【2022年】データで紐解く獣害対策・ジビエ利活用
ちょっと時間があいてしまいましたが、最新の業界動向についてまとめてみました。最新のデータではイノシシやシカ等による農作物被害額は161億908万円(2020年度)。柵設置による防除、捕獲活動といった対策により減少傾向にあったものの前年比2%の増加。また生息域の拡大に伴い対策が手薄だった地域で被害が増えた地域があるなど地域による差が生じているようです。最新の獣害対策・ジビエ利活用の状況について振り返ってみましょう。
鳥獣被害額は2011年以来9年ぶりに増加
2020年度はイノシシやシカの捕獲数は増えているものの(環境省・2020年度)、農作物被害額は約161億円(農林水産省・2020年度)と、2011年以来9年ぶりに前年比より2%増加しています。
生息域拡大地域を中心に被害に対策が追い付いていない状態
長期にわたり獣害対策に積極的に取り組む長野県や兵庫県などでは、被害額が減少する一方、生息域が拡大していたり被害対策が手薄になっているエリアを中心に生息数が増加したと見込まれる東北や九州の一部では捕獲頭数・日額額ともに増加傾向。(2021年10月24日付日本農業新聞)
また、上の図にはありませんが北海道で鹿による被害額増加の報告もあります。従来、牧草の被害が多かったものの、シカの生息域が牧草の多い東部から西部へ拡大し、牧草より単価の高い畑作物などの被害が増えたことが要因となっているそうです。(2021年12月7日付日本農業新聞)
行政主導の捕獲がメイン、その傾向はより顕著に
鳥獣被害防止対策の予算が大きく増加した2011年以降、有害や指定管理といった行政主導の捕獲は増加し、年々その割合が高まっています。有害や指定管理における捕獲頭数は2011年と比較し、ニホンジカで2.2倍、イノシシで2.5倍と大きく増加しています。(環境省・2020年度)
※グラフの「有害・管理捕獲等」には、環境大臣、都道府県知事、市町村長による鳥獣捕獲許可の中の「被害の防止」、 「第一種特定鳥獣保護計画に基づく鳥獣の保護」、 「第二種特定鳥獣管理計画に基づく鳥獣の数の調整」、 「特定鳥獣保護管理計画に基づく数の調整」及び「指定管理鳥獣捕獲等事業」が含まれます。
実際、鳥獣被害防止対策の担い手である認定鳥獣捕獲等事業者は157(環境省・2022年2月)、捕獲活動だけでなく防護柵の設置なども行う鳥獣被害対策実施隊設置市町村数も2021年4月末時点で1,229 (農林水産省・2022年2月)と年々増加傾向にあります。
獣害対策は狩猟免許非保有者を巻き込み地域ぐるみで
とはいえ、少子高齢化などにより獣害対策の担い手確保は各地で課題となっています。
2011年『鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針』の改定により、狩猟免許を持たなくても有害鳥獣捕獲への補助者としての参加が、一定の要件のもと可能となったことも踏まえ、最近では狩猟免許を持っていない人の協力も得るような地域ぐるみでの捕獲体制構築などの事例も見られるようになってきました。
岡山県玉野市では、狩猟免許を持っていなくとも、講習を受けた住民が罠の設置手伝いや見回り、餌やりなど捕獲のサポートを行っています。実際のこの住民主体の「イノシシ捕獲隊」による取り組みでは、2020年度のイノシシ捕獲数は686頭(11年度の約7倍)、被害額も約80万円と10年前と同水準に抑えています(2021年11月30日付日本農業新聞)。
他にも山口県下関市では被害集落と猟友会が連携し、罠の管理は猟友会が罠周囲の草刈りや餌やりは地元でといった被害集落と猟友会が連携した取り組みなどもみられます。(農水省)
ジビエ利用に豚熱・コロナが冷や水!?ふるさと納税は増加
2020年度の全国のジビエ利用量は1,810トンと前年度より10% 近く減少しました。豚熱による出荷制限に加え、コロナにより主な取引先である飲食店が休業や時短営業などを行っていた影響と考えられます。実際、加工施設を対象としたアンケート(農水省)でも、コロナ前と比べ1カ月当たりの売上最大減少率が50%以上となった加工施設が半数以上に上ったとのことです。
一方、ふるさと納税の総合サイト・ふるさとチョイスを運営するトラストバンクによると、2021年6月時点で返礼品にジビエを扱う自治体数は3年間で2.9倍、寄付額は同7.6倍に増額したという報道(2021年8月12日付日本農業新聞)や、栃木県のジビエ利用量が2020年度には過去4年と比較し2.3倍になったという報道(2021年12月10日付日本経済新聞)もあり、地域産品として押し出したり、新たな販路開拓の動きがみられます。
ジビエ利活用に対して今後心配されるものとして豚熱があげられますが、2018年9月に岐阜県で豚熱が発生以来、現在野生イノシシでの豚熱感染が確認されている地域は25都府県(農林水産省・2021年12月現在)にのぼります。
「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」の改定により、2021年4月より、豚熱感染確認区域で捕獲されたイノシシでも豚熱陰性であればジビエ利用は可能になっているものの、今後豚熱発生地域が拡大した場合、イノシシの利活用については大きな影響が出ることが見込まれます。
まとめ
被害額については9年ぶりに微増しましたが、生息域の拡大とともに地域差が顕著になってきています。あわせて獣害対策に取り組む組織などの整備も進んでいますが、確保・維持には課題もあり地域住民も巻き込んだ取り組みが多くみられるようになっています。
ジビエの利活用についてはコロナや豚熱などによる影響が懸念されるものの、ふるさと納税といった新たな販路開拓など、利活用の機会を増やそうといった努力がみられました。
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