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2024年9月 燕三条旅4

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 御日供祭の帰り、朝の鶏舎に立ち寄り、コケコッコーの応酬を堪能し、神社の方に聞きたい疑問(直角参道やら兎やら)がいくつかあったのだけれど、まだ姿が見えなかったのでそのまま神社をあとにする。そうして旅館へ。そのまま朝食会場へ。卵焼きやらイカ刺はすでに枡弁当みたいな形でテーブルに並んでいて、そのほかの魚なんかを自分で取ってきて固形燃料と網で焼くと感じ。朝からお櫃ごとご飯を平らげました。ごちそうさまでした!
 さて、今一度露天風呂へ。鍵を借りるとき、女中さんに弥彦でやたらとモチーフになっている兎について聞いてみました。したら、その昔は兎が田畑を荒らして悪さをしていたけれど、弥彦の神様が叱って兎たちは畏まって頭を下げて、その様子がお菓子の形となり、兎が定着していったのだとか。やはり神話であったか。さて、朝風呂。日射しが屋根の横から入り込んできて少し眩しかったが、心ゆくまで湯に浸かりました。やっぱ露天風呂はいいものです。そうして部屋で少しごろんとして退館です。で、帰り際。弥彦神社はもう行ったので、次の電車まであと2時間、他にも見たほうが良さそうなところってありますか? と帳場の方に尋ねてみる。そしたら、元々その予定ではあったが、弥彦公園とその奥にある湯神社を挙げられて2時間くらいなら丁度いいとも。なるほど、よし行ってみよう。当日の予約だったにも関わらず、おもてなしありがとうございました。とても寛げました。

