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fused / androgyne1

注)この記事には、美術品ではありますが、裸体が表現された画像があります。また、大切なことを末尾に記載しています。

ヘルマプロディートスとサルマキス

ギリシャ神話の中に、次のようなエピソードがあります(Wikipediaから。英語版とは少し書きぶりが違うので、興味のある方はリンク先の英語版も見てみてください)。タイトルの絵画は、Carl Bertlingの Salmacis en Hermaphroditusです。二人の表現がロマンティック(はっきり言うと、他のものに比べて生々しくない)であるため、タイトル画像に選びました。

ヘルマプロディートス(父ヘルメースと母アプロディーテーの子)はプリュギア(現トルコ)の聖山であるイデ山でニュンペーによって育てられた。15歳のとき、生まれ育った環境に退屈してリュキアやカーリアなどを旅して回った。ハリカルナッソス(現トルコ・ボドルム)近くのカーリアの森の泉で、ナーイアスのサルマキスと出会った。サルマキスはこの少年に対する情欲にとらわれ、彼を誘惑しようと試みたが、すげなく断られた。彼女が立ち去ったのを見たヘルマプロディートスは服を脱いで、誰もいなくなった泉へ入っていった。そのとき、木陰に隠れていたサルマキスが駆け出して泉に飛び込んだ。彼女は少年を抱きしめ、無理やりキスをしてその胸に触れた。彼は抵抗したが、彼女はどうか自分たちを離れ離れにしないで欲しいと神々に訴えた。彼女の願いは聞き届けられ、二人の体は融合して一人の両性具有者となった。羞恥と悲嘆に暮れたヘルマプロディートスは自分からも神に誓願を立て、この泉の水を浴びたものはみな自分と同じような体になってしまえと泉に呪いをかけたという。
https://en.wikipedia.org/wiki/Hermaphroditus

このエピソードだけを読むとサルマキスは異常者にしか見えないのですが、神話でのサルマキスの描かれ方によれば(https://handwiki.org/wiki/Unsolved:Salmacis)アルテミスの配下で唯一「異端」な者であったようで、少し同情の念が湧きます(アルテミスの側から見ると虚栄心が強くて怠惰なわけですが)。ヘルマプロディートスが入った泉も彼女の泉ですしね。サルマキスの願いは、(おそらくは何らかの思慮によって)神々にかなえられたようにも感じます。ところで、ギリシャ神話の神々は何故か突然願いを聞き入れますよね。小学生のころにギリシャ神話を読んでいて、あまりの唐突ぶりにびっくりしてたことを思い出しました。いずれにせよ、サルマキスと一体になったヘルマプロディートスは、泉に呪いをかけるほど悲嘆してしまったようです。

サルマキスと一体になった(fused)ヘルマプロディートスの彫像が、古くから作られています。

Lady Lever Art Gallery 収蔵
Altes Museum 収蔵

そもそも、前回の記事に書いたGoogle Arts & CultureのArt Selfieで遊んだときにこれらの彫像を見つけたのですが、彫像の体形は私と良く似ています(現実を反映しているとは限らない彫像とはいえ、少し驚きました)。私の胸は大きいときは一つ目の彫像より少し大きいぐらい(胸のサイズは変動します)、腰からお尻のあたりは一つ目の彫像と二つ目の彫像の間ぐらいでしょうか(二つめの彫像ほどの体の幅はありません)。女性的な体の特徴をもっと強調した彫像も他にあるのですが、強調する意味が自分にはよくわからないので省略します。興味のある方は、検索してみてください。

注釈1)これまでの記事に書きましたが、私の胸は中学生の頃から少しだけ膨らんでいます。お医者さんに指摘されたことをきっかけに検査したのですが、現在のところ原因不明です(医者によって意見が違っています)。体の一部についてアンドロゲン(男性ホルモン)に対する感受性が低くなっている可能性があるらしいのですが、本当のところはどうであるか、そして私のジェンダーに対する影響があるのかは、現在のところわかりません。

main and fused part

ヘルマプロディートスとサルマキスは融合(fused)しました(神話では描かれていないようですがサルマキスの心はどうなったのでしょうね?)。私の心の本体であると感じるandrogyneも、femaleとmaleが融合しています。"fused"の言葉どおり、両者は一体となって分離することができません。例えば、赤いビーズと青いビーズとを混ぜて全体として紫に見えたとしても、その色は自分の心を表しているようには思えません。赤と青のビーズは、それぞれが単色のビーズであって融合していないためです。ビーズの混合は、androgyneとは異なる別のジェンダー(例えば女性と男性のバイジェンダー)になると私は理解しています。

ノンバイナリーのジェンダーを表す言葉として、中性と両性があるようです。両性は、異なる色(赤と青に限られないし、二色に限られない)のビーズの混合に喩えられるジェンダーを意味するようです。既に述べたように、私はこれには該当しません。中性は、女性と男性の間にいると感じるジェンダー(gender neutral)と一般的に説明されているようです。両性ではない以上、残るは中性なのですが、私のジェンダーがこれに該当するかといわれるととても違和感があります。お互いに融合している女性と男性を同時に感じており、その「間」に自分がいるとは感じていないためです。融合した性(fused gender, integrated gender)という表現がぴったりくるように思えますが、検索してみても、ジェンダーについてそのような表現は出てこないようです。このように感じている人はあまりいないということでしょうか?

避けて通れないもの

私の心の中心にあるコアは、ある意味純粋な存在であるため、詳しくオープンに説明しても社会的な問題(体面と言っていいと思います)は生じないと思うのですが、本体であるandrogyneをオープンに説明することは、社会的な問題上、少し難しいかもしれません。身体の違和感、そして性的な行動や想像は本体であるandrogyneから出てきているように思うのですが、典型の男性とは全く違うはずです(典型の男性がどう考えているか具体的に知っているわけではないのですが、彼らの言動をあまり理解できないことから、違っていると考えてよいように思います)。今回のテーマにおいて避けては通れないトピックなのですが、どのように説明するべきかについて少し考えてみます。

ヘルメスとアフロディーテ

私は、心の中心にある赤いコアであるfemaleを、本体を明るく照らす太陽のように暖かく感じています。コアは、本体であるandrogyneの冷徹さを抑えて優しくしているように思えます。

記事を書いている途中でたまたま気づいたのですが、太陽の周囲には、ヘルマプロディートスの父母であるヘルメス(水星)とアフロディーテ(金星)が周回しています。中心の太陽に照らされている点では、まるで私の本体のようです。だからなんだと言われれば、それまでですけどね。

とても重要なこと

神話のキャラクターであるヘルマプロディートスを語源とする、ジェンダーではなく身体のノンバイナリー性(体の性はグラデーションであって、両極に位置する典型の女性や男性に属さない特性)を示す言葉があります。この言葉をはじめとして、DSDs(disorders of sex development)の方々に対する差別的、侮蔑的な言動が過去より存在し、現在でも解消しているとはいえない状況であるように思います。私の用語の使い方に誤りがある場合は、大変申し訳ないのですが、ご指摘をお願いできないでしょうか。

また、DSDsと、いわゆる性的マイノリティは直接結びついていません。これらの混同やDSDsの意図的な利用による、DSDsの方たちにとってはある意味侮辱的ともいえる言動も散見されます。私自身、十分に理解しているとは言えないのですが、この点を心に留めていただけますようお願いいたします。