられており、2022年9月現在1.5万回もの再生回数を記録している。アップロード日を確認してみると〝2020年8月4日〟とある。


Wonderwall But It's Just the Cough[Youtube]

Oasis - Wonderwall(Official Video)


2020年はCovid-19が猛威を振るった年である。「新型コロナウイルス」と呼ばれることになるこの未知なる感染症への対策として、人々は自宅待機を余儀なくされた。このパンデミックの期間を日本では「コロナ禍」と呼んでいる。

 ウイルスという共通の課題の出現によって、あのときばかりは世界がひとつになったように思われた。しかし実際にはその恐怖は多くの陰謀論を呼び、差別を増長させ、元々あった人々の間の分断はより一層深まったのだから、「世界がひとつになった」などというのは結局のところナイーヴな幻想に過ぎなかったわけだが、2020年春に訪れた緊迫感は世界中である程度共通していたムードだったのではないだろうか。


 ここ日本では、今は亡き当時の総理大臣によって、2020年4月7日に東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県に緊急事態宣言が発令、同年4月16日に対象が全国に拡大された。人々はマスクを買い求め、不要不急の外出を控えた。そういった感染症対策の影響で、街はゴーストタウンと化し、代わりに世のインターネット通信量は爆発的に増加した。


 それから感染者数が一桁台にまで減った5月には少しずつ人が町に戻り始めた。以前と違ったのは、外では誰もがマスクを着け、こまめな手指の消毒や対人距離を取ることを奨励され、そして他人の発する咳の音に敏感になっていた。例えば電車で少し咳き込んだ人がいると、その周りにいた人々は静かに逃げていった。仕方ないとはいえ、流石に少し居た堪れない気持ちになるものだ。一度咳が出始めると数ヶ月は咳が出続けるタイプの咳喘息を患っている私にとっては、肩身が狭い社会である。それでもやはりこれは仕方ないとしか言いようがない。当時Covid-19の潜伏期間は2週間とも言われ、無症状感染も相当にあったはずだ。隣にいる元気そうな人間ですら感染者かもしれない、誰もがそんな恐怖に脳内をうっすら支配されていた。事情はなんであれ見知らぬ人が咳込んでいたら出来るだけ物理的に距離を置きたくもなるのは当然だ。


 そう考えると、冒頭で挙げたあの1秒の動画が2020年の夏にアップロードされているのは、他人の咳に過敏にならざるを得なかった時期に「安心して咳の音を聴きたい!」という人類に共通する潜在的な欲求によるものだったのではないだろうか。いや、そうに違いない。

 以下、「人類には咳を聴きたいという欲求がある」と断定した上で話を進める。


 それならば、咳の音が聴こえる曲を集めたプレイリストを作ればいい。そうすれば飛沫を気にせず安心して咳の音を聴くことができるではないか。



 前置きが長くなってしまったが、ここからは我々の〝咳聴きたい欲〟を満たしてくれる楽曲を紹介していく。



 記事中のどの動画リンクも再生して5秒以内に咳が聴こえるよう調整してあるので、ぜひ聴きながら読み進めていただきたい(あるいは上に貼ったプレイリストで聴くのも良いだろう)。
なお、記事の読み込みが遅くなり過ぎないよう、一部の動画は埋め込まずにリンクを貼り付けるのみにしてある。
 また、全曲に10点満点で咳の採点をつけた。明確な採点基準はないが、痰の絡まった咳よりも乾いた咳(ちなみに、前者を「湿性咳嗽」後者を「乾性咳嗽」というらしい)の方が高評価になりやすいという傾斜はある。

※言うまでもなく点数は楽曲自体の評価ではないので悪しからず。

【ロックの大御所による咳】


The Beatles「Taxman」(1966)

 1…2…3…4…というカウントの直後に発せられる咳は乾いている。ビートルズ史上最高傑作としての評価を既に確立しつつある大名盤の1曲目はレノンでもマッカートニーでもなく、陰に隠れがちだったG・ハリスンによるものだった。うねったベースライン、スタッカート気味のギター、変拍子を刻むパーカッションによって生み出される至高のサイケデリアはいまだに唯一無二の輝きを放っているが、特徴的なテープの逆回転に先行してその幕開けを担う音が咳払いだというのが興味深い。
 そしてどうやらこの咳払いは初めから意図されたものではなかったようだ。咳の主はアメリカのDJ、Ron O'Quinnという人物で、彼は録音当日アビー・ロード・スタジオに招待されていた。


“Because of the notoriety our radio stations received in Europe, I was invited to meet The Beatles at the London offices of Nems Enterprise. The meeting went well and a few days later I was asked if I wanted to attend a recording session at Abbey Road. I did, of course, and while there cleared my throat, coughed actually, on the Tax Man song,” Ron recalled.

