ビジョナルIR資料から、注目すべきKPIとは?
ビズリーチをグループ企業に持つビジョナル株式会社が、4月22日に東証マザーズに上場しました。公募価格5,000円に対して初値は7,150円、5月14日現在株価6,340円で公募価格を上回る水準で推移しています。
今回のnoteでは、ビジョナルの今後の成長可能性を理解するために、ビジョナルのIR資料で見るべきKPIについて解説していきます。決算書を普段あまり見ない方でも、理解しやすいようにポイントを絞って解説していますので、ぜひご覧ください。
Q. ビジョナルIR資料から、注目すべきKPIとは?
A. 注目すべきKPIは、以下の3つになります。
(1)従業員1人あたり売上
(2)HRMOSのARR
(3)前受収益
情報ソースはこちらになります。
・目論見書
・成⾧可能性に関する説明資料(2021年4月22日)
・2021年7月期業績予想(2021年4月22日)
それでは、早速解説していきます。
1 数字で見るビジョナルのIPO
公募・売出の特徴としては、米国を含むグローバルオファリングの形で海外売出を中心に行いました。ブックビルディングで海外投資家からのニーズが高かったようで、海外売出株数は目論見書記載時点よりも3%増えて、公募売出の90%が海外投資家向けとなりました。
参考に、IT系企業のIPOでグローバルオファリングを実施した最近の企業はプレイド(4165)です。
2 業績推移
ここからは、ビジョナルの業績について解説していきます。こちらのグラフは過去5年間の売上・利益の推移になります。
売上高は、2016年7月期の61.8億円から、2020年7月期に258.8億円となり、CAGR+43%(Compound Average Growth Rate。年平均成長率)、4年間で約4倍となりました。企業買収による一時的な増収効果もありましたが、2年ごとに+100億円ずつ成長している素晴らしい売上成長になります。
連結当期純利益は、2016年7月期の0億円から、2020年7月期に46.6億円となり急拡大しています。これは、2020年7月期に事業分離における移転利益(特別利益)が48億円あったことが大きく影響しています。
なお、本業による利益成長である「経常利益推移」はこちらになります。
■ 経常利益推移
2016年7月期 ▲170万円
2017年7月期 ▲29万円
2018年7月期 66万円
2019年7月期 52万円
2020年7月期 22億5,400万円
■今期業績予想について
下記は、2020年7月期と2021年7月期の売上高および利益の比較になります。
2021年7月期の売上は267億円でYoY+3.2増、経常利益は8.4億円でYoY▲62.7%で大幅減益の予想です。これは「減益なので良くない」という判断をしない方がよさそうです。利益を出す出さない(事業投資をするしない)ということについて、明確に意思を持っている数字だと筆者は見ています。
■2020年7月期
上期【事業投資期】事業成長のために投資実行
下期【利益創出期】投資をコントロールし利益を出す
■2021年7月期
上期【利益創出期】投資をコントロールし利益を出す
下期【事業投資期】公募増資で調達した資金を大きく事業投資
筆者の所感ですが、現在進行中の2021年7月期下期(2021年2月~7月)は事業投資フェーズであるため、意図的な赤字であると考えてます。来期以降事業が成長するかどうか、IRで発表されるKPIを見極めることが必要です。
それでは、ビジョナルが今後も成長し続けるかどうかを見極めるために注目すべきKPIについて解説していきます。
3 注目すべきKPI
(1)従業員1人あたり売上
ビジョナル全体の売上のうち、8割以上を占めるのが「ビズリーチ事業」です。2020年7月期の連結売上高258億円のうち209億円が同事業になります。
ビズリーチ事業は、フロー売上(単発型売上)が中心であるため、採用企業に対する営業活動を継続し続ける必要があります。営業活動においては、中途採用に対する継続的なニーズがある大企業を開拓することで効率的な売上計上が可能になります。
よって、「効率的な売上向上=従業員1人あたり売上の増加」と筆者は定義します。計算式は単純で以下のとおりです。
従業員1人あたり売上高=連結売上高÷連結従業員数
過去5年間で従業員1人あたり売上高は順調に拡大し、2020年7月期は2,000万円を突破しています。今回IPOで調達した資金の多くを人材投資に充てる予定であるため、人員増かつ売上も増加出来るのか、引き続き注目していきます。
