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【世界一分かりやすい】ファイアパンチ終盤の解説と考察

※この記事は漫画『ファイアパンチ』のネタバレを含みます。
※全話読み終えたうえでの閲覧を推奨します。

「ラストがよく分からない」と言われがちな漫画『ファイアパンチ』。
しかし、意味不明に思える描写でも、明確な意図があって描かれています。
本記事では、それらの解説と考察をしていきます。
※最後にファイアパンチの物語を1ページにまとめた画像を載せています。


【サン討伐後の展開】

本作で混乱の種となっているのはおそらく、サンを倒した後の展開だと思われるので、まずは流れをざっくりとおさらいしましょう。
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少し省いた箇所もありますがざっくりいうとこんな感じです。
では早速、順を追って解説していきます!


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【①ユダがアグニに抱き着いて燃える】

前提としてユダは旧世代人(完全体)なので、全ての祝福が使えます。
※4巻収録38話、5巻収録49話参照。

・よってユダ自身が燃えることはなく、衣服だけが炎に包まれていきます。

・ここでの会話は、ユダからアグニ(兄さん、ファイアパンチ)への別れです。
彼がこれから“生まれ変わる”ことを示唆しています。


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【②アグニの顔が割れる】

・ユダは祝福を使い、アグニの右脳から“再生の核”を取り出します。
それによってアグニは“消えない炎”から脱することができます。
※4巻収録34話参照。


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【③顔の割れたアグニは倒れて、全裸のアグニとユダが現れる】

・倒れているアグニは、私たち読者がずっと見てきた“あのアグニ”です。
もう一人の彼は、核から再生した“新しい人物”です。


・記憶を無くし、この10年間ルナとして生きていたユダは、祝福を使った影響で自我を取り戻します。
※6巻収録52話、7巻収録62話参照。

一方で再生の核から取り出された(壊された)彼は、以前のユダのように記憶を失い、幼児退行します。
※6巻収録52話、7巻収録64話参照。

・ユダは彼のことを「何者でもない」と言います。
それは①で語られた『生まれ変わる』が果たされたことを意味します。


・ユダはネネトに彼を幸せにするようにいいます(アグニがユダにしてくれたように)。
※7巻収録66話参照。
《考察ポイント》

・ユダであれば、再生の核を取り出さずとも炎を消すことができましたが、それだと“アグニのまま”なので核を取り出すという選択肢を取ったんだと思います。


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【④ユダが木になる】

・ユダは祝福の仕組みを利用して木になり、“地球を暖める”という選択肢をとります。
※4巻収録38話参照。

・地球を暖めることによって“氷河期を脱する”ことができます。
※4巻収録38話参照。


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【⑤アグニは初めて嘘をついた時のことを思い出す】

・アグニの幼少期のエピソードが語られます。
それはルナと共に過ごしたとある晩の出来事です。
いつもは空腹でなかなか寝付けずにいましたが、その日は腹と幸福感に満たされ、すぐ眠りについたというものです。
《考察ポイント》

・彼らにとって“すぐ眠りにつけること”は“幸せの証”だったと考えます。
現にアグニは、ずっと痛みや罪の意識に囚われ、寝付けずにいます。
※1巻収録3話、2巻収録15話、6巻収録56話58話、7巻収録63話69話参照。

・眠っている描写はたびたび描かれますが、どれも負傷などで気を失ったのが原因です。
※6巻収録52話55話56話、7巻収録61話63話参照。

・しかし物語冒頭、ルナとの生活描写では、すぐに眠りについています。
それはおそらく“幸せ”だったからでしょう。

※1巻収録1話参照。


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【⑥アグニとルナで映画を観る】

・前提として映画館で座って映画を観るという行為は“死”を意味します。
※4巻収録35参照。

・ルナは物語冒頭で死んでいるので、もうすでに座席について映画を観ています。
※1巻収録1話、5巻収録48話参照。

・アグニはルナの隣に座り、映画を観始めます。
これはアグニの死を意味します。


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【⑦80年がたつ、彼はサンになっている】

・生まれ変わった彼にネネトは“サン”の名前を与えます。
(③ではネネトがサンのことを愛していたのではないかと思われる描写があります。)

