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インドと西洋の交わりを表現し自己受容を促す: Raveena 『Asha's Awakening』

癒しのシルキーボイスが奏でる柔らかな楽曲が特徴のRaveena。
Coachellaの配信を観ていて、今まではソウルの印象だった彼女から、
サイケデリック・ロックやインドの伝統音楽の要素も感じ取れるようになったので、これは素敵だぞと思い、
2ndアルバム『Asha's Awakening』を遅ればせながらレビューしてみます。


2017年にリリースした1st EP『Shanti』でファンを獲得し、
2018年11月にはTyler, The Creator主催フェスCamp Flog Gnaw Carnivalに出演。
2019年に発表したデビューアルバム『Lucid』はNPRによるBest Albums of 2019に選ばれた。
2020年に2nd EP『Moonstone EP』を出し、2021年にリリースしたシングル『Tweety』では新たな方向性を示した。


『Moonstone EP』まではあくまでもヒーリング・リラックスといったイメージ。
しかし去年の『Tweety』では彼女特有のノスタルジーは残しつつポップでキュートな一面を見ることができた。途中でラップのようなパートも入り、彼女が見せてくれる世界がどうなっていくのか楽しみだった。

https://youtu.be/U4t37sXE_N0

そして本作。
Ashaという女性の物語を基にしたコンセプトアルバムで、最後のトラックは13分間の瞑想ガイドだ。
彼女の世界観溢れるオフィシャルサイトにはAsha's Comic Bookがあり、
Asha's Awakeningの物語を可愛らしいイラストと共に読むことができる。
以下に和訳を載せる。

遥か昔Punjabという場所に若い女性Ashaがいました。
彼女は欲望にまみれ反抗的な性格であったため、地上の世界に相応しくないと判断され、8世紀に渡ってSanataan星に送られ、Kamlesh族として暮らしました。
彼女は、Kamlesh族特有の強靭な肉体と叡智を身につけ、過酷なトレーニングを積み、悟りを開きました。そして不死身となり、Sanataan星を千年支配するKamlesh族の王女になりました。
しかし次第にAshaは地球に憧れるようになりました。
愛と戦争、創造と破壊、豊かさと無、の間での揺らぎや、脆さといったものがSanataan星には無かったのです。そして何よりも、数千年の時を経て、若い頃に果たせなかった恋の行方が気になりました。
Ashaは、Kamlesh王族と不死の身を捨て、二千歳の人間の女性として地球に帰ってきました。弱さ、果てしない探究、永遠の疑問、愛とそれを失うこと、のために。
彼女は地球に戻ってから、この根本的な未知が人間であることの本質だと悟り、美しいと感じました。
そしてこれが悟りの最終段階だったのです。彼女は次の領域に移行し、その体は壮大な光に包まれました。
This is a tale of longing for home.
This is Asha's story.
This is Asha's awakening.
https://www.raveenaaurora.com

この絵本にはAshaとKamlesh族が”Moonstone Temple”で踊っているシーンが描かれている。2nd EPのタイトルにもMoonstoneとあるが、世界観の構築が好きだと語る彼女の意思がしっかりと伝わってくる。

さて、インド人の両親を持ちNYで活動する彼女の新作は、今までの作品に比べて南インドの伝統楽器のサウンドが目立つ。
有名なインド人シンガーソングライターAsha Puthliのフィーチャーからも、意図的にインド文化を融合させたことが伺える。
「数十年にわたる音楽の歴史から影響を受け、西洋と南アジアの音楽が常に交錯してきたことを表現している」と彼女は語る。「インドの楽器やシタール、フルートなどのインドのメロディーが西洋のサイケデリック・ロックやソウルに影響を与えているのは感じていたが、制作にあたりインドに戻って古いBollywood音楽を研究していたら、その逆の作用もあることに気が付いた。そして、世界は私たちが思っているよりもずっと繋がっていて、それは本当に美しいものだと発見した」

ブラックミュージックとTribalなサウンドが好きな私はこれを聞いただけでもワクワクするが、なんといってもこのブレンド具合が絶妙。
M1「Rush」ではインドの打楽器Tabla(タブラ)の音がエスニックな風を吹かせてくれる。

M4「Kismet」では特にサイケデリック・ロックの要素が色濃く出ている。Khruangbinのような涼味も感じる。

彼女はパンデミック中、Bhangra, Bollywood等に影響を受けたM.I.A.やTimbalandなどの2000年代初期のポップソングを聴き、毎日のように家の中で自由に踊っていたと言う。そしてダンスをすることが、彼女自身や彼女の愛するものの大部分を占めていることに気がついたと語っている。
その気づきはM2「Secret (feat. Vince Staples)」やM3「Magic」のようなダンサブルな曲で見ることができる。
今までの彼女の楽曲でダンサブルなものは無かったのでパーカッションがしっかり鳴っているのは新鮮で、特に「Secret」がかっこいい。

アルバム中盤のM8「The Internet Is Like Eating Plastic」, M9「Garden of Cosmic Speculation」という2つのInterludeを経て、後半は穏やかになっていく。
前半では、喜びを受け入れること、官能性、セクシュアリティとクィアネス(彼女はパンセクシュアルを公言している)を受け入れることを、
後半は、暴行や虐待、うつ病、中絶など、多くの人が経験する辛く悲しいことを、彼女の体験を交えて表現しているそうだ。
M11「Time Flies」は中絶の苦しみというシリアスな内容だが、Tablaとアコースティックギターが時の流れと共に優しく包み込んでくれる。

https://open.spotify.com/track/0z6aLSVOKcrq5UuCjzEw5z?si=6add05ccd7234bfd

そして最後にマインドフルネスの時間が訪れる。
Ashaというキャラクターを通して癒しと自己受容を見つけ、旅の最後にはリスナーが自身の感情を探究するこのアルバム。
「私たちが喜びを感じる理由の一つは、痛みを深く感じているからです」と話すRaveenaの世界を通して、マインドフルネス、セルフラブを体験してみるのはどうだろうか。


参考


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