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目指すは宇宙市場の窓口!ElevationSpaceに聞く宇宙実験・実証ビジネス【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#20】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第20弾となる今回は、宇宙空間で科学実験ができる衛星を開発するスタートアップElevationSpace(エレベーションスペース)で広報を担当している武藤槙子さんをお迎えして、事業の構想やサービスを通じて実現したいことをうかがいました。

宇宙実験用の衛星、25年に技術実証へ

©︎小山宙哉/講談社

せりか:武藤さん、よろしくお願いします!ElevationSpaceが開発中の宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」は、宇宙空間で実験ができるそうですね。詳しいお話をうかがえるのを楽しみにしていました!

ElevationSpace 武藤槙子さん

武藤さん:ElevationSpaceの武藤です。こちらこそ、よろしくお願いします。

せりか:早速ですが、宇宙環境利用・回収プラットフォームとはどのようなものなのでしょうか。

武藤さん:無人の人工衛星を打ち上げて、それを使って実験や実証を行います。実験終了後は衛星を地球に帰還させ、成果物をお客様にお届けします。

技術実証機は2025年に打ち上げる予定です。この技術実証機には多くのお客様のペイロードを載せる予定はありませんでした。ところが「ぜひ使ってみたい」とおっしゃってくださる企業さんが想定以上にいらっしゃったため、搭載枠は満枠になりました。

技術実証機で技術を確立させられたら、サービス機の運用に入ります。基本的にペイロードは相乗りです。例えば、実験の期間が同じお客様を集めて打ち上げるようなイメージですね。技術実証機は200kg規模ですが、サービス機はニーズに応じて少し大型化することも考えています。

せりか:技術実証機には、IDDK(宇宙でのバイオ実験を手軽に。指先サイズの顕微観察装置が加速させる、新たな宇宙利用【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#18】にて登場)が開発している指先サイズの顕微観察装置を用いた実験環境を構築する計画だと聞いています。そのほかに、ELS-Rを使うとどんな実験ができますか。

武藤さん:国際宇宙ステーション(ISS)で行われているような医学や生物学の実験はもちろん、宇宙事業に進出したい企業の宇宙実績を作る場としても活用いただくことができます。地上で実用化されている製品や技術を宇宙に転用するために、「宇宙でも動作しました」「宇宙環境に耐えられます」という実績は重要です。ELS-Rのなかでその実証を行うことで、民間企業の宇宙参入を促進できると考えています。

無人ならではの柔軟性

せりか:ISSでも多くの宇宙実験が行われていますし、将来構築される予定の商業宇宙ステーションでも宇宙実験は行われるのではないかと思います。こうした有人の施設とELS-Rの違いはどのようなところにありますか。

武藤さん:私たちが開発しているELS-Rは無人なので、ISSで宇宙飛行士が行っているような複雑な操作を伴う実験はできないかもしれません。ただ、有人の施設では滞在している宇宙飛行士に危険が及んではいけないので、搭載する実験機器の安全審査がとても厳しくなっています。この安全審査には時間がかかるので、構想から実験までのリードタイムが長くなってしまい、高頻度に実験ができないという課題もあります。

一方、私たちのELS-Rは人がいない環境なので、安全審査も比較的易しくできる部分もあり、有人の施設には持ち込むことの難しい材料を使って実験できるといったメリットもあると考えています。

さらに、2023年4月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)さまと、JAXA宇宙イノベーションパートナーシップの枠組みの下で「地球低軌道拠点からの高頻度再突入・回収事業」に関する共創活動を始めました。

これまではISSで実施した実験のサンプルは、宇宙飛行士が帰還する宇宙船の空いているスペースに載せてもらうなど、限られたタイミングでしか、地上に持ち帰ることができませんでした。

©︎小山宙哉/講談社

JAXAは、宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」がISSでのミッションを終えて、大気圏に再突入する機会を利用して、ISSの物資を⼩型回収カプセルで地上に持ち帰る技術を実証しましたが、まだ高頻度な実用には至っていません。JAXAとの共創事業では、私たちの技術で地球低軌道の拠点からサンプルを回収する頻度を上げることを目指し、検討を進めています。

