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2023年3月 熊野旅2

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 バスで熊野本宮(ほんぐう)大社へ。まずは熊野本宮館なる案内所で地図をいただき、展示物にはそれほど目を通さずに、本宮へ。だって実物が目の前にあるのだもの。そっちに行かなくては。というわけで、バスで一時間以上走って来たというのに、結構な賑わい、そして重厚な鳥居。鬱蒼とした木々に囲まれた参道。無数の幟がはためく砂利道に、その先の長い階段。相当な山の中だというのに、こんなにも立派で巨大な神社がある、というだけでテンションがあがります。バスを乗り継いで来た自分がこうなのだも。何百年も昔、熊野詣で山の中の道を何日もかけて歩いてきた旅人の感動はいかほどであったか。
 手水舎で手を清め、さらに階段を上ろうとすると、立て看板に全国の都道府県ごとの熊野神社の数が地図とともに示されていた。福島と千葉が数百社と群を抜いている、のはどうしてだろうと思いながらも、参道を奥へ。神門をくぐり、拝殿の前へ。と、
 何と書けばいいのだろう。拝殿が四棟ほど横に並び、それらの前にはひと続きの囲いがあり、それぞれに賽銭箱が設けられている。祭神もそれぞれ異なっていて……と、聞こえてくる他の参拝客さんの会話。「順番」という単語。あぁ、そういえば旅の下調べをしているときに、参拝の順序が書かれていたような気がするな、と境内の端のほうで検索検索。左から、三、二、一、四、そして右端の五番目の比較的小さなお社を詣でるのが正式な参拝の順序のようで。まぁこれは誰から順番に挨拶をしていくか、という感じかな。最初はこちらの主祭神である家都美御子大神(素戔嗚尊)、スサノオさんです。というわけで順々に手を合わせました。ちなみにこの参拝の順序、神門内には記載がなく、社務所前の看板でようやく発見という感じでした。
 で、その社務所。さっきの熊野神社の数が福島と千葉だけ多いのはどうしてだろう、が気にかかったので、聞くは一時の恥、と神職さんにお尋ね。詳しく判明してはいないが、紀伊半島から船で出れば、黒潮に乗って千葉にたどり着くため、というのが一説とのこと。あるいは信仰を広める者が、福島や千葉で盛んに布教したのかもしれない、といったお話も伺う。どうもありがとうございました。

 さて、参道を戻って、鳥居を出ては、車道を渡り、旧社地である大斎原(おおゆのはら。読めんよ)へ。もともと熊野本宮大社は今のような小高い場所にあるのではなく、川の中州に位置していて、昔は橋もなく川に足を浸すことで、自然と水垢離(みずごり)を行い、参拝を行ったのだとか。しかし大水で社殿が流されたことから現社地に移った、とのこと。これからその旧社地を詣でるわけだけれど、その前に本宮大社が参拝の順序としている大斎原手前に位置する産田社(うぶたしゃ)へ。あまりこっちのほうは人が流れていなかったけれど、まぁ道中に日本一巨大な鳥居が目に入るのだから、どうにも皆さんそっちに目が行ってしまうようで。
 というわけで大斎原の大鳥居へと足を向ける。この巨大鳥居、昔からあったのだろうかと思ったが、神威の発揚を願って近年に立てられたものらしく、高さ34mの日本一の大きさということで、その奥にある鎮守の杜も相まって、まぁやたらと映える。この大鳥居をくぐると旧社地なのだけれど、今はだだ広い原っぱがあり、その中心に小さな祠が建ち並んでいて、本宮大社とは打って変わり静かな様相。そっと手を合わせ、そのまま大斎原を抜け、ようと思ったが、現在裏手の橋が工事中のため通行できず、大鳥居をまた出て、目抜き通りへと戻りました。というか、外国人観光客が結構いらっしゃる。コロナ前のように団体客ではなく、個人で旅行されている方が多い印象で、そこまで騒がしくはないので個人的にはこれくらいならいいなぁ、というところ。

 さて、一通り参拝も終え、時刻もいい頃合いなので、宿へと向かおう。目抜き通りを南へと進めば、ちょっとしたスーパーも兼ねているお肉屋さんへ。熊野牛なるブランド牛の取り扱いもあるけれど、買ったのはお茶一本。この旅初めての飲料ゲットです。観光地価格でなく、ちゃんとスーパー価格なのが嬉しい。と、お会計の際にレジ台の脇に陳列されていたコロッケに目を注いでいたら、「熊野牛の入ったコロッケですよ」と促され、「あ、じゃあ、これも」と手に取る。この時間まで残っているのは珍しいとのこと。やったね。早速、コロッケをパクつきながら歩めば、冷めてはいるけれどうまし。少しお腹減ってたし、ちょうどよかったかも。
 で、宿にチェックインです(熊野本宮近くに宿はとても少なく、多くの方は近隣の温泉地に泊まるようで)。ゲストハウス、という名前ながらも、個室の部屋にバス・トイレもあり、それはもう旅館じゃないかと。というか建物が新しく清潔にされていて嬉しい。もう、夜行バスの疲れもあるので、はやめに布団を敷いて、ひたすらに休みます。宿のプランで夕飯はお弁当付きを選んでいたので、そちらをいただく。うまうま。あとは本日二度目のお風呂に入って、どうもおやすみなさい。

