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ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番=「ロシア正教会の鐘の声 諸行無常の響きあり」

「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり……」といえば平家物語である。生きているとたまにこういう気分になる時がある。

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
【現代語訳】
祇園精舎の鐘の音は、「諸行無常」、つまりこの世のすべては絶えず変化していくものだという響きが含まれている。沙羅双樹の花の色は、どんなに勢い盛んな者も必ず衰えるという道理を示している。世に栄えて得意になっている者がいても、その栄華は長く続くものではなく、まるで覚めやすい春の夜の夢のようだ。勢いが盛んな者も結局は滅亡してしまうような、風の前の塵と同じである。

(出典)
https://pdmagazine.jp/works/heike-monogatari/


で、これってつまり、

ラフマニノフで言うところの、ピアノ協奏曲第2番冒頭で鳴り響くロシア正教会の鐘の音を表現したピアノの和音のことだよね?

と思い、音源を探す。ラフマニノフ本人による演奏のものが出てくる。今まで存在は知っていたものの、録音が古いので音質が気になってほぼ聴いたことがなかった。


なんとなく再生してみると、とてつもない音楽がそこに広がっていてあっという間に引き込まれ、結局最後まで聴いてしまった。31分間であらゆる景色が見えた。ロシアの厳しい冬、芽吹き、雪解け、春の訪れ、混沌、絶望、救済、歓び、全てが詰まっている。顔をしわくちゃにするでもなく、ただツーッと涙が流れてくる。

目を閉じて聴くと、ラフマニノフのピアノの手の動き、少し引いて後ろに並ぶオーケストラ、金管楽器のベルが上がる様、歓びのファンファーレ、弦楽器の弓なり、主旋律の流れるような調べ……コンサートホールの風景全てが見えるようだった。ラフマニノフの手の動きは本当に見えた。とてつもない速さだった。こういう時、ピアノをやってて良かったと思う。

ラフマニノフは凄い。凄いという単語しか出てこないのが不甲斐ないけど、あまりに凄いと、凄いとしか言えなくなる。こんな大曲が作れるのも凄いし、そもそもピアニストとしてもめちゃくちゃ上手いのも凄いし、その2つを兼ね備えているのが信じられない。たった100年前に起きたことと思えない。どうなってるんだ。神様ってそんなすぐ最近にいたんだ。

ラフマニノフはロシアを旅立ってから祖国に帰ることはできなかった。

そんなラフマニノフが、1917年の演奏旅行で出国して以来、二度と祖国の土を踏むことができなかったのだから、人の運命というものはわからない。十月革命による混乱を避けて、ラフマニノフは家族とともに北欧へのツアーに出かけた。これが祖国との別れになる。

(出典)
http://music.usen.com/special/classic201311/


二度と祖国の土を踏むことができなかったタイプの作曲家の音楽はどうしてこうも胸に刺さるんだろう。ショパンといい、ラフマニノフといい、国単位の抗えない大きな運命があると、人は見える世界が変わってくるのだろうか。

そういえばラフマニノフの音楽はパーソナルな感情よりももっと広い物事を描いているような気がする。社会と時代を映す音楽というか、激動を表している。聴いていてもあまり個人的な感情とは結び付かない。それは私自身が国単位の抗えない運命に晒されたことがないからかもしれないが……。

ラフマニノフ本人によるラフマニノフピアノ協奏曲第2番、この録音がこんなに鮮明に残っていることってちょっと信じられないというか、奇跡ってこんな身近に転がってるんだ、しかもYouTubeに。

ラフマニノフピアノ協奏曲第2番は元々大好きなのでいろんなピアニスト✕オーケストラの演奏を聴いてきた。その中でも、ラフマニノフ本人の演奏と指揮(演奏時に振ってはいないけど事前指示の指揮者役割は務めたに違いない)は全体を通して一番自然な流れだった。ピアノもオーケストラも。整合性があるというか。そりゃ曲を作った本人が指示して表現を決めてるんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、作曲家として頭で思い描いた通りにピアニストとして演奏できるかどうかはまた別だから、やっぱり凄い。

この録音を聴くと、クラシックの演奏家=一種のイタコと捉えてきた価値観が根底から覆る衝撃があった。本人の録音という完全なる正解があるなら、今まで私たちがこぞって行ってきた「解釈」の名のもとの表現してきた個性に富む演奏の意味ってなにーーー!?

とまあ、私ごときがいちいち解説するのも意味がないので、興味のある方は聴いてみてください(アマプラでも聴けます)。

https://music.amazon.co.jp/albums/B014K893B4?ref=dm_sh_P35lb5LdSDO9yIrJD6eC5Jrh2

音質は確かにノイズ(というか空間の音)が乗っているので良くはないけど、100年前のレコードと思えば問題ない。私は聴覚過敏になってしまったので本当に不快な音があったとしたら聴けないんだけど、この録音の場合は聴けた。音楽の部分はすごく綺麗に残ってる。ホント凄い。ありがとう……!!

聴覚過敏になると、普通じゃ聴こえない細かい音まで聴こえるので、ある意味ではすごい能力かもしれない(けどロックとか聴けなくなってつらいし体調も悪くなるからいらない)。

クラシックを聞き慣れない方向けの鑑賞のコツとしては、演奏時間の31分間、なんの邪魔も入らない環境を整えると入り込みやすいです。片手間で聴いても良さはわからないので。スマホも何も見ず、目をつむって、心の中のコンサートホールを訪れるような感覚でとうぞ。

ピアノ協奏曲第2番の冒頭で鳴り響くロシア正教会の鐘の音を表現したピアノの和音のことがもっと知りたい人はWikipediaをご覧くださいね〜〜〜

第1楽章
Moderato ハ短調 2分の2拍子 自由なソナタ形式
主題呈示部に先駆けて、ピアノ独奏がロシア正教の鐘を模した、ゆっくりとした和音連打を、クレシェンドし続けながら打ち鳴らす。導入部がついに最高潮に達したところで主部となる。

(出典)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ピアノ協奏曲第2番_(ラフマニノフ)


変なnoteだなこれ……


おわり

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