 さて、外に出る。やっぱり今日も暑い。とりあえず少し行ったところに参道杉並木というのがあると地図に載ってたので行ってみたが、あぁまぁ普通かなぁ。で、戻って弥彦公園へと向かう。灯籠が並んでいて、その奥にはトンネル。まず向かうは小高い丘を成している公園の奥の湯神社である。まぁ温泉神社です。アスファルト(そういや弥彦の路面は赤茶けてなかったな)のうねり道をのぼっていけば、上のほうから男性の断続的な叫び声がする。何事? と思ったが、前日の観光案内所で応援団の合宿があると聞いてなかったら怖かっただろうな。しかし応援団と聞いていても、何だかまとまりがないというか、定期的に叫んでいるという感じが……。道を行くと、四五人の男子大学生たちに出くわしました。原っぱの広場で下級生だろう男子二名が向かい合って叫び合うという形の練習をしていました。「応援団?」と問うと「そうです」と頷かれていたので「頑張ってください」と先を行く。で、叫びを横に広場を奥へと行けば、石の鳥居。脇の石柱には『彌彦神社 末社 湯神社』と刻まれています。彌彦とは結構離れているけれど、末社なんだと知り少しびっくり。応援団の練習を背にしつつ、稲荷のように列なる簡素な木の鳥居をくぐっていきます。で、少し木々の中の道を進むと、壮烈な声も消え、代わりに羽虫が近づいてきます。もうこの羽音が嫌いなのです。リュックに入れてた虫除けを自分の耳辺りに定期的にぶっかけながら、10分近く山中を行けば、紫の幕が張られた湯神社に到達。野趣たっぷりの中に鎮座しているのに足下には茣蓙(ござ)と呼ぶには分厚い畳が敷かれている。しかも紫の幕で祭壇も見通せない。こういった形態の神社は初めてお目にかかりました。とはいえゆっくりしていると羽音が群がってくるので、そそくさと手を合わせ参拝完了。虫に追いつかれないよう、来た山道を引き返します。で、人界に近づくにつれ、羽虫も失せて、またもや声が戻ってくる。30分以上、素人耳には同じと思える声出しを繰り返している。とりあえず原っぱに戻り、汗もかいたので木陰の石ベンチで水分をとりつつ休憩。なんとなしに練習を眺める。おそらく一年生だろう二人が直射日光の中向き合い、うち一人は台の上。かっとばせー、と聞き取れたので野球の応援なんでしょう。そのうち大学のOBらしき女性も原っぱに上がってきて、静かに見学をされていた。上級生が原っぱの奥の方で、一年の声出しを聞き、「聞こえない」や「今の感じを忘れるな」、お辞儀の角度等の指示を二年生あたりが間をダッシュで往復して後輩に熱く伝えていく、といった感じ。水分補給も適時行われていたが、二年が麦茶のペットボトルを一年の口元に持っていき傾けて飲ませるといったことが繰り返されていた(台の上の一年には届かないからか、直接手渡すこともあった。一気に飲み干して、「飲み過ぎるなよ」と言われているようだった)。そうしてひたすら声出し。遠目だからよく見えないけれど、ずっと太陽に射られて汗びっしょりでしょう。こういうのって注意しないとすぐに上級生が横柄になりがちだけれど、遠目かつ自分の主観ながらもパワハラと呼ばれるその一線は越えていないように感じました。でもまぁ、自分なら絶対にできないなぁと。代々受け継がれてきた練習方法なんだろうけれど、音量計とか使って(自分からは見えなかっただけかもだけど)、もう少し科学的というか効率的な練習の仕方があるんじゃないかなぁ、と今も思ってしまう。ただ、応援って選手の気持ちを高揚させるためのものだと思うから、そこはやっぱ効率とは対照的なものが求められるのかな、とも外野で見てる人間は無責任に感じました。
 木陰でじっくり休めたので、上りとは別方向に原っぱを下っていきます。声は遠のいていきます。そしたら道に『←石油関係者の碑』なる看板があったので、こんな山中で石油? どういうこと? と気を惹かれたので、矢印の向くままに進む。そしたら小さな東屋と巨大な平たい石碑がありました。『殉職者慰霊之碑』と刻まれています。特に由緒書きはありません。何かこのへんで石油事故でも起きたんだろうか。どうしてここに碑が建立されているのか気になるが、何も手がかりがないので、あとは山というか公園を下っていくことに。ときおり応援団の練習が聞こえ、まだやってるのか、凄まじいなと思いつつ駅前まで出て、列車の時間に余裕があるので、昨日同様に観光案内所へ。もちろん、色々尋ねようかと。
 まず今し方気になった石油。「ちょっとマニアックな質問かもしれないですけど……」と前置きをすれば、地域の情報に詳しいと言われる女性が出て来て下さる。この方がスーパーミラクル気持ちよく自分の疑問に答えてくだすった。(少しうろ覚えな部分もあるが書きます)「越後は昔から石油の採れる国であります。彌彦神社の祭神は越後の民に産業の技術を授けたことから、石油産業の神様としても崇められています。そのことから日本の石油関係者が良く参拝にいらしていて、その関係で石油事故の慰霊碑が建つようになった」とのこと。つまり弥彦の地でそういった事故が起きたわけではない、ということでした。こんなの聞かないとわからないよ。おもしろ! ちなみに神社の境内にも全国に二機しか残っていない石油の機材が安置されているとのこと(そういえば、おもかる石の手前に古いタンクっぽいのがあった)。加えて、神社のすぐそばには弥彦競輪場があり、神社の近くなのにと怪訝な顔をされる観光客もいるけれど、元は石油関係者が寄贈した日本初の400mトラックを有する陸上競技場であったとのこと。戦後復興の一環で、競輪場に生まれ変わったなんていうお話も。また、二の鳥居も新潟の石油王と呼ばれる方が寄贈したなんて話も。
 次いで、ずっと気になっていた直角に曲がる参道についても尋ねてみる。したら「昔は一の鳥居からまっすぐ進んだところに社殿がありました」と! うわー、自分の違和感は正しかった! 現在宝物殿が建っているあたりに昔の社殿があり(火事で消失)、その少し奥にその案内板もあるとか(自分は「宝物殿、入館料かかるのか、やめとこう」と引き返したクチです)。その他にも面白かったのは、おもかる石の肩書きでもある『津軽の火の玉石』「その昔、津軽の殿様が佐渡に寄ったとき、海の向こうの弥彦山を仰ぎ見て、『このまま航海を無事に終えられますように。もし安全に帰郷ができた際は鳥居を寄贈します』と願ったものの、無事津軽に戻ったときにはその約束を忘れてしまい、すると津軽城内を火の玉が飛び交うようになり、この異変は何事かと思い城内を調べたところ、見慣れない石が出て来て、これは弥彦の神様が怒っているのだということで、鳥居とその石を津軽から弥彦に送った」という伝承。む……無茶苦茶面白い。この面白さ、人に伝わるかどうかわからないけれど、自分はこういうの大好きです。もっとこういう話は前に出てもいいと思うのだけれどなぁ。特に弥彦は兎をモチーフとしているものが多いのだから(駅舎の鬼瓦になっているとか)、せめてその話は観光パンフに載せたほうが良いだろうと思えた。とにかく沢山の楽しい話を伺え、宿の紹介でもお世話になったし、大感謝の観光案内所でした。本当にありがとうございました!
 そうして弥彦を昼頃あとにする。午前中からかなり暑い思いをしたが、とても充実した時間を過ごすことができました。弥彦線で燕三条方面へと戻ります。途中、昨日も下車した吉田駅で他の電車との待ち合わせで30分も停車したのは驚いたけれど、本日は三条市に行ってみようかと。泊まるとこはもちろんまだ決めていないけど、燕三条駅前にはチェーン系のホテルが雨後竹よろしく乱立していたから、まぁ三条で泊まれるところがなかったら燕三条まで戻ってくりゃいいし。が、弥彦線の車窓から燕三条の街を眺めてみたところ、やっぱ一つ一つの施設の敷地が広く、見たことある名前のチェーンの看板が多いこと。そこから一つ隣、川を越えた北三条駅へ来ると、軒の低い家がひしめいていて、燕三条よりはるかに歴史の積み重ねを感じるようで。というわけで車窓から見た感じは、三条側のほうが自分には好み。とりあえず北三条駅で下車して、切符売り場脇にあったラックにあった三条市の分厚いマップを手に取れば、観光用ではなく、病院とかが載っている地域の方々の生活用地図。まぁ、ないよりはいいかと、めちゃくちゃ細かく分厚い地図を手に、三条駅前を歩いて行きます。
続→

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