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社会の成長を促進する、新たなフロンティアの開拓とは【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#3】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第三弾となる今回のテーマは、宇宙開発の意義についてです。人類はなぜ宇宙に挑み続けているのでしょうか。その結果、地上の生活に還元されるものは?

伊東せりか宇宙飛行士とワープスペースのChief Strategy Officerを務める森裕和がディスカッションしました。

ひとりではできないことを仕事にしたい

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©︎小山宙哉/講談社

せりか:森さんは2021年5月にワープスペースにジョインされたと聞きましたが、以前から宇宙分野でキャリアを積まれてきたそうですね。何がきっかけで宇宙に関心を持ったのでしょうか。

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ワープスペース CSOの森裕和

森:小学生の頃に叔父が望遠鏡で星を見せてくれたり、地球外生命体探査のニュースを耳にしたりして、「宇宙って面白いな」と漠然と感じました。ただ、このときは宇宙に仕事で携わりたいとまでは思っていなかったんですよ。

大学入学前にバックパッカーとして世界一周していたときに、農村部で綺麗な星空を見て、本気で宇宙に向き合ってみたくなったんです。それで大学では理論宇宙物理学を専攻し、超ひも理論の研究にのめり込みました。

せりか:宇宙の科学的な側面に惹かれたのですね! そこから仕事にはどう繋がっていったのですか。

森:世界一周に出発する前は、地中海でプロダイバーとして活動していたこともあり、ガイドや講習だけでなく、沈没船や洞窟の探査もしていました! ダイビングと宇宙遊泳は非常に似ていることから、宇宙飛行士は水中で訓練を行っていますよね。

せりか:南波さんと真壁さん、新田さんも、NEEMO(ニーモ)と呼ばれる海中の居住施設に滞在して訓練を受けていました!

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©︎小山宙哉/講談社

森:さらに私のダイバー仲間には、若田宇宙飛行士をはじめとする日本人宇宙飛行士の水中訓練のインストラクターをしている人もいます。

せりか:本当ですか!

森さん:はい。その人とは仲良くさせていただき、よく「Hiro(森のニックネーム)なら、英語もできるし、プロダイバーとしても活躍しているし、宇宙物理や宇宙航空工学を学べば宇宙飛行士なれるよ」と言ってくれました。そして、その後本当に宇宙物理を学ぶために、大学に進学することになりました。

大学に入学した年(飛び級入学したため学部二年生)に、宇宙飛行士の訓練施設を立ち上げようとしていた人を別のダイバー友達に紹介いただきました。在学中にロンドンへ行き、その方とお会いすると、その場ですぐに意気投合し、会社に立ち上げメンバーとして加わることに。仕事として宇宙に関わり始めたのはこの時が初めてです。

もちろん物理学や宇宙科学に飽きたわけではないんですよ。でも、理論物理学は研究のための設備は必要なく、一人でもできます。仕事でやるなら、一人ではできないこと……宇宙産業に関われる仕事がいいと思っていました。それから、生きているうちに成果が目に見える仕事がしたいという観点も大事にしていましたね。

新たなフロンティアの開拓が社会を成長させる

せりか:実際に仕事で宇宙に関わるようになって、目に見える成果は何かありましたか。

森:仕事として宇宙に関わるようになって2年強経ちましたが、宇宙産業の盛り上がりは感じています。これまでは科学分野でしか議論されていなかった宇宙ステーションや宇宙における光通信に事業者が参入し始めているのも大きな変化です。

実際に働いてみて気が付いたのは、宇宙産業と地上の産業は大して変わらないということです。宇宙に物を持っていくかどうかの違いでしょう。

せりか:そう言われてみれば、そうですね。では、なぜ人は宇宙開発に取り組んでいるのだと思いますか。

森:一番のドライバーは、やはり知的好奇心と探究心ではないでしょうか。宇宙開発には膨大なコストがかかりますし、放ってはおけない地上の課題も山積みです。でも、歴史を振り返るとイノベーションを起こしたり、社会を大きく成長させたりしてきた変化の裏には、新たな大陸を目指した大航海時代のように、空間的な拡張がありました。山頂も海底も開拓した今、次のフロンティアとして宇宙を目指すのは自然なことです。

そして、宇宙は“目指す場所”としても重要だと思います。わかりやすい例を挙げると、宇宙飛行士になるために努力をする人は多いですが、宇宙飛行士に選ばれなかったとしてもその過程でたくさんのものを得られるのではないでしょうか。

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©︎小山宙哉/講談社

せりか:私も選抜試験や訓練を経て、ISSに搭乗した宇宙飛行士のひとりです。森さんがおっしゃる通り、宇宙飛行士を志したからこそ身に付けられたスキルは多くあります!

宇宙を開拓しながら、地上の生活も豊かにする

せりか:とはいえ、政府主導の宇宙開発には多額の税金が使われています。民間主導の宇宙開発……いわゆるニュースペースと呼ばれる企業にも、政府が実証実験の機会を提供したり、補助金という形で税金が使われたりするケースがあります。夢や憧れだけではなく、宇宙開発の成果をきちんと発信していくことは大事なことですよね。

森:せりかさんがISSでALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬を開発するために実施した実験は代表的な事例だと思います。

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©︎小山宙哉/講談社

一方、あまり知られていないけれども、実は宇宙開発や宇宙探査から技術がスピンオフして、私たちの日常に役立っているものも多くあります。GPSはまさにそうですよね。カーナビや地図アプリの恩恵は誰もが受けているでしょう。

それだけではありません。NASAの研究を応用して、強度が高いアルミ缶を開発したり、ISSに設置されているカメラのアイデアが活かされてカプセル型の内視鏡が生まれたりしたケースがあります。宇宙空間という厳しい環境下を想定して開発した技術や製品を地上で使うと、一般的なものと比べて自ずと質が高くなるんです。

多くの宇宙開発のプログラムは、地上での生活にメリットを還元できるように設計されているように思います。

せりか:そうですね! ところで、ワープスペースは人工衛星の事業者向けに光通信を使った通信インフラサービスを構想しています。これは地上の生活にどう貢献していけそうですか。

森:宇宙開発において、宇宙と地上の通信インフラはなくてはならないものです。光通信が普及すれば、衛星が撮影した画像を地上でダウンロードするのが効率化されますし、ISSでの科学実験や有人月面着陸を予定しているアルテミス計画、深宇宙探査にも貢献できるでしょう。

せりか:宇宙開発や利用、探査を広く支えられるということですね!

森:おっしゃる通りです。光通信を切り口に、宇宙開発やその先にある地上の生活への還元に寄与していきます。

せりか:第一回の常間地さんとの対談でもあったように、光通信が普及し、衛星による観測の頻度が増えれば農業や災害対応も変わっていきますよね。今回は宇宙開発やそれを支えるインフラサービスのポテンシャルの高さを知れました。ありがとうございました!

せりか宇宙飛行士と宇宙ベンチャー・ワープスペースの森、立場の違うふたりが宇宙開発の意義を議論しました。宇宙開発や探査がきっかけとなり生まれた技術が私たちの日々の生活に役立てられていることを感じていただけたのではないでしょうか。

2月に公開予定のシリーズ第4弾は、サステイナブルなものづくりをテーマに、伊東せりか宇宙飛行士とゲストが対談します。お楽しみに。

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