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2024年3月 男鹿半島旅3

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 e-バイクにまたがり、まずは男鹿温泉を上っていき、「星辻神社→」みたいな看板を見かけ、字面に惹かれてそちらへと向かう。ここでもバス停の可愛らしいなまはげイラストをカメラで蒐集する。木立の間を抜け、地域の方々に大事にされていそうな、こじんまりとした星辻神社にご挨拶。境内には地蔵や小さな石祠が並んだ一角があって、扉の開いた(中は確か石仏)石祠の右側面にはおそらく「天保一四 七月」、左側面「願主 當村 傳助 女房」と刻まれていた。素直に読めば「天保14年(1843年)7月に、この村の傳助とその女房が建立した」小祠という意味だと思われるが、何だか村人の名前でこういった祠が建てられているのを見かけるのは初めてのような気がした。もちろん探せば沢山あるかもだけれど、ここまで文字の保存状態が良いのはあまり見かけたことがない。加えてこういうのを読むと、何だか勝手にその背景を想像してしまう。夫婦で建立したということは、子供の供養のためか。こうやって形に残したということに、何かしらの思いを感じます。一礼をして、神社をあとにします。
 さて、前方に小高い山を見据えて、堆肥の匂いのする畑地帯を駆けていきます。途中「←大滝」みたいな看板を見かけ、先述の菅江真澄の碑が建っていたけれど、滝までの道が荒れに荒れていて、林の中、水音すらも響いてこないので、まだ遠くだと判断して引き返しました(調べてみたら、岩穴の中を通る珍しい滝のようで)。というか、ずっとくねくねの上り坂。電動とはいえ、なかなか堪えます。平坦はまだかまだかとペダルを漕いでいけば、ようやく視界が開け八望台と呼ばれる展望地へ。その名の通り、八方がぐるっと見渡せます。男鹿半島のくびれから、反対に目を向ければ日本海。一ノ目潟、二ノ目潟と呼ばれる昔の火山爆発で出来たまあるい大きな池も見下ろせます。そしてとっても晴れている。んだけれど、風が割とあり、ちょっと冷えます。しかし展望台には誰もいなく、よい心地。
 さぁ、あとは山を下り、海沿いの道へ。海岸線を左廻りのルートとしたのは、より海に近い側を走れるようにするためでした。ガードレールの向こうに海が広がっております。空には遮るものがなく、下り坂だし、風も強く、もはや寒いです。しかし完全防寒してるし、どうにもできません。鬼の俵ころがし、と呼ばれる地層の景勝地を過ぎ、男鹿半島の岬、灯台もある入道崎にやってきました。11時半。岬の散策の前に、まずはランチです。観光地のお土産処兼飲食店、といった感じの賑やかな色合いの建物が並んでいるけれど、この入道崎では食べたいもの、行きたいお店がありました。それは観光色の強い一角の裏手にある、もの静かな佇まいの、大きな窓ガラスのお店。美野幸(みのこう)さん。ネットでは予約しないと入れなかったというクチコミが散見されたので、事前に予約しておきました。そしたら「最近は魚の水揚げがなくて、今はお答えができないので……申し訳ないけれど、月曜にまたお電話をいただけると」という感じで、もはや電話口から旅情を感じました(そうして次に電話したときに予約しました)。というわけで、シェフ姿の店主が「渡辺さんですか」と、お出迎え。出で立ちから観光地っぽくないです。もう体が冷えていたのでストーブ近くの席に着き、指先に熱を与えながら「天然真鯛の石焼定食」を注文。しばし温かいお茶を啜りながら待ちます。で、運ばれてきたのは、お盆の上に大きな桶。どくどく白く泡が立ち続け湯気が立っています。石焼の名の通り、熱せられた石が桶の中に入っているのです。女将さんより一通り説明を受けるが、見た目のインパクトが強すぎて、あまり頭に入ってこない。とりあえず、桶の中の真鯛を箸でつまめば──濃厚な味。わぁ、こんな濃い鯛は初めて食べた気がするぞ! 付け合わせのわかめもたらりと醤油を垂らせば、美味い! ご飯に胡麻と山葵をちょこんとして、汁と一緒に掻き込めば、めっちゃ美味い鯛茶漬け。「ご飯はお替わりもできますからね」とお声がけをいただき、無論お替わり。ちまちまとお茶漬けにして食べてたら、女将さんが桶を持ち上げ傾け、豪快にお椀の中に出汁を注ぎ込む。胡麻を振り、山葵も追加して、完全なる鯛出汁茶漬け。いや、本当に美味かった。堪能した。お昼にしてはかなり高かったけれど、満足です。ごちそうさまでした。
 そうして店を出て、海の向こうの白神山地を眺めるも、思いの外のんびりとしてしまい、もはや12時20分。男鹿温泉から出るバスは12時49分。間に合うか? と思いつつも、立ち寄らなかった入道崎に引き返して自転車を停めて、モニュメントっぽいところまで行って写真を撮って小走りで戻る。多分この奥に行っても、今まで海岸線で観てきた景色と同じはずだと思い込むことにする。そこからはひたすらにペダルを回す。12:25。正確な距離は覚えてないが、温泉までは6kmくらいのはず。自転車を返却する時間もあるから、12:40には到着していたい。巡航は時速20kmくらい。結構危ういぞ。とか思いながらも、スピードを落としバス停のイラストをカメラに収める。そうしてひたすら漕ぐ。脚を駆動させる。時間を見る余裕すらない。とにかく全速力。っと、「←男鹿温泉」と書かれた青看板。何か行きと道が違うけれど、青看板は絶対、と信じて、坂を下る。すると、見たことのある建物。まっすぐに観光施設へ。12:39。自転車を返却。かなり体が熱っぽくなってるけれど、何とかバスの時間に間に合いました。一本逃すと、大きく予定が狂うので割と焦りました。
 さて、上着を脱いで、青いバスに乗り込みます。車窓からのうららかな陽を浴びつつ30分ほど揺られ、男鹿駅ひとつ手前の羽立(はだち)駅前で降車。電車が来るまで少し時間があり、ちょいと周囲を散歩してみることに。住宅の合間を抜ければ、畑の向こうに朱塗りの鳥居。さすがに行って戻ったら電車の時間になりそうなのでやめておこう。とはいえ、ただ家々の合間の路地を歩くばかり。そうして再び駅前に戻ってくる。無人駅。ぴぴっとタッチして、ホームに上がる。待合室もあったけれど、リュックを地面に置き、手すりにもたれて日向ぼっこをして過ごします。やがて、行きに乗った男鹿なまはげラインが到着。さようなら男鹿半島。なまはげの習俗も興味深かったけれど、やっぱり耳どっこが際立っていたよ。