[和訳]
「私たちのラジオ局がヨーロッパで評判になったこともあり、ネムズ・エンタープライズのロンドン事務所でビートルズに会わないかと誘ってもらったんです。数日後、アビーロードのレコーディング・セッションに招かれました。もちろん参加しましたが、そこで『Tax Man』の曲で咳払いをしてしまいました」とロンは当時を振り返ります。

RON O'QUINN
posted by Scott B. Thompson, Sr. January 12, 2015


 このRon O'Quinn氏の証言が本当だとすれば、このアイデアは偶然の産物ということになる。しかしそれが偶然だとしても、咳払いを雑音としてカットしてしまうのではなく、大胆にも主役に据えてしまう発想は称賛されて当然のものだろう。そして本楽曲における彼の「才能の開花」が偶然でなかったことは、ハリスンの後年の作品群が証明している。(10/10)




 ビートルズは間違いなく革新的で先進的であったが、曲中で咳が収録されているという点では、実は同年のビーチ・ボーイズが「Taxman」よりも2ヶ月先駆けていた。

The Beach Boys「Here Today (Mono)」(1966)

 60年代最高の、いやそれどころかポップミュージック史上最高とも名高い名盤『Pet Sounds』でも咳を耳にすることが出来る。「Taxman」と違って雑音ともとれるこの咳に、偏執的なまでにサウンドにこだわったブライアン・ウィルソンが気付いていなかったはずがない。
 咳の含まれた『Pet Sounds』を1966年6月に世に放った2か月後に『Revolver』はリリースされた。ビートルズの存在を強く意識していたウィルソンは、「Taxman」を聴いたとき悔やんだかもしれない。なぜ俺が先にこれをやらなかったのか……と。ステレオミックスverで咳が削除されているのはその悔しさの表れだろうか。(8/10)


The Beach Boys「Here Today (Stereo)」
https://youtu.be/Ef9zt8aCRQo?t=85




 しかし実はその2年前、ビーチ・ボーイズは既に咳の含まれた曲をリリースしている。

The Beach Boys「Wendy (Stereo)」(1964)

 後年生まれる娘に「Wendy」と名付けたことからも、ウィルソンがこの曲に並々ならぬ思い入れを持っていることがうかがえる。コーラスの疾走感からは、スタジオの熱気も伝わってくるようだ。きっとウィルソンは咳という「雑音」が気にならないほど、このテイクが気に入っていたのだろう。だとするならば、「Here Today」に加えこの曲まで別のミックスでは咳が削除されているのは何故だろう?(「Here Today」はステレオ版で、「Wendy」はモノラル版で咳が取り除かれている)


The Beach Boys「Wendy (Mono)」
https://youtu.be/t72bCZKceyY?t=79


 エンジニアが気を利かせて取り除いたのだろうか。もしそうだとするならば、ブライアン・ウィルソンという男の途方もない才能は、咳ひとつとっても当時は十分に理解されていなかったと言えるのかもしれない。(9/10)





Jimi Hendrix「Rainy Day, Dream Away」(1968)

 ジミ・ヘンドリックスの名盤『Electric Ladyland』においても咳を聴くことができる。左右のチャンネルに振り分けられた立体的な咳は、オルガンとベースの音と組み合わさったことで官能的な響きを獲得している。直後に男は鼻をすすり始めるが、1:06あたりでまた鼻をすすっている。声も二日酔いのようである。それでもこの男は全てが異様にカッコよく、様になっているのだ。(9/10)




Led Zeppelin「Whole Lotta Love」(1969)
https://youtu.be/HQmmM_qwG4k

 イントロがあまりにも有名なギターリフのため聴き逃しがちだが、実は本楽曲はロバート・プラントの咳払いから始まる。この笑い声のような咳はどこか余裕も感じさせる。41分37秒の圧倒的なハードロックの快楽は、咳払いで幕を開けていた。(7/10)





Black Sabbath「Sweet Leaf」(1971)

