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1時間20分歩いて、世田谷文学館「描くひと 谷口ジロー展」へ行った話

今日は勤務しているコーヒーショップのお休み。受験が終わった長男を8時15分に送り出し、受験真っ只中の長女を8時半に送り出し、朝からユーチューブ三昧の次女を9時半に送り出すと、ぽっかりと時間が空いた。さて、何をしようか。

妻はママさんバレーの練習で不在。録り溜めたTV番組を見ながらダラダラしようかと思ったが、最近お腹周りが気になるので、運動でもするか。ということで、以前から気になっていた「描くひと 谷口ジロー展」(世田谷文学館)へ行くことに。検索すると、徒歩1時間20分の距離。運動不足解消になるかな。

ドラマにもなった谷口ジロー作『歩くひと』さながらに、てくてく歩く。知らない道、住宅街、商店街を歩くのは楽しい。シーサーが置かれた門や、ぬいぐるみがのぞく出窓、冬枯れした庭先を眺めながら歩いているとあっという間だ。少し歩き足りなさを感じて、初めて芦花公園、千歳烏山周辺も歩く。チトカラには、昔お世話になった作家のMさんが住んでいたんじゃないかな、と思いながら散策。商店街が思いのほか充実していて、駅から離れると時間が止まったかのような大正風情の建物もあって、面白い。いいな、チトカラ。一人暮らししたい街だ。

目的の世田谷文学館「描くひと 谷口ジロー展」は、ほどよく閑散としていて、ゆっくり鑑賞できた。近年では「孤独のグルメ」で知られる谷口ジローだが、個人的には「K」「神々の山嶺」など山岳漫画の印象が強い。展示は、下積み時代から病に倒れるまで、作品とともに紹介。上村一夫のアシスタントを経てデビューしたそうで、初期の作品は、いかにも青年漫画、劇画調のタッチが意外だ。年齢と作品を重ねるごとに、誰もが知る谷口ジロー調の絵となっていく。ハードボイルドから動物もの、晩年は小津安二郎を見るような侘び寂びを湛えた世界観へ。

ふと、浮かんだのは、先日観たETV特集「餅ばあちゃんが教えてくれたこと」のシーン。主人公の90歳を超えたおばあちゃんが語る、亡き母の教えだ。
「仕事が、仕事を教えてくれるんだ」
ああ、そうだ。谷口ジローもまた、そういう人なんだなあとつくづく思う。おそらく、人生のほとんどを資料に囲まれた仕事部屋で過ごした。息抜きは散歩。仕事に向き合うばかりの人生で、何かを学ぶとしたら仕事からでしかなかった。全身で取り組んだ仕事が、さらなる次の仕事の高みへ、機微や醍醐味を教えてくれたにちがいない。だからこそ、その絵は常に変化し、深化し続けた。

なんてことを思いながら、帰路へ着く。また1時間20分ほどをかけて歩く。てくてく歩く。「散歩ってつまらくねぇ?」と、長男は言うのだけれども、思索しながら、自分なりに街に面白みを見つけながら歩くのって、君がやっているサッカーみたいにドラマチックなんだぜ。俺なんて、リフティングは3回しかできないけど、道端に落ちている片足のピンクの靴だけ見ても、波乱万丈な靴ドラマを空想できるぜ。

なんて思いながら、てくてく歩く。おそらく、これは、きっと正しい「描くひと 谷口ジロー展」鑑賞の方法なのかもしれない。なにしろ、散歩を愛してやまなかった漫画家だったから。



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