見出し画像

【9月2日新規上場】/モビルス(4370)/社長交代後に資本政策はどう変化したか?/全調査データExcel公開

コンタクトセンター向け SaaS プロダクトなどの CXソリューションを提供するモビルス株式会社が9月2日マザーズ市場に上場します。想定仮条件は1,060円、潜在株式を含む上場時の時価総額は約60億円です。

目論見書の情報から、モビルスの過去の資本政策を解説します。この記事は、こちらのような方におすすめの記事になっています。

・創業者でないスタートアップ代表・経営者の方
・スタートアップの資本政策に興味がある方
・モビルスの資本政策を深く理解して投資を検討したい方

※本記事は目論見書の情報のみから、筆者が独自に推測しており、実際の資本政策の数値と多少異なる点があるかもしれません。「資本政策を理解する」ために参考にしていただけると幸いです。

社長交代後の資本政策
1. 社長交代後の翌年からVC向け増資を開始
2. 創業者は持株比率31%で筆頭株主のまま
3. 現在の代表取締役の持株比率は4.5%。株主譲受とストックオプションで徐々に比率を上げてきた

ここからは、モビルスについて資本政策を中心に解説していきます。

数字で見るモビルス

売上高・経常利益ともに順調に積み上がっており、2020年8月期の売上高は952百万円、経常利益は54百万円。上場申請期である2021年8月期は売上高1,218百万円(YoY+28%)、経常利益は125百万円(YoY+131%)で、利益が大幅成長の見込みとなっています。
SaaSソリューション事業のみの単一セグメントでありながら、サブスクリプション売上高比率が44%と低く、ARRが順調に積み上がるかどうかは今後注目したい点です。

スクリーンショット 2021-08-01 23.50.25

スクリーンショット 2021-08-02 1.00.19

サービス内容は、有人チャット、チャットボットなどのサービスをSaaSで提供。

スクリーンショット 2021-08-01 23.49.35

モビルスの株主構成

筆頭株主がラン・ホアン氏(創業時の代表者)が31.1%、従業員である阮明徳氏が10.5%。一方、現在の代表者である石井氏はストックオプションを含めても4.5%のシェアである。
創業時から代表を務めていたラン・ホアン氏から、石井氏に代表に交代したのは2014年12月。石井氏は、就任後から現在に至る間に、普通株式を取得していると思われる。

スクリーンショット 2021-08-02 0.14.12

資本政策(1) VC向け調達

社長交代(2014年)の翌年からVC向け増資を開始

スクリーンショット 2021-08-03 0.55.01

クオンタムリーブ出身の石井社長就任以降、4回のラウンドを実施。過去5年間業績好調であることも背景に、時価総額も順調に拡大しています。

資本政策(2) 創業者持株変化

創業者は持株比率31%で筆頭株主のまま

創業者は、社長交代時に持株を売却するケースが多いですが、今回、元社長である創業者のラン・ホアン氏は、保有株式をあまり売却せず、上場時点でも筆頭株主となっています。あくまで筆者の推定ですが、VCからの調達前に、少なくとも3分の2以上の株式を保有していたと思われますが、その後、ほとんと持株は売却せず、新株発行(増資)によって希薄化。結果として、持株比率は31%まで減少しましたが、ほぼすべてを持ち続けています。

VC調達前・シリーズA(2015年〜2016年)

スクリーンショット 2021-08-03 0.41.59

創業者持株変化(2014年〜2016年) 
2014年 VC調達前時 68.2%
2016年 シリーズA後 49.4% 

シリーズB・C(2017年〜2019年)

スクリーンショット 2021-08-03 0.42.44

創業者持株変化(2017年〜2019年) 
2017年 シリーズB後 41.0%
2019年 シリーズC後 33.5% 

シリーズD・上場時(2020年〜2021年)

スクリーンショット 2021-08-03 0.43.21

創業者持株変化(2020年〜2021年) 
2021年 上場前 31.1% 

資本政策(3) 現代表の持株変化

現在の代表取締役の持株比率は4.5%

代表就任創業者からの株主譲受とストックオプション付与により徐々に比率を上げてきています。特別利害関係者の株式移動について、目論見書に記載がないため、3年以上前の譲渡と推定されて詳細が不明ですが、現在の持株数などを踏まえて、以下が持株比率の変遷(推計)になります。

2015年以前:普通株式を創業者より譲受 +12,000株
2015年頃 :ストックオプション割当 +4,500株
2019年8月:ストックオプション付与 +5,000株
株式分割により、現在の持株数は258,000株
(うち株式144,000株、ストックオプション114,000株)

資本政策エクセルデータ提供

資本政策について、上記画像に記載されている全調査データのExcelを公開します(あくまで筆者推計のため、正確なデータではない部分もあります。資本推移を理解するためのご活用ください)

まとめ

創業社長から代表が交代し、上場に向けて資本政策がどのように推移するか俯瞰して見ました。モビルスの場合は、創業社長はあまり株式を売却していませんが、創業者と現社長が良好な関係を保ち、お互いが新規上場に向かって協力的に進められるのであれば問題ありません。

一方、未上場時点で創業者の株式をファンドや事業会社と協力して買い取っておくケースもひとつの方法です。

上場後についても、創業者の株式持株比率の変化には引き続き注目していきます。