おじさんと私
~第1話~
私は第二子の育休中であり、日々育児と家のローンに追われている普通の会社員である。
そして地域で家族向けに心温まるフリーペーパー「ママの大事なノート」を発行している編集長である。
そして「きくばやし」という名のお笑いコンビのツッコミ担当である。
このnoteでは、お笑いコンビ「きくばやし」について語りたいと思う。
なぜなら語らなくてはならない時が来たからである。
ひっそりコンビを組みひっそり解散しようと思っていたのだが、もうこれ以上は隠し通せないところまできてしまった。
どうせ隠しきれないところまできてしまったのならば、このなんとも切ない「きくばやし」というコンビの軌跡を記しておこうと思った次第だ。
そのおじさんとの出会いは、ビジネスマン向けのお笑い講座だった。
忘れもしない2019年8月3日、千葉県流山市でシェアオフィスTristを運営する尾崎氏と芸能プロダクションの太田プロがコラボして社会人向けのお笑い講座を開いたのだ。
この講座は「発想力で他の人と差をつける」「会議や打ち合わせの場で勇気を持って堂々と自分の意見を発表できるようになる」など様々な狙いがある講座なのだが、何が一番興味をそそるかというとそれらの能力を身につける為に何やらお笑いに関してズブの素人であるビジネスマンがみんなの前で真剣に大喜利をやるとのことなのだ。
私は、人前で恥をかいたら一皮むけそうという表向きの理由はあったものの、本当の狙いは「お金を払ってでも目の前で人が恥をかくところを見たい」という強い思いから参加を即決した。
そう、私は人が恥をかく瞬間がたまらなく好きなのである。
今回は私自身が大いに恥をさらすリスクがあったのだが、そのリスクをとってでもどうしてもズブの素人が真剣に大喜利をする姿を見たかった。
幸いにも今私は第二子の育休中。いそいそと財布の中のなけなしの全財産5,000円を握りしめて講座へ向かった。
そこで出会ったのが後に相方となる「おじさん」である。
まず、部屋に入ってすぐにくじ引きでこのおじさんとコンビを組まされた。
何とこの講座の最後には、くじ引きで決まったコンビでネタを披露しなくてはいけないというのだ。
このおじさんとはハッキリいって笑いのセンスは絶望的に合わなかった。
その証拠に、受講後のアンケートで一番の学びは何かという問いに対し「自分と全く考えの違う人と協力しながら、断腸の思いで折り合いをつけ、何かを成し遂げる大変さと面白さを学んだ。」と回答した。
おじさんと披露したネタも驚くほど滑っていた。なんならあまりの滑り具合についニヤけてしまう私を、おじさんは少し怖い顔で見ていた(ように感じた)。
そのおじさんから、受講後に驚きの連絡が来たのである。
「コンビを組みませんか?」と。
「私は会社員兼西野カナさんリスペクト芸人をしている菊池カナといいます。」
「コンビを組んでM-1に出場し、いつか西野カナさんに会いたいのです。」と。
私は自他共に認めるNOと言えない女ではあるが、さすがに丁重なお断りのメールをものの3分でお送りした。
しかしおじさんは諦めなかった。
おじさんは、西野カナに会いたいという強い想いを懇切丁寧に私に伝えた。
そして、そのためには2人の子どものいる私の予定に極力合わせ、毎回例え2時間のネタ合わせの練習のためにだってわざわざ有休を取って流山に来てくれると言う。
そんなことを聞いているうちに、
「なんだかとてもお忙しい方なのに私の予定に合わせて下さってありがとうございます。申し訳ありません。」
という気持ちになってきたから不思議だ。
また、
「西野カナの曲を聴いたことは一度もないけれど、おじさんが人生をかけてそんなに西野カナに会いたいというのなら、その為には何故か私の力が必要というのなら、このイタイケなおじさんを助けない理由はどこにあるのだろうか?この依頼を断るのは人道に反しているのではないだろうか?」
という気持ちになってきたからこれまた不思議だ。
そうこうしているうちに、話をするくらいなら…と一度会う約束をした。
そこからは早かった。
あれよあれよと「念のため」のネタが届いたり、
「念のため」ということで会う際に印鑑の持参を促されたり、
あの講座以来初めておじさんに会うにもかかわらず、流山市のサイゼリヤではM-1のエントリー用紙に押印している自分がいた。
今となっては高額な壺を買わされたりしなかっただけ私はツイていると思うようにしている。
これが、我々「きくばやし」の始まりである。
ふぅ…。
これで尾崎氏がSNSで「きくばやし」の情報をよかれと思って書いてくださっている記事に対し、堂々と「いいね」が押せる。
今まで恥ずかしさのあまり、記事を断腸の思いで見ないふりをしていて心からサーセンである。
ちなみにこの画像は、おじさんが合成してくれた「きくばやし」の宣材写真だ。
ご丁寧に、私の肌はツルッツルに、輪郭はシュッと修正され瞳は1.5倍ほど大きく加工されている。
悲しい気遣いの末の産物である。
次回「お前の本気度を見せろ」につづく
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