 咳の聴こえる楽曲と言われてこの曲を思い出す人は非常に多い。ブラック・サバスの「Sweet Leaf」は、咳を音の素材として対象化し、加工してリズムを与えている点で特異であり、同時にコミカルであるとも言えよう。(9/10)




Pink Floyd「Wish You Were Here」(1975)
https://youtu.be/hjpF8ukSrvk?t=40

 0:42以降、かなり痰の絡まったような咳払いが左チャンネルから発せられると、直後に鼻をすする音や小さなため息、深呼吸のような音が立て続けに聴こえてくる。なんだかずっと機嫌が悪そうだ。(5/10)




Nirvana「Pennyroyal Tea」(1993)

 時代は大きく飛んで、NIRVANAのカート・コベインも楽曲中で咳き込んでいる。激しくダイナミックな展開を魅せる本楽曲の冒頭で、小さくではあるがハッキリと聴こえる。それは彼が間違いなく生身の人間であったことを知らしめる痕跡のようにも感じてしまうのだが、流石に考え過ぎだろうか。(7/10)





Bob Dylan「Suze (The Cough Song)」(1991)
https://youtu.be/eJn6XvMaoFM?t=96

 1963年(発表はその28年後だが)、ボブ・ディランも咳を録音物として残している。たった2分の短いトラックだが、大きく咳き込むまでの透き通ったアコースティック・ギターとハーモニカの調べは極上だ。これは確かにノーベル文学賞受賞者といえども、「咳の歌」というストレートなタイトルを付けたくなる。(6/10)



[注釈念押しのコーナー]
・どの動画リンクも再生して5秒以内に咳が聴こえるよう調整してある

点数は楽曲自体の評価ではない


【ヒップホップ/ラップでの咳】

 ヒップホップ/ラップは、傾向としてロックよりも音像はラフで、1枚のアルバムでも複数曲において咳が聴けることも多く、その意味でお得なジャンルであると言えるかもしれない。

 まずは史上最も売れたヒップホップレコードのひとつであるフージーズの大名盤『The Score』より3曲。



Fugees「How Many Mics」(1996)

Fugees「The Score (feat. Diamond D)」(1996)
https://youtu.be/vzymXF4_RT4?t=165

Fugees「Cowboys (feat. Outsidaz)」(1996)
https://open.spotify.com/track/1r2KW9ZKAWbirQfj1G7MDH?si=6e98981259054f5b(Youtubeにフル音源公式リンクなし、Spotifyで代替)

 「How Many Mics」はハッキリ咳き込んでいるが音量は控えめで、「The Score」は0:49でフェイントがありながらも2:46あたりで何かを吸い込みながら咳き込む音が聴こえてくる。「Cowboys」については4:48以降、絶叫する男、すすり泣く男、怒る男の声をひとしきり聴いていると、すすり泣き男が少し咳き込むのを聴くことができる。(8/10,8/10,6/10)





 最もラッパーに愛されたラッパーであるMF・ドゥームも、仮面の下ではよく咳き込んでいる。世紀の大名盤『Madvillainy』でも3曲で咳を聴くことが出来る上、1曲あたりの咳の回数も多く、やはり本作が死角のない大傑作であることがよく分かる。

Madvillain「Operation Lifesaver aka Mint Test」(2004)
https://youtu.be/3CCZtfZidtw?t=19

Madvillain「America's Most Blunted」(2004)

Madvillain「Great Day」(2004)
https://youtu.be/rS1cggllfig?t=92

「Operation Lifesaver aka Mint Test」では0:20から2回咳払いをしている。2回目の方が大きく咳き込んでいて高得点だ。「America's Most Blunted」は0:26で4回、0:36で2回、計6回もの咳を聴くことができる文句なしの咳classicである。特に4回目の咳は大音量で気分がいい。また、咳に限らず口から発することのできる様々な音が含まれており、最後の「マリ↑ワナ↓」のくだりでは爆笑も聴くことができる。
「Great Day」ではクールに咳込んでいる。こういったシンプルな咳も収録しているのが本作の強みである。
 以上より、MF DOOMが最も偉大なラッパーのひとりであることは一点の曇りもない真実であることが示されてしまった。(8/10,10/10,7/10)





 続いてはチャンス・ザ・ラッパーの傑作ミックステープ『Acid Rap』から2曲。2曲という時点で前述の2組に負けているのだが、それ以前に「3」がトレードマークとなっているチャンスが2曲しか咳を収録しないというのはいかがなものだろうか。

Chance The Rapper 「Cocoa Butter Kisses」(2013)

