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宇宙からLiDARで地球を3D地図化!豪スタートアップ創業者に聞く、事業構想【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#27】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第27弾となる今回は、LiDAR搭載衛星のコンステレーションの構築を計画しているオーストラリアのベンチャー・Vidi Astra(ヴィディ・アストラ)の創業者兼CEOのタオフィク・ハクさんをお迎えして、LiDAR搭載衛星のポテンシャルを語っていただきました。

S-Booster 2023出場が創業のきっかけに

©︎小山宙哉/講談社

せりか:タオフィクさんは、2023年に東京で開催された宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2023」でアジア・オセアニア賞を受賞されたとうかがいました。Vidi Astraはどんな活動を行う会社なのでしょうか?

Vidi Astra創業者兼CEOのタオフィク・ハクさん

タオフィクさん:Vidi Astraは、気候変動や自然災害などの対策に役立つデータを提供することを目指して、2023年12月に創業しました。

私は子どもの頃から宇宙に関心がありましたが、オーストラリアにはアメリカや日本のように本格的な宇宙産業はありませんでした。そこで、宇宙に携わるにはどんな選択肢があるだろうかと考え、宇宙スタートアップSpiral Blue(スパイラル・ブルー)の創業に辿りつきました。

実は、S-Booster 2023には、2017年に創業したSpiral Blueのチームで出場し、「Enabling 3D virtual replicas of the