掌編小説 落ち葉
いつもの公園のベンチで、いつものように文庫本を読んでいたら、頭上からからからと乾いた音が。
顔を上げれば、揺れ動く緑と、手を振る木漏れ日。そうして、くるくるふわりと落ちてくる葉っぱたち。砂利の上にぱさりと舞い降りたものもあれば、無口なものもあれば。
点々と、ベンチのまわりに蒔かれた、色のあせた木々のかけらをそっと眺めては、再び頁の上に目を戻し、小さく丁寧に並べられた文字を追いかけていく。
ぽつりと頭に。
肩に落ち、転がっていっては、腿の上の黄色。
紐をもどしては、本を閉じ。丸まった葉っぱを、目の前に持ってきて。左右を、そっと開いてみる。
端は濃く黄色く、ところどころは焦げたような茶色で。葉脈の集まる真ん中は、見慣れた緑。親指の腹で、その紋様をなぞりなぞり。
ふちはかさつき。中心は指の滑りが鈍く、うっすらと水気。鼻に近づけても、においはなく。
すぐ隣。ベンチの上に置いてみる。しばし見下ろしては、そうしてまた文庫本を開いては。
砂場の上に立つ時計を見やっては。目を閉じ、まぶたに木漏れ日をしばしあてがう。
やがて、睫毛を離れさせ、昼の光にぼんやりとなじませてから、文庫本の紐を戻しては。もう一度、垂らす。
ベンチの上の落ち葉を手にしては、その尾っぽを摘まんで、くるくると翻し、ながめる。そうして、頁のあいだにそっとはさんでみる。
了
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