2日目

 朝6時半の朝食。オーナーよりトースターを渡され、部屋でパンを焼く(本来は食堂スタイルなのだけれど、コロナ対応が続いているようで。まぁ、熊野本宮大社も境内ではマスクしてねと注意書きがあったから、そちらに準じているのかもしれない)。パンは近所のベーカリーのもので、他にも牛乳やらベーコンやらも紀伊半島のもので(お品書きでご案内)、旅したのならその土地のものを食べたいと思っている人間なので、こういったおもてなしは嬉しい。
 さて、8時過ぎ。出発。宿近くのバス停。まだちょっと時間があるし、ということで付近をぐるりしていると、バスが目の前を過ぎ去っていく。ん、あれ、まだ10分近く早いけれど、と慌てて本宮方面に追いかけるも冷静に考え、やっぱ早すぎるよな、とバス停に戻り時刻表を見れば、いくつかの路線が通っているバス停で、先ほどのは見送って正解だった。というかバス停のQRコードを読み取れば、結構遅延しているようで(こういうの調べられるの、ほんと便利)、そのままのんびり待ち、ようやく乗車。まだ朝8時だというのに、すでに車内は混み合っている。で、バスは北へと進み、山を上っていき、たどり着いたのは発心門王子バス停。
 発心門(ほっしんもん)。かつて大きな鳥居があった場所のようで、鳥居をくぐることで仏道に帰依しようとする心が芽生える、という意味から発心門の名がついたのだとか(ちなみに熊野信仰は神仏習合です)。そして王子。この「王子」は(間違っていたら申し訳ないけれど)、神社とほぼ同意のようで、熊野三山にお詣りするときの道標にもなっている社を王子と呼んでいたようで。で、所変わって東京北区にある「王子」。こちらは熊野の若一王子を祀った王子神社があることからの地名のようで。
 この発心門王子から熊野本宮大社へのルートが、熊野古道として一番お手軽で人気のようなので、まずは歩いてみようかと。というわけで、以下の通りです。

 そんなわけで、昨日の大斎原まで二時間ちょいで戻ってくる。いやはや楽しい道行きでした。ちなみに動画タイトルにもなっている中辺路(なかへち)というのは、いくつかある熊野古道のルートで、紀伊半島の西側から熊野三山へと向かうルートが中辺路と呼ばれていて、今回歩いたのはその一部、ということになる。
 で、まだ11時。日はまだ高い。このまままだまだ歩きます。が、ちとお腹が空いてきた。ので、本宮の目抜き通りにあるお店で唐揚げ定食にありつく。うん、でかい。巨大な唐揚げである。見た目はとってもインパクトあるけれど、個人的にはもう少ししっかりと味がついていたらなぁ、と思いながら卓上の塩こしょうをまぶしつつ、いただきました。さぁ、腹は満ちた。というわけで午後は大斎原裏手側の鳥居からスタートです。

 大日越(だいにちごえ)。熊野本宮大社から、一山越えた湯の峰温泉へと向かうルートで、ここも中辺路の一部です。で、湯の峰温泉。温泉の硫黄臭が風に乗ってぶわっと届きます。無論勿論そのまま温泉に直行です。真新しいきれいな公衆浴場。やたらと目立つ明朝体ででかでかと「公衆浴場」。自販機。一般湯400円。くすり湯600円。つぼ湯800円。つぼ湯は世界遺産にも登録されている古風で小さな温泉施設で、そこは何だか時間制限あるみたいだし薄暗いし別にいいやと見送り、くすり湯は源泉掛け流しで……結局一般湯が一番安くて適温でくつろげそうな感じがしたので、一般湯で。というわけで歩き通したウェアを脱ぎ、温泉で手足を伸ばしリラックス。入念にマッサージとストレッチをして、自分の体をいたわります。というか昼過ぎという時間もあってか、あまりお客さんがいなくて、いい心地。のんびりと湯に浸かって、ここまで歩いてきた疲れをほぐしていきます。いいお湯でした。
 
 さて、歩き通したウェアから普段着に着替え、さっぱりとした心地で湯の峰温泉を散策。というか、日射しが熱い。近くの売店でソフトクリームとか売っていたけれど、なんだかよく見かけるフレーバーの貼り紙だったのでやめときました。バスまで少し時間があるので、細い川沿いにいくつかの旅館が並ぶこの小さな温泉街を散策してみる。この温泉にまつわる伝説の看板を読み込み(動画内でも最後に少し映しているけれど小栗判官の物語です)、川端の道のどん詰まりに行き着き、これまた熊野古道の一つである赤木越えの終着点を確認し、再び公衆浴場の前に戻ってくる。もう、今日は歩きまくったし、日陰のバス停のベンチに座り込み、あとはただバスを待つことに。
 そしたら旅行中だろう、ご年配のフランス男性と日本女性の多分ご夫婦が隣に座られて、あれこれとバスの時刻表とにらめっこしている。ここも朝のバス停と同じように、いくつかのバスが走っていて方向もやや被っていたりと、自分も含め一見さんにはなかなか難しい。ということで「わかりにくいですよね」と話しかける。行き先をお伺いして、ならもうすぐ来ますよ、と並んで待つことに。フランス(言語の響きからそう判断しただけです)の男性は、日本語が話せないようだったけれど、女性からは今日京都のほうからこっちに回ってきて、紀伊半島西側(自分が来た新宮は東側)からバスでここまで来たとのこと(確かバスでここまで二時間以上かかるはず)。道中、中辺路美術館というところに立ち寄ったが、観光案内所で地図にチェックをつけてもらったにも関わらず、当の美術館は工事のため休業中でがっかりしたといった話を伺う。と、そんなこんなでバスに乗り込み、自分は本宮手前のバス停で降り、「良い旅を」とご挨拶。歩いて一分。今日もよく歩きましたと宿に戻ってくる。というわけで、連泊です。
続→

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