隣の芝生は青い、砂で覆われた僻地へ…

いつかこの経験が糧になるだろう

足元から押し上げるように吹いていた風は、何度も聞いているうちに常套句へと姿を変え当初感じられた力も弱まっていた。

いま自分は慰められているんだろうな

そんな言葉が耳から入る音に靡く。

この人は私の何を知っているのだろう

そしてなぜ輪郭のぼやけた希望ばかりちらつかせてくるのだろう

2年…失った年月は、友人らの声で初めてその空白に肉を付ける。

大学進学、就職、専門学校…おのおのが見据えた未来へと櫂を漕ぎだす。

彼らの後ろに続いた轍が私の横を通り過ぎている。

未だ重心を掴みきれない私は、彼らが掻いた波でたゆたえる。

時々自分から水面に落ち、戯けてみせる。

羞恥と羨望の眼差しをひた隠しにして、それを水の中へ溶かす。

青春、部活、勉強…隣の庭で行われるそれは青々と光に照らされている。

普通でありたい!!自分も今しか味わうことのできない幸福を思う存分気の済むまで享受したい。

異常でありたい!!精神病患者という烙印を押され芝生の刈られた僻地で期待も何もかも捨て去ってしまいたい。

“いつか”じゃない“今”なんだ!!

メインディッシュの前の口直しをしたいだけなんだ!!それすらもはばかられるというのか!!

すかすかに空いた棚に誰かが描いた世界を何冊も何冊も半ば強迫的に詰め込んでいく。

そして思い出が潤沢に揃えられた他人の棚を見て嫉妬する。

所詮分からないのだ。空虚な心を埋めるように誰かが創った偽りの記憶を詰め込んでいく気持ちなど。


でも私は見逃せなかった。潤沢に揃えられた棚の一角に理想が巣食っていた事を…

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