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【ダイレクターズ】『彼方のうた』【HOME】

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。



ダイレクターズの第一弾トップバッターでご紹介するのは、1/5㈮公開の杉田協士監督『彼方のうた』です。

(C)2023 Nekojarashi Inc.

『彼方のうた』

2023 | 監督:杉田協士

2024/1/5(金)より
ポレポレ東中野、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサほか
全国順次公開

オフィシャルサイト

スタンダードサイズの外側から漂う、悲劇の香り

杉田監督の作品を初めてご覧になる方は、もしかしたら驚くかもしれません。
冒頭から説明らしい説明は特になく、淡々と登場人物の行動を観察していくようなカメラワークが続きます。
気がつけば作品世界に入り込んでいる、という不思議な鑑賞体験を提供しています。
いわば、余白というものを感じさせる監督で、物語や登場人物の関係性までも観客の想像の余地が残っており、どこまでもオープンで風通しの良い作品です。

それは特徴の一つでもあるスタンダードサイズのフレーミングにも表れています。
最近のテレビやネットでの動画は16:9、映画では横に長いシネスコやビスタというアスペクト比が主流です。
そんな中で杉田監督は一貫して4:3であるスタンダードサイズを選択しています。
これはもしかすると撮影を手掛けている飯岡幸子さんの影響かもしれませんが、スタンダードにすると複数人の会話などのシーンではどうしても全員をフレームに入れることができません。
したがって、発言している人物やそのリアクションはパンを振って移動したり、カットを割って別々に見せることになります。
すると、カメラに写っていないフレームの外側の存在を常に感じることに。
これが風通しの良さの一因ではないかと考えています。
写っているもの以上の広がりある世界を4:3のスタンダードサイズで表現してしまう、映画の醍醐味ではないでしょうか。

時にこの風通しの良さは、不吉な香りまで運んでくることがあります。
杉田監督作品では明確に説明はされないですが、登場人物やその周辺で悲劇を感じさせます。
前作『春原さんのうた』での春原さんの不在や、本作でのメインキャストを結びつける動機に繋がる部分です。
説明されたり描かれないからこその想像により、オープンでありながら緊張感が途切れず作品としての形を保たせているようにも思えます。

フィクションとノンフィクションの境界

杉田監督の作品では、職業俳優ではないキャストがしばしば登場します。
メインキャストが訪れたり、所属しているコミュニティの他のメンバーがプロではない役者、もしくは一般人が演じていたりもします。
それは見ているとなんとなく感じることですが、別に演技が下手であるというわけでは全くありません。
言葉では中々表現しづらいのですが、あまりにもフィクションとしての演技にしては異質な手触りがあり、職業俳優であるキャストまでも飲み込んでいく不思議な空気感が出来上がっていきます。
明確にフィクションとして撮られた作品でありながら、どことなくノンフィクションを感じさせる読後感はここから来ているのでしょう。

実はこれらのアプローチは杉田監督だけでなく、近年の日本映画で見かける手法となっております。
三宅唱監督は『ワイルドツアー』で意図的に虚実をないまぜにした作品を撮り、『ハッピーアワー』で濱口竜介監督は演技経験の乏しいキャストをワークショップから指導し、ロカルノ国際映画祭での最優秀女優賞まで導きました。
ノンフィクション畑の小森はるか監督も瀬尾夏美さん組んだ作品『二重のまち/交代地のうたを編む』でドキュメンタリーでありながら“演技をする”という要素を加え、その過程をノンフィクションとして捉えるという構造を構築していました。
フェイクドキュメンタリーやモキュメンタリーと呼ばれる手法とも異なったこれらのアプローチは、
カメラを向ければそこには必ず“嘘”が混ざり込み、その嘘さえも引っくるめて“真実”である
というような潔さを感じさせます。
各々の監督たちが意図するところはそれぞれ異なるかもしれませんが、とても興味深い潮流であり、今後も注目していきたいです。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

(C)kinokoya 2022

にわのすなば GARDEN SANDBOX
2022 | 監督:黒川幸則
 
『彼方のうた』で人々が集まる場所として登場するのが“キノコヤ”と呼ばれるカフェ&バーです。
実は聖蹟桜ヶ丘に実在するお店で、オーナーの黒川由美子さんは出演もされています。
『春原さんのうた』でも重要なシーンで登場し、杉田監督作品でおなじみのキャストがチラホラ顔をのぞかせます。
黒川さんの夫、黒川幸則監督の作品『にわのすなば GARDEN SANDBOX』はキノコヤ映画の初製作・配給作品です。
もちろん映画の中にもキノコヤが登場します。
川のそばのロケーションが素晴らしく、印象的ですが両作品のテイストはかなり異なります。
そのあたりの違いを見比べて楽しんでもらえればと思います。

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