Chance The Rapper 「NaNa」(2013)
https://youtu.be/MWTPzdmF6UU?t=40

 とはいえ彼の音源は極上である。「Cocoa Butter Kisses」ではフックに合わせて大きめの乾いた咳が覆いかぶさる。しかもそれが2回あるのだから最高だ。「NaNa」では0:42で2回、曲の終盤に客演のAction Bronsonが絶叫後に咳き込む。しかし咳によって曲が終わるかと思えば最後の最後で<Blow me>という余計な一言を発しており、実にもったいない。
 近々リリースが噂されている作品では、次こそ3曲の咳・ラップ・ミュージック収録を強く望む。(9/10,4/10)





 プレイボーイ・カーティは現代Hiphopを象徴するラッパーである。様々な論争や賛否を呼ぶ彼の作品であるが、ほぼ「ォエッ」しか言っていないようなラップ(マンブル・ラップ)で場を熱狂の渦に巻き込んでしまう天性のカリスマである。本格的に名を上げることになったセルフタイトルのミックステープ、2018年の『Die Lit』、2020年クリスマスにリリースの『Whole Lotta Red』にはそれぞれ1曲ずつ咳が収録されている。

Playboi Carti「Magnolia」(2017)

 出だしの笑い声、<What?>、呼吸音、ヤッ!等様々な発声が試されている。咳は2:30あたりで聴ける。MVでは咳の後に銃声が二発あるが、音源では銃声はカットされ、代わりに咳が追加されている。銃声は咳と同じリズムで繰り出される。咳が先か銃声が先か。
 音源の方が咳の回数が多く、タイミングの歪さも絶妙であるように感じられる。(9/10)




Playboi Carti「Choppa Won't Miss(feat. Young Thug)」(2018)

 前曲以上にかなり多くの実験的発声が試されているが、客演のヤング・サグによる乾いたリズミカルな咳は耳に残るものとなっている。(8/10)






Playboi Carti「Teen X」(2020)
https://youtu.be/6nBdw2RtstI

 かなり聴き取りにくいが、0:19でビートの奥の方から咳が聴こえる。(7/10)


 様々な発声方法でフロウに変化をつけるラッパー達にとっては、咳も発声の一種として標準装備されているのはある意味当然のことかもしれない。



オマケ



Lizzo「Tempo (feat. Missy Elliott)」(2019)

 咳を合図にトランクから大ジャンプして登場するミッシー・エリオットは流石に面白すぎる。(5/10)





【ジャパニーズ・アヴァン・咳・ミュージックの潮流】


 邦楽でももちろん咳の聴こえる楽曲は多く存在する。根拠のない肌感覚だが、日本にはかなりアヴァンギャルドな咳の取り入れ方が多いように感じる。




七尾旅人「きみのそばへ」(2012)

 七尾旅人の2012年作『リトル・メロディ』は20秒間で3回咳き込み、あとはほぼホワイトノイズである。これをアルバムの1曲目に配置している。(7/10)





水いらず「東京都板橋区西町2−50−4」(2020)

 七尾旅人と同じように咳の聴こえる曲をのアルバム1曲目したのがこの東京のバンド、水いらず である。咳が聴こえるどころか、咳だけで構成されている。タイトルも含めてアヴァン過ぎる。2020年12月リリース。コロナ以降の録音だろうか。(8/10)





想い出波止場「Pikadom」(1997)

 90年代に遡ってみると、もう笑うしかないくらい咳き込みまくっている楽曲が存在する(1:11〜、公式音源がYouTubeにないためSpotifyで代替)。痰が絡まり過ぎだし、聴いててかなり不快になるほどの咳をしているので、これはさすがに早く病院に行った方がいい。(9/10)





Inu「メリーゴーラウンド」(1981)

 咳もそうだけどずっと体調悪そうだし、これも一刻も早く病院に行くべき。しかし同時に寝てれば治りそうな雰囲気もある。(8/10)





Cornelius「Drop」(2001)

 もちろんこれまで挙げたようなアヴァンな咳だけではない。例えばコーネリアスは『Point』収録の「Drop」で完全に咳を楽器として発している。これぞコーネリアスが至宝たる所以である。(9/10)






BUMP OF CHICKEN「ナイフ」(1999)
https://youtu.be/aoQkrWpQsCc?t=250


 バンプ以降、彼らに影響されていない日本のバンドはいないと豪語しても良いほどなのだが、咳自体は大分シンプルで面白味は特にない。(4/10)




