占領下の抵抗(注xxii)

人工言語エスペラントの創案者ザメンホフは、エスペラントを完璧なものと思っていた訳ではなく、それが変化していく事を全面的に否定してはいません。しかしザメンホフが認める変化はとても限定的です。

エスペラントの改造案による混乱とエスペラント運動の分裂の危機のあと、以前の著作から編纂された「エスペラントの基礎」への序文(1905年)のなかでザメンホフは

国際語の順調な前進のためには

明確に規定され、何人にも不可侵の、ぜったいに変更を許さない言語の基礎の存在

「エスペラントの基礎」への序文
国際共通語の思想 エスペラント創始者ザメンホフ論説集

が必要であると述べています。

そしてその上で

エスペラントが確実に存続し使用され、個々の気まぐれや議論に左右されないことを保証する日が来たら、そのときには各国政府の合意の下に選出される権威ある委員会が、この言語の基礎に要望のある変更を必要あれば最終的におこなってもよい。

「エスペラントの基礎」への序文
国際共通語の思想 エスペラント創始者ザメンホフ論説集

とその基礎への変更の可能性を、限定的にだけ認めています。

そしてエスペラントについて

基礎は厳重に不可侵であるが、たえず内容を充実させるだけでなく、たえず改良し完成へ向かう可能性がじゅうぶんにあるのだ。基礎が不可侵ということは「そのような完成の過程が、恣意的で内輪揉めによる破滅のもとになる破壊や変更や、これまでの文献を無価値にしてしまうような改変に頼るのではなく、混乱も危険もない自然の道にしたがっておこなわれていく」ための保証となっているのである。

「エスペラントの基礎」への序文
国際共通語の思想 エスペラント創始者ザメンホフ論説集

と述べています。

しかし「自然の道」にしたがったときに、その変化が言語の基礎にまで及ばないという保証はないのではないだろうか?拙論で引用したソシュールの指摘はその事を示しているように私には思われる。


引用文献: 「国際共通語の思想 エスペラント創始者ザメンホフ論説集」L.L.ザメンホフ[著・述]水野義明[編集・訳]
1997年6月10日第1刷発行
著者: Lazaro Ludviko Zamenhof
訳者: 水野義明
発行所:株式会社 新泉者


参考文献:: 「ザメンホフ |世界共通語《エスペラントを創った医師の物語」
2005年1月24日 第1刷
著者: 小林司
発行所: 株式会社 原書房


この記事は↓の論考に付した注です。本文中の(xxii)より、ここへ繋がるようになっています。

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