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【ダイレクターズ】『蛇の道』【HOME】

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。


ダイレクターズ第九弾は、6/14㈮公開の黒沢清監督『蛇の道』です。

(C)2024 CINEFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA

『蛇の道』

2024 | 監督:黒沢清

2024/6/14(金)より
全国劇場公開

オフィシャルサイト

黒沢清監督イヤー

2024年は黒沢清監督の年です。
あえてこう言い切ってしまいたいと思います。
一番の理由としては、新作が3作品も公開されるからです。
映画製作には時間がかかるので、当初から意図していたというよりは偶々のタイミングで重なったというのが実情でしょうが、それにしても重大な出来事と言えます。
ひとりの監督作品が同じ年に複数作公開されることはしばしばありますが、今回の黒沢監督作品は今後の日本映画の行方を指し示すような象徴的な成り立ちや性質を持つ作品が並んでいます。
何を隠そう、この“ダイレクターズ”という企画を行う動機として、この3作品の公開発表が大きな原動力となったところがあります。

まずは9/27公開の『Cloud クラウド』ですが、黒沢監督作品には初めての参加となる菅田将暉さんを主演に迎えたサスペンス・スリラーです。
現段階ではそれほど情報は明かされていませんが、古川琴音さん、奥平大兼さん、岡山天音さん、窪田正孝さんなど今をときめく若手俳優たちが集結しており、日本映画のど真ん中をいく作品になっているのではと予想されます。
黒沢監督がこの規模でジャンル映画を撮り続けてくれることが、一つの希望になっていると言っても過言ではないでしょう。

続いては中編作品『Chime』です。
こちらはかなり変則的な成り立ちの作品で、Roadsteadという配信プラットフォームのために製作された映画です。
初期の頃を思い起こすような、不穏で不可解な空気が充満しており、中編ならではの意欲的な作品と言えるでしょう。
プロデューサーの方々をお招きしたこちらのトークで詳しくお話して頂いています。

劇場公開を担保しつつも、世界中にスピード感を持って届けられるこれらの仕組みは、今後のスタンダードとなっていくのか?
とても注目の試みです。

そして、『蛇の道』です。
今作は1998年に黒沢監督が発表した同名作品のセルフリメイクです。
当時のキャリアを振り返ると、前年に『CURE』という20世紀に名を残すサイコスリラーを撮り、一躍世界から注目される監督へと駆け上がった黒沢監督でした。
しかし、『蛇の道』を語る上で重要となってくるのは、“2本撮り”という制作体制です。
Vシネマと言う、VHSでリリースすることを目的とした作品形態がありました。
ソフトリリースがメインとなっているので通常の映画よりは予算が少ない作品となっていたため、そのままのスタッフィングで2作品を連続して撮影し、諸経費を抑える“2本撮り”が採用されていました。
黒沢監督はそのシステムの中で作品を量産しています。
哀川翔さんと前田耕陽さんのコンビで送る『勝手にしやがれ!! 』シリーズは2年間で6作も制作されました。
そして、同じく哀川翔さんとのタッグで生み出されたのが『蛇の道』です。
この作品は『蜘蛛の瞳』との2本撮りで作られ、『蛇の道』は高橋洋さん脚本、『蜘蛛の瞳』は黒沢監督自身が脚本を手掛けています。
この体制は前年に撮られた『復讐 運命の訪問者』『復讐 消えない傷痕』でも取られていた座組で、ここに傑作たる要因が隠されています。
比較的自由度が高い枠組みの中で、二人の作家がそれぞれの方法でジャンルを再解釈するような脚本を書き上げています。
さらにその脚本を元に、濃密に圧縮された制作期間で撮られることで、異様なテンションがパッケージをされました。

セルフリメイクの意義

復讐劇という、フィクションの中でフォーマットが確立した作劇を、横滑りするように進みながら復讐という行為の本質に迫る『蛇の道』のオリジナル脚本はとても素晴らしかったと黒沢監督も述べています。
ではなぜ、今セルフリメイクを試みたのか?
フランスのプロデューサーからのオファーで、「もしフランスでセルフリメイクをするならどの作品を選ぶか?」との問いに即答で『蛇の道』を挙げたそうです。
現代に語り直す意義を見出すとすれば、その手掛かりは今回変更された部分に注目します。
一つは舞台ですが、日本からフランスへの変更は元々フランスで撮るという企画であったと推測できます。

もう一つ、復讐を手助けする主人公が男性から女性に変更されています。
オリジナルでは哀川翔さんが、飄々とした塾講師として登場しましたが、今作では同じポジションに当たるキャラクターの精神科医を柴咲コウさんが演じています。
もちろんジェンダーによる差異がキャラクターに影響を与えてもいますが、より明確に復讐に加担する姿が描かれているように思えます。
ここから先は実際に映画をご覧頂いて、差異や共通点を確認しながら、黒沢監督が目指した復讐劇の先を見届けて頂ければと思います。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

『蜘蛛の瞳』
1998 | 監督:黒沢清

もちろんオリジナルの『蛇の道』をご覧いただくことはマストとして、同時期に視聴するなら2本撮りのもう1本、『蜘蛛の瞳』をオススメします。
『蛇の道』も一筋縄ではいかない復讐劇ですが、『蜘蛛の瞳』はよりおかしなことになっています。
復讐に駆られた主人公が映画冒頭で早々に復讐を遂げてしまいます。
その後の空虚な日常を描いた作品となっており、バカンス映画のようなゆったりとした空気と決定的な暴力のバランスが絶妙です。
こちらの作品も南国あたりでセルフリメイクされたモノを見てみたい気もします。

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