映画「胸騒ぎ」の胸騒ぎ


原題は、speak no evil という「悪口を言わない」という慣用句らしい。とにかく、ヤバそうだと感じたら、なにがなんでも逃げないとダメだよ、ということを教えてくれる映画。
気を遣ったりしている場合ではない。
単なるホラー映画じゃない、というところは、主人公の家族、その夫が極めて、現代社会的には抑圧されながらも、優秀なサラリーマンであろうというところ。まさに、悪口すら言わないように気を遣って生きている現代人家族。それは、とてもいい人家族でもある。でも、それは弱肉強食では弱いほう。
対する、オランダ(このオランダの田舎にすむ夫婦がヤバい奴というのは、ヨーロッパ的にはそういう印象があるのかしら)の夫婦は、結局のところ、働いてすらいないらしい。でも、自由で気さくで、一見、旅先などで会うかぎり心地のいい人たち。
でも、実際にその彼らのテリトリーに都会の人間が入っていくと、その粗野で乱暴な世界に嫌悪と不穏を感じるだろう。
これが、意外と、世界共通の感覚かもしれなくて、ほんと見ていて、震えた。
田舎の素朴な生活に、理想を勝手に感じる都会の人間が、酷い目に遭う、まあある意味では、ホラーの定番だ。
それでも、この映画はそのホラー感をなるべく抑制して作ることで、なんかわけのわからないリアリティがある。これは、単に田舎者の粗野な夫婦っていうだけなのでは、と、思いながらみていると、すっかりやられるラストが待っている。
野生や、野蛮というものは、こういうものである。
ホラーや、人怖という以前に、現代社会というのはむき身でも裸でも、生存していくチカラを奪うものなのかもしれない。つまり家畜化されている。
家畜になると野生動物に殺されるよ、という映画なのだ。

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