従業員1人あたり売上高推移(単位:万円)
※ここで確認
https://www.visional.inc/ja/ir/library/ir_library.html
ビジョナルHP > IR情報 > IRライブラリ > 有価証券報告書 > 「主要な経営指標等の推移」で確認することができます。
(2)HRMOSのARR
HRMOSとは、ビズリーチが提供する人財活用プラットフォームです。2016年に採用管理システムとしてスタートし、現在は、「評価/育成/配置/データ管理」に活用できるHCMプラットフォームとして進化しています。
こちらは、ビズリーチと異なり、SaaS型ビジネスモデルでストック収益となります。2021年7月期2Q時点のARR(年間ストック収益)は11.3億円となり、YoY+18%です。
HRMOS事業の指標(目論見書より抜粋)
ビジョナル全体の売上占める割合は数%でまだまだ少ないものの、企業が人材情報を蓄積する核となるHCM(Human Capital Management)システムとしてプロダクトが成長する可能性があります。
単なるHCMシステムだと、企業単体の人材データが蓄積されるのみですが、HRMOSの強みは、ビズリーチが有する123万人以上の会員データベースとの連携です。今後、どのようなデータ連携が実現され、HRMOSの機能・付加価値が高まるのか注目したいと思います。
※ここで確認
https://www.visional.inc/ja/ir/ir_news/auto_20210420496872/pdfFile.pdf
ビジョナルHP > IRニュース > 「東京証券取引所マザーズへの上場に伴う当社決算情報等のお知らせ」 > P22「HRMOS事業の主要なKPI」で確認することができます。
また、今後は決算説明会資料で開示される可能性が高いので、
ビジョナルHP > IR情報 > IRライブラリ > 決算説明会資料もチェックしましょう(6月上旬以降に掲載予定)。
(3)前受収益
前受収益とは、一定の契約に従って継続してサービスを提供する場合に前もって受け取る収益(代金)のことをいいます。前受収益に注目する理由は、
ストック型売上の成長見込みを"ある程度"確認することができるからです。
前受収益=ストック型売上のうち先払いで受け取った収益
下記は、最近の前受収益の金額になります。
2021年7月期2Q決算短信より
■前受収益
2020年7月期末 1,917百万円
2021年7月期2Q 2,409百万円(6ヶ月で約5億円増)
6ヶ月で5億円増加しています。これは、(※正確には異なっていますがあくまでイメージとして)、1ヶ月換算で1億円弱の増加、年換算で12億円くらいの増収。増加していればストック型売上が増えている、と考えてよいでしょう。
※ここで確認
https://www.visional.inc/ja/ir/library/ir_library.html
ビジョナルHP > IR情報 > IRライブラリ > 決算短信 > 「連結貸借対照表」で確認することができます。
また、カオナビが決算説明資料で前受収益を積極的に開示していますので、参考に見てください。(下図の右側が四半期毎の前受収益の推移)
4 他社比較
最後に、HR系SaaS企業4社(ウォンテッドリー、カオナビ、チームスピリット、アトラエ)の企業規模との比較をします。
設立からの年数は各社と比較してそれほど差はないものの、時価総額、売上、利益とも、ビジョナルは圧倒的な規模の違いを示しています。特に売上高に関しては、各社平均の約8倍です。
なお、ビジョナルのHRMOS事業に限ると、事業開始から5年で売上11億円となっており、同事業単体で30億円規模になるのも近い将来あるかもしれません。
5 まとめ
ビジョナルIR資料から、注目すべきKPIは以下の3つです。
(1)従業員1人あたり売上
(2)HRMOSのARR
(3)前受収益
それぞれのKPIを継続的にウォッチすることで、以下のことがわかります。
(1):ビジョナルグループ全体の売上成長。1人あたり生産性
(2):HRMOSが中核事業になるかどうか(30億円が目安)
(3):安定的な事業基盤が構築されているかどうか
ビジョナルの決算発表は、6月上旬になりますので、決算発表を楽しみに待ちましょう。最後まで読んで頂きありがとうございました!