・サンとして生きる彼ですが、心のどこかで“アグニの存在”を感じています。

・彼が年を取っていないのは、アグニの肉体(再生の祝福)を引きつでいるからです。


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【⑧『ファイアマン』をサンが観る】

・⑦で探し求めていた、今は亡き前世の自分(アグニ、ファイアパンチ)とスクリーン越しで出会います。

・この映画鑑賞はこれまでと違い、現実世界のただの映画鑑賞なのでサンが死んだわけではありません。
《考察ポイント》

・拳を握る描写は物語冒頭と重なります。
つまり“生きようとすることの象徴”だと思われます。
※1巻収録1話参照。

・サンは⑦で死ねる薬を手にしますが、それを使わなかったのも、このシーンが関係していると思われます。

・トガタは死ぬ直前、映画館で“過去の自分”を鑑賞していました。
その際「本来なりたかった自分
(映画の主人公のように誰かを助けたかった)」を思い出し、息絶えるまでの短い時間、その信念に従います(沈むアグニを引き上げる)
※5巻収録48話参照。

・トガタと同じように、この映画鑑賞によって彼の心情は変化します。
つまり肉体的な死ではなく、「これまでの自分とは違う」というような、内面的な死を表していると考えます。


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【⑨数百年たつ、ユダは暇と年月のせいで色々忘れる】

・④で「なぜユダは自ら進んで木になったのか」が明かされます。
それはアグニの生まれ変わりである“サンの幸福”を願ってのことだったのです。


・しかし彼の名前も、自分の名前も、歩んできた人生すらも忘れてしまいます。

・覚えているのは自分の役割だけです。


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【⑩数千年たつ、ユダはもっと忘れる】

・ユダは自身の役割さえも忘れてしまいます。

覚えているのはサン(アグニ)のうっすらとした姿だけです。


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【⑪数千年たつ、地球は粉々になっていた】

・ユダは退屈で仕方がありません。

地球も衝突物のせいで粉々になってしまいました。


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【⑫数千万年たつ、サンとユダが出会う】

・⑪で地球は崩壊しましたが、サンは“再生の祝福”のおかげで生きながらえていました。

・人との再会に喜ぶ二人ですが、お互いに記憶はありません。

・さらにここは宇宙空間なので、ユダが声を発してもサンの耳には届きません(ユダは心を読む祝福でサンの言っていることを理解できます)。
※3巻収録25話参照。

・しかし彼らにとって出会えたことの嬉しさがあまりに大きく、そのことにすら気づかず笑いあいます。
《考察ポイント》

・ユダは自分のことをルナと名乗りますが、実際は“ユダのまま”だと思われます。

・ユダはアグニ(サン)の存在だけは心のどこかで感じていました。
ルナと名乗った理由はおそらくアグニがずっとそう呼んでいたからです。
(ちなみに②で、アグニがユダに最後にかけた言葉が「ルナ」だったからとも言えます。)
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【⑬寝る】

・二人はそのまま眠りにつきます。
《考察ポイント》

⑤で考察したようにすぐ眠りにつくことは“幸せ”を表します。

・⑨からこの⑬に至るまでユダはずっと考え事をしていて、寝ている描写はありません。
つまりサンもユダも、お互いに出会うまでは満たされて無かったんじゃないでしょうか。
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【⑭アグニとルナは映画を観終わる】

《考察ポイント》

・ここで重要なのは“宇宙に漂っていた二人が死んだわけではない”ということです。
宇宙にいるのは“サンとユダ”で、映画館にいるのは“アグニとルナ”です。
(つまり⑭は⑥の描写の延長です)。


・⑬で述べた通り「眠った」という表現はあくまで二人の幸せを表現をしているものだと考えます。

・ではなぜアグニとルナが最後に描写され、彼らは“席を立っている”のでしょうか。

・それは二人が“次の生命になる”ということを意味してるのではないでしょうか。
(劇場を出る=死の世界から脱却、輪廻転生)

・宇宙にいるサンとユダの構図は“アダムとイブ”のようなものです。
二人の男女が出会うことで“新しい生命”を生み出すことができます。
よって“サンとユダが生み出す新しい生命”が、アグニとルナの“これから”なのではないでしょうか。


【おわりに】

アグニはピュアだから、村の人たちを救いたかったし、妹を救いたかったし、世界中の人たちを救いたかった。
しかし、そういった行動が全て裏目に出て、結局救えたのは来世の自分だけだった。

そういうお話だと思います(個人的感想)。

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解説と考察は以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事を読んだ感想や、その他の考察があれば是非お寄せください。

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