見出し画像

「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」 アイドルとは時代を写す鏡だ


 このブログでドキュメンタリーを取り上げるのは初めてのことだ。

それはなぜかと言えば、私自身がそれほどドキュメンタリー作品を見てきていないことがある。

しかし、この作品。

元々、欅坂のファンであり、彼女たちのリスタートグループである櫻坂46ももちろん追いかけている。

今作は、改名発表後の2020年に公開された。その当時ファンの間では改名に関して様々な憶測や疑念が湧き起こっていたように記憶している。

そんな中での封切りということで、欅坂46としてセンセーショナルな活動の裏で一体何が起きていたのか。その真相が知れるのではないか。おそらくそれを期待して鑑賞したファンも多かったのではないか。

私も当時は欅坂46の終了、改名してリスタートを切るという衝撃の展開に驚嘆したものだ。しかし、だからと言ってその裏側を知りたいとは思っていなかった。

いや、知りたくないというより、知ってはいけないという観念の方が強かったのかもしれない。

ただでさえ、その時期の欅坂は表から見えるだけでも、ネガティヴな意味でもポジティブな意味でも扇情的であった。

だからこそ、そんなバックステージでの出来事など見てはいけないと思っていた。

見てしまったら、自分の中のファンとして心情が変わってしまうのではないか。
もう今までのように応援できなくなってしまうのではないか。
そんな恐怖が、私をこの作品から遠ざけていた。

だが、公開からすでに3年が経過した。

さらにこの3年間ですっかり櫻坂46という新しい存在がその立ち位置を確立してきている。

そんなこともあり、もう時効だろう。そんな考え方もできるようになってきたので、もういいだろうということで今作を鑑賞してみた。


結果から言うと、劇中での彼女たち同様様々な感情が吹き上がってきた。


欅坂というグループは、今までのアイドル像を楽曲やパフォーマンスによって打ち壊してきたグループである。それが社会に対して、デビュー曲「サイレントマジョリティ」を中心にセンセーションを巻き起こしてきた。

だがこれは今まで散々言われてきたことなので、今更深く言及するまでもない。


私たちの世代のアイドルといえば、AKB48がいて、さらに遡るとモーニング娘。がいた。

モーニング娘。の代表曲の一つに「LOVEマシーン」がある。

この曲のサビの一節に

日本の未来は(Wow Wow Wow Wow)
世界がうらやむ(Yeah Yeah Yeah Yeah)

という一節がある。

こんなにも明るく、清々しい未来を想像する歌詞もないだろう。

そして時代は流れ、欅坂46という全く新しいエポックメイキングなアイドルグループが現れた。

そのダークでクールな印象は、先ほども述べたようにそれまでのアイドル像を破壊した。

「サイレントマジョリティ」の歌詞世界や曲調も決して明るいイメージを残すものではない。

景気が今よりも乗っていた20年前には、そのまま日本という乗り物に搭乗していればそこそこうまくいっていた。そんな浮ついた雰囲気がモーニング娘。の楽曲からは伝わってくる。

しかし、現在は皆さんが実感しているように、明らかに景気は後退し、無思考に簡単に乗り切れるような時代ではなくなった。

そんな時代に欅坂は「大人に支配されるな」と、反抗的な精神を統率がとれた軍隊のような振り付けと衣装で社会に問いかけた。

共同体や国が守ってくれる時代はすでに去った。

右ならえで進んでいけるほどイージーではなく、自らが選択して生きていかなければ困難な時代に私たちは立っている。

そんな時代を反映し、体現しているのが欅坂46というグループである。

そして現代はそんな欅坂を受け入れ、グループは急速的に巨大化していった。

その歪みがメンバーを苦しめ、迷わせ、様々な困難がグループを飲み込んでいく。

その過程を今作は克明に、赤裸々に描き出していく。


やはり、公開当時の自分の心情では目を背けたくなるくらいの痛々しい場面がそこかしこに散りばめられていた。

時効になった現在だからこそ鑑賞に耐えることができたと言える。

私の数少ないドキュメンタリー映画体験でここまで言って良いのかわからないが、明らかにこれはエキセントリックな作品であった。

そして、モーニング娘。には未来に対して希望や期待が持てる、そんな景気状況から誘発されたポジティブなイメージがあった。

欅坂46には、先行きが見えない暗い時代を自分の力で切り開いていかなくてはならないという強いメッセージが存在する。

タイトルにも掲げたように、アイドルとは時代を写す鏡なのだと真に実感させられた。


もちろん、そんな小難しいことだけではなく本作は欅坂の圧倒的なライブパフォーマンスをメンバーの様々な葛藤とリンクさせながら楽しめる作品でもある。

そして、なんと言っても推しの子を思う存分応援できる、そんなアイドルファンとしての見方も楽しめる。

ドキュメンタリーとは、現実を切り取っている。だからこそ感じる思いがある。

物語映画にももちろん感情を揺さぶられる作品は数多くある。

しかし、ドキュメンタリーは、その対象が自分の愛すべきものであればなおのこと、物語映画とはまた違ったカタルシスを換気するのだ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?