Mom「マスク」(2019)
https://youtu.be/-DQKXxYsWDE?t=142

 コロナ禍を経た我々には、その影響を受けての楽曲であると捉えそうになるが、これは2019年の楽曲である。(7/10)





米津玄師「Flamingo」(2018)
https://youtu.be/Uh6dkL1M9DM?t=70

 プレイボーイ・カーティほどではないが、曲中で色々な発声が聴こえてくる。「ンパ!」という破裂音、巻き舌、おどけたような高音ボイス。その一環として咳が取り入れられている。(7/10)





岡村靖幸「ぶーしゃかLOOP」(2016)

 これはプレイボーイ・カーティ超えなのではないかと言ってしまいたくなるほど様々な発声が盛りだくさんだ。この流れで咳を取り入れるのは極めて自然であるとさえ思わされる。(10/10)






舐達麻「FLOATIN’」(2019)
https://youtu.be/6R-6uoR1OGc?t=10

 日本のヒップホップ/ラップでも咳き込んでいる曲は多くあるものの、舐達麻はほぼ全曲で咳き込んでいる。ゆえにとても信頼できるクルーである。まさか逮捕されるなんて、夢にも思わなかった。(7/10)






KID FRESINO「come get me」(2021)
https://youtu.be/tKM14qpzXs4?t=135

 笑顔が素敵なラッパーKID FRESINOの咳は、これからまくし立てる合図だ。(8/10)





STUTS & 松たか子 with 3exes「Presence I feat. KID FRESINO」(2021)

 同上。『大豆田とわ子と3人の元夫』は最高のドラマである。(7/10)





【ここ2年の海外の咳シーン】


Kehlani「shooter interlude」(2022)

5秒間に渡る咳。少なくともここ3年で最も面白い咳を楽曲中で採用したのはケラーニだ。(9/10)





Tyler, The Creator「WILSHIRE」(2021)

 咳以外には2:24で笑い声も聴こえる。それにしてもこの徹底的に同じフレーズをループし続ける8分間なのにどうして難なく聴き通せてしまうのやら。(7/10)





Big Thief「Time Escaping」(2021)
https://youtu.be/CkIvGej2WyI

 2022年のベストとして既に名高いビッグ・シーフのアルバムから、昨年リリースされた先行曲。立体的な音響の中で確かに聴こえるエイドリアン・レンカーの咳は慎ましい。(7/10)







underscore「Where did you fall」(2021)

 咳払いよりも直後の鼻をすする音が心配になる。すごく風邪っぽいので暖かくして寝て欲しい。(6/10)






Phoebe Bridgers「I Know The End」(2021)

 最後に紹介するのはフィービー・ブリジャーズの傑作2nd『Punisher』を締めくくるこちらの楽曲。曲が進むにつれてバンドのアンサンブルが急速に洗練されていく展開は圧巻のひと言。その見事な調和に被さるフィービーの大絶叫。吐き尽くされる息、漏れ出る咳……。
 楽曲自体はこの壮大なアルバムのラストに相応しい大団円であるが、最後の最後は小さな吐息のような咳なのである。
 本作は2018-2019にかけて録音され、2020年6月にリリースされた。ちょうど世界中の街が咳を失っている頃だ。フィービーは最後に我々が必要としていた音を、まさに聴きたかったタイミングで与えてくれた。それが意図されていない偶然の産物であったとしても、その事実は決して揺るがない。(10/10)





まとめ





【咳音楽情報提供窓口】


  咳の聞こえる楽曲を発見した場合は、こちらのプレイリストに追加していって頂きたいです。記事中では扱い切れなかった咳も多くあります。
 Spotifyアカウント持っていれば追加ができる設定にしてあるので、勝手にガンガン追加して平気です。Spotifyアカウントを持っていない場合は私にDMして頂ければ追加いたします。

追記:誰でも自由に曲を追加できる仕様にしていたのですが、コラボ機能がなくなってしまいました。なのでもし追加したい曲がある場合はWater WalkのTwitterのDMか、あるいはもこみ(@mocomi__)までご連絡ください。

プレイリスト🔗
https://open.spotify.com/playlist/3WNyjEx7l5yT6Qwd6HMSzK?si=bSsMkb1STv2C6fXF0PM0-g


文:もこみ

※Water Walkはライター募集中です!希望者はTwitterのDMでご相談ください。


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