 そうして赤と青の鬼カラー車両に揺られ、戻って来ました秋田駅。巨大な秋田県のぬいぐるみがお出迎え。ちゃんとお尻に×マークがありました。
 秋田駅。今回、どこかにビュ-ンは「上越妙高、かみのやま温泉、新花巻、秋田」で申し込みました。どこでもいいから、温泉で疲れを癒やしたいと思っていました。だから正直言うと、市街地確定の秋田駅は当たらなかったらいいなぁ、と。でもちゃんと旅するの初めての土地だし当たったら当たったで嬉しいな、とも。ただ、繁華街でも温泉を確保する手段はちゃんとあります。そう、我らがドーミーインです。初日も温泉に泊まったけれど、やっぱり旅先では脚を伸ばして湯船に浸かりたいのです。というわけで、15時過ぎにチェックイン。出張組らしき方々が次々と。やっぱ人気なのね。部屋に入って、少しのんびりするものの、くしゃみ。続いてくしゃみ。こりゃたまらんとフロントに電話をし、空気清浄機の貸し出しは行っていませんかと問い合わせ。少しして今は余りがあったとのことなので、部屋に持ってきてくださる。これで少しは楽になる。
 さて、街に繰り出しましょうか。川反(かわばた)と呼ばれる一画に向かったのは、地ビールが目的でした。秋田美人のビールなるものを立ち飲みでごくごく。すっきりしてて美味。その後、秋田の色んなところの壁に描かれている竿燈祭りの資料館に出向けば、閉まったばっかだった。で、だ。今日はもう歩くの疲れたし、飲み屋に入っちゃおうか。ただ繁華街って明らかに鼻が鈍るから、予め検索で目をつけといた地酒の豊富なお店へ……。
 と、めちゃ渋い佇まいの店前を通りかかる。足を止める。暖簾は出てる。看板も点いてる。なのに、ガラスの向こうは薄暗い。やってるのか、これ。小ぶりな黒板に書かれたお品書きは、とても安い。ガラス戸の隅に貼られたpaypayの赤白シール。現代的な決済に対応している→一見お断りみたいな感じの飲み屋ではない、はず。いやでも、日本酒の銘柄は見えないし。飲みたかった地酒もあるし。というか、この店、すっごく入りにくいし。でもけれどだけど、この面構えは絶対にいい店だ。というわけで入店。暗かったのもそのはず。戸の向こうは、出し抜けの上り階段でした。行く先に明かり。上がれば、鄙びた座敷の、カウンター席。椅子でも、掘りごたつでもない。旅館に良くある木の座椅子と座布団を並べたカウンター。こんな飲み屋、初めて見たよ! 先客は端っこに一名。とりあえず反対側に着く。靴を脱いであぐら。酒は、と店内を見回せば、高清水、しかも二合から。それに五品が着くおつまみセット1650円、を注文。昨夜も飲んだ高清水。ここでも、燗? と問われますが、今日は常温で。東京でも同じイメージだけれど、秋田でも地酒といえば高清水なのね。板場の親父さんから、黙って料理が目前に置かれていく。昨日とは打って変わって、静かな晩酌。三種のお通し、刺身、煮魚、フライ、揚げ出し豆腐。どれも美味かったが、揚げ出しが特に。ただ日本酒はまだ一合ほど残ってる。ならば、と黒板をにらみ……いかわた焼き。これがもう日本酒案件で最高でした。いや、本当に飛び込んでみて良かった。ごちそうさまでした。これで3025円とは凄まじい。冷たい夜風に吹かれ、少し遠回りをしてホテルに戻る。温泉は混んでいたけれど、まぁしょうがない。湯上がり処のパルムじみたアイスが美味く、2本食べる。ドーミーイン名物の夜鳴きそばは今日はいいか。宵心地でおやすみなさい。

最終日

 朝食バイキング。いぶりがっこにクリームチーズが添えられているのが嬉しい。きりたんぽ鍋ではなく、それを丸い玉状にしただまこ鍋も朝から嬉しい。9時過ぎにチェックアウト。どこかにビューンは帰着を時間帯で選択する感じなので、昼~夕を選んでたら、秋田発は10時過ぎの新幹線となりました(4時間かかるからね)。駅弁は、昔から地元に愛されているっぽい花善の鶏飯(超美味かった)を購入。これをお昼にしましょう。あとはお茶とお餅羊羹みたいなのも。というわけで、早くに秋田を発ちます。お付き合いありがとうございました。締めくくりは、秋田の昔話でなぜかお馴染みとなっている、あの言葉でまいりましょう。
 とっぴんぱらりのぷう!

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