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2024年9月 燕三条旅1

 何も調べずに旅をしよう。
 ということで、お馴染みのどこかにビューンに旅先を決めてもらい、燕三条を旅してまいりました。

初日

 朝、上野駅へ。そば屋の天むす駅弁にうまうま言いながら、北西へ。国境の長いトンネルを抜け、以前旅した浦佐駅も過ぎ、初の燕三条駅へ。巨大なナイフとフォークと『燕市』とたすきを掛けたつば九郎のパネルがお出迎え。君はヤクルトだから東京じゃないのか、と思いつつ改札を抜ける。
 燕三条。あらかじめ知っていたのは金物の街であるということ。そしてどこかにビューンに申し込むとき目に入った情報だけれど、彌彦神社という大きな神社があるということ。大体この二つくらいしか知りません。そんな状態なのだから、とにもかくにもまずは地図を手に入れなくては。と構内を巡っていたら、『燕三条こうばの窓口』なるガラス張りの一画が。中は工場のラインを模したかのようなカウンター。何かの観光施設か? とりあえず自動ドアを抜け、ラインの中にいる女性にご挨拶。「よく分からないまま入ってみたのですが、ここは……?」ビジネス目的で来訪した人と地域の企業とをマッチングさせる、ハブ的な場所なのだとか。その他、地域の商品の紹介や、観光案内所ではないけれど簡単なガイドも。というわけで、まずはオープンファクトリーなる取り組みを教えてもらう。要は工場見学。比較的行きやすくて予約なしでも大丈夫なところをいくつかご紹介していただき、加えて簡単な観光パンフや、今教えてもらった企業カードなんかをもらい、工場っぽくボルトとナットでファイリング。奥のコワーキングスペースに展示されているアイディアコンテストの作品なんかを見せてもらい、それでもやっぱり地図はない状態なので、近くに道の駅があると伺いそこならあるだろうと踏んで、行って参りますありがとうございましたとご挨拶。駅構内の金物中心のお土産屋もちょろっと見て先を行けば、鳥居。駅ん中に人がくぐるには充分なサイズの朱塗りの鳥居のあって、扁額は越後一宮(越後で一番、という意)、彌彦神社の大鳥居を模しているとか。彌彦神社。まさに行きたいと思っていたし、泊まるところもあると今し方の窓口でも伺ったので一泊目はそこだろうか。鳥居の向こうにはJR弥彦線なる改札があり、名前からして神社に行ける路線だろう。それが、5分前に出発したばかり。次の弥彦行きは3時間後。序盤からやっちまったか。まぁでも事前に調べないようにしていたのだから、これは仕方ない。今はとにもかくにも地図だ。駅の一階に下り、右を向けば三条口。外にはよくある感じの巨大な観光案内板がそびえていたけれど、大まか過ぎてよくわからないが、地場産(じばさん。地域地場産振興センター)と呼ばれる道の駅は駅の反対側にあることはわかった。というか雲一つない晴天である。もう一度駅内に入り、反対側の出口、燕口へと向かう。なんかうっすらとした記憶だけれど、実は燕三条という地名はなくて、燕と三条という町が合わさった駅名じゃなかったっけ。三条口、燕口と出口が分かれているということは、駅そのものはその境に立っているということだよな。とするとこの二つの町、あまり仲がよろしくないんじゃないか……と、そんなことまで思う。
 で、燕口。その手前に観光パンフがまとめられたコーナーがあった。おぉ、行きたいと思っていた弥彦の観光マップを発見。これは役立つ。だがまだ燕三条駅周辺の地図がない。と、ラックの下部に弥彦&燕マップを発見(燕&三条マップでなく?)。中国語版、English版……日本語版がない! まぁいい、道の駅へ行けば確実にあるだろう。てなわけで燕口を出ててくてくと行くが、その道の駅までのルートが分からない(ネット使えば簡単だけれど、旅の面白みが減るので極力使わん方針です)。が、少し進めば看板が出ていたので安心。しかし次の弥彦行きの電車まで3時間。その間、何してよう。旅先に来て、いきなり3時間もぼうっとしているとか考えられん。そういえば弥彦まで行かずとももう一本電車あったよな。今歩いた感じ、燕三条の駅周辺はチェーンのお店が多く、何だか新しい雰囲気で。これはきっと自分の好きな感じではない。ここで3時間過ごせるとは思えない。なら次の電車に乗って、そのあたりの駅を旅するか。けど、その電車っていつ出発だったっけ。今一度、燕三条駅に戻って確認するか? いやでも。はい、ここで路線検索アプリで時刻表を調べることを許しました。何かを探すのではなく限定的なことを調べるのなら、特に旅の楽しみを損なうことはないでしょう、と。そしたら次の電車は2時間後。ならまぁ急いで駅に戻る必要はないかと、駅へと戻りかけていた足を再び道の駅に向ける(ややこしい)。で、道の駅。すぐに着いたが、観光パンフをまとめたコーナーはあるものの無人。とりあえず駅にはなかった日本語版の燕&弥彦マップをようやくゲット(というかやはり燕三条駅周辺の観光地図がない! 燕&三条の地図を作れない理由があるのか?)。道の駅といえばのお土産屋は見当たらず、奥のホールで企業向けの機材の展示会みたいなのが開かれている。とりあえずソファーに座り地図を広げる。かなり広域な地図なので細かな道のりは分からんが、大体の町の場所はわかった。とりあえずすることがないので、奥でやってる展示会の受付の男性に「通りすがりですけれど、これって一般人は……」とトライしてみるが、企業向けなので……とやんわり断られる。面白そうだったのに残念。
 さて。どうしよう。することがない。時間が余ってる。隣町の燕に玉川堂(ぎょくせんどう)という銅器のオープンファクトリーがある様子。ただ、今までもらったパンフを読み込めば、次に見学できる時間は13時。その頃には弥彦行きの電車に乗っていたい。無理。が、何かしら店内に見るものはあるだろうか。隣町の燕なら、ここよりも自分の興味をそそりそうな気がする。何より歩いて町並を巡るのは楽しい(暑いけど)。で、実際に隣の燕駅への距離は……と、ここでgoogle mapを解禁。ここから燕駅までの距離を調べる目的でアプリを開く。2kmちょい。これなら行けるし、空いた時間も埋まる。燕駅前に飲食店もあるだろう。で、燕駅から12時の電車に乗って、弥彦手前の吉田駅まで行き、吉田にも包丁のオープンファクトリーがあるようなので、そこを一時間くらい見学。それで13時過ぎの弥彦行きに乗って、彌彦神社へ! よし、即席ながら割といい感じのプランが出来た。こうばの窓口で沢山の情報を渡されて最初は処理が追いつかなかったが、次第にまとまってきた(今思い返しても、ピンポイントでいい情報をもらってました)。リュックを背負いなおし、玉川堂、燕駅へ。

 何となくの方向感覚で道を行くが何だか違う気がしたので、行きつ戻りつつここでもgoogle mapで道順確認(まぁお店調べるわけじゃないし、いいでしょう)。直射日光の中、踏切沿いを歩き、新幹線駅から離れていけば、古びた工場の佇むエリアへ。そう、賑やかなチェーン店の看板でなく、こういうのを求めているのです。というか路面のアスファルトが全体的に赤茶けているのだけれど、これは金物の町であることと何か関係があるんだろうか。しばし静かな町並を行けば、まだ駅は遠いというのに信号の向こうに鄙びた飲食店。かどや、と看板の文字も所々錆びてて、かすれているが、暖簾が下がっている。曇ったガラス戸には「営業中」の札。かつてのメニューケースの中は空。時刻は11時20分。まだ腹は減ってない。減ってないが、著しく惹かれる店構え。何よりたまたまここで出会った、という偶然が嬉しい。ごめんください、と入店です。
 左にエプロンを掛けた女性の姿が見えたので一本指を立て、右手にある年季の入ったカウンター席に着けば、そのカウンター内に女将であろう年配の女性と、そのご家族だろう今し方の女性がいた。あれ? とにもかくにも荷物を下ろし、腰を落ち着け、喉も渇いていたしまずは水。卓上メニューを見れば、ラーメン800円と現代的な価格。その他うどんやら丼物。こういうときは……「何かオススメあります?」そしたらカツ丼(1200円)がオススメとのことなので、そのまま注文。そういや新潟はタレカツが名物でもあったね。注文をすませ少し余裕が出てきたので、店をぐるりと見回してみる。畳の小上がり席があり、壁には七夕みたいな色とりどりの短冊にお品書き。その隣には地元の小学生からの「インタビューをしてくれてありがとう(こんな感じの言い回しでした)」といった十人近くからの手紙が貼られている。そうして入り口脇に大きな鏡が飾られていて、女性が左から右に瞬間的に移動して見えたのはこれが原因だったかと気づき、そのことを鏡の女性に笑いながら話す。今何も調べずに旅をしていて、このお店の佇まいがたまらなく気に入って暖簾を潜りました、と打ち明ければ、いつもは11時半開店なんだけれど今日はたまたま少し早いけれど開けちゃおっかと話していた、とのこと。聞けばこちらのお店はもう四十数年やられているとか。そしたら女将さんが、このおんぼろな店と私どっちが先にくたばるか、と仰ってて苦笑。でも自分はこういう感じが好きなのです。さて、カツ丼。衣がカリッとしていて揚げすぎなのかなとも一瞬思ったけれど、でも食べ進めてみればこの食感を狙ったんだろうと感じる。タレがあまじょっぱくて美味しい。味噌汁には海老が一匹沈んでいて、あら汁のような風味。それとシンプルな漬け物。いきなりいいお店に出会いました。やっぱり隣町まで歩いて良かった。もしこれが事前にクチコミなんかで雰囲気のいい美味しい店とわかっていたら、やはりその有り難みは減じただろうと思われる。旅はこうでなくては。
続→

 というか初日の昼飯まででこの文章量なんだから、今回の旅日記、マガジン名どおり馬鹿みたいに長くなりそうです。

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