せりか:燃え尽きずに大気圏に再突入して、地球低軌道から帰還する技術は開発するのが難しいと聞いたことがあります。

武藤さん:そうですね。今のところ大気圏への再突入技術を持っている国は限られていますし、民間ではSpaceXしか実現していません。SpaceXの場合は大気圏へ再突入させるのは有人宇宙船ですが、私たちが開発しているような小型の衛星を、狙った場所に着水させられるように制御して帰還させた民間企業はまだ存在しません。

©︎小山宙哉/講談社
©︎小山宙哉/講談社

海外にも、衛星を使った宇宙実験プラットフォームを開発しているスタートアップがあります。衛星で実験や実証を行うというサービスにニーズがある証拠ですので、私たちも早期の事業化を目指して開発していきます。

多様なメンバーとともに

せりか:他社と比べたときのElevationSpaceさんの強みはどこだと考えていらっしゃいますか。

武藤さん:やはり、世界で唯一、小型衛星の制御再突入・回収を行った機関であるJAXAとの共同研究や連携が強いことだと思います!例えば、JAXAでHTVに搭載する小型回収カプセルのプロジェクトを率いていた渡邉泰秀先生が当社の技術顧問として参画していたり、小惑星のサンプルを地球に届けた探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」の開発に携わっていた大気圏再突入技術の第一人者とも言える研究者である藤田和央さんがElevationSpaceに社員としてジョインしています。

もちろん技術者や研究者だけでなく、営業やビジネス開発、マネジメント、コーポレートのメンバーも多彩です。ElevationSpaceはCEOの小林稜平が東北大学大学院在学中に創業した会社ですが、年齢層は20代から50代まで、様々なバックグラウンドを持った人材が集まっています。

会社のバリューのひとつに「Who Dares Wins(敢えて挑んだものが克つ)」というのがあるのですが、これはイギリスの特殊空挺部隊のモットーを参考にしていて、私たちの姿にぴったりだなと思います。ElevationSpaceが目指していることはすごく挑戦的ですが、メンバー一人ひとりがパッションを持って、どうすれば実現できるかを考えているのは会社の素敵なところですね。

せりか:ところで、武藤さんはどういう経緯でElevationSpaceに入社されたのですか。

武藤さん:私はもともと東北大学の職員で、卒業生の小林さんにインタビューをしたことがきっかけとなり、ElevationSpaceと出会いました。そのときは「学生で起業するなんてすごい」「宇宙か〜」なんて思っていました。当時は下の子どもが保育園を卒園するタイミングで、何か専門性を持てるように働き方を変えたいと考えていた時期でした。それでElevationSpaceの採用募集を見てみると、ちょうどコーポレートの募集があったのでお世話になることになりました。いまは広報を担当しています。

やっぱりスタートアップは「私たちが歴史の1ページ目を作っている」という感じがしますね。自分たちがやりたいように、会社が向かっていきたい方向に、一歩を踏み出している感覚は楽しいなと思えます!

“宇宙市場の窓口”になりたい

せりか:ELS-Rでの実証や実験を通じて、どんなことを実現していきたいですか。

©︎ElevationSpace

武藤さん:「宇宙で実験」と言うとISSがあるじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ISSでできる実験や研究は一握り。公共性が高い実験や研究が優先され、誰もが気軽に使えるようなものではありません。

私たちは会社のミッションにもあるとおり、「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」ことを目指していますので、これから宇宙産業の市場がますます拡大していくなかで、様々な企業が宇宙に参入していく、その時の最初の窓口のような会社になれたらいいなと思っています。

私たちが宇宙市場の窓口になることで、もしかするとライバル企業が増えるかもしれません。そうなったとしても、宇宙市場に参入する企業が増えると競争力のあるサプライヤーが生まれて、日本経済にも良いですし、イノベーションの創出にも繋がるかもしれません。そのためにもまずは裾野を広げていくことが必要です。

せりか:宇宙への窓口、素敵ですね。宇宙用に開発した技術や製品が、地上での生活に活かされるケースも出てきています。ElevationSpaceのELS-Rの運用が本格的に始まれば、こうした技術や製品も増えていきそうですね。ありがとうございました!

せりか宇宙飛行士との対談シリーズ第20弾のゲストは、ElevationSpaceで広を担当している武藤槙子さんでした。

次回は、ElevationSpaceの技術実証機で宇宙実験を行う企業の一社であるユーグレナのCTO・鈴木健吾さんをお迎えし、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)×宇宙の可能性をうかがいます。お楽しみに!


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