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映画紹介: Other People's Pictures



Other People's Pictures (2004)    
By Lorca Shepperd & Cabot Philbrick

アートの世界でファウンドフォトやヴァナキュラー写真という言葉を目にするようになって久しい。ファウンドフォト ―他人の古い家族写真など― を作品の素材にすることは今では珍しくないが、そうした写真はそもそもどこからやって来るのだろうか。

Lorca Shepperd と Cabot Philbrickによる ”Other People’s Pictures” は、ニューヨークのチェルシーフリーマーケットを主な舞台に他人の家族写真を選び、集めるという一風変わった情熱を持つ9人を取材したドキュメンタリーだ。時に1枚の写真に数百ドルを支払う彼/彼女らには、それぞれのバックグラウンドが存在する。
ある人は何万枚もの写真の中から芸術的な奇跡の1枚を見つけだそうとし、またある人は他人の写真を寄せ集めて自分の家族のアルバムを再現しようとする。曰く、彼の母親が本物のアルバムを処分してしまったから。

写真研究者の前川修は、匿名のアマチュア写真を見る際の私達の心の動きを次のように説明する。

「他人の写真を契機として私たちは自身の経験とその際の強烈な感情を想起する。」

前川修(2008),「アマチュア写真論のためのガイド」,『写真空間1』,青弓社, p.27

つまり他人の写真を眺める時、わたし達はその写真内の光景に自分の似通った過去を投影したり、あるいは自分の未来のそのような姿の想像することで心動かされている。さらに前川はこの他人の写真に対する親密さと同時に、そこに写っているものが自分自身の経験ではないという隔たりも間違いなく存在し、そしてその二つの心の動きの間で揺れ動く経験こそが、他人のスナップ写真を見る際の体験なのだと続ける。

なぜ他人の家族写真を買うのか。この映画が明らかにする通り、コレクターには固有の事情がある。 同じように、その写真たち一枚一枚にもバックグラウンドがあることに思いはめぐる。そしてそれらはどのように蚤の市に辿り着いたのか、蚤の市の空気なども伝える貴重な記録。

トレイラー

Directed by Lorca Shepperd and Cabot Philbrick
Distributed by Cinema Guild
Color, 53 min.

余談:この映画は公式HPも消滅してしまっており、映像はおろか詳細を確認する方法もなくなっていました。このトレイラーはたまたま私が保存していたものを配給元に提供・交渉して、アップロードしてもらったものです。
なかなかレア、また労力がかかっています!ぜひ見てみてください。


写真について Vol.5 に掲載中

この文章は8月中旬にセブンイレブン ネットプリントで配布予定の「写真について Vol.5」の一部です。内容の紹介はこちら
配布期間:2023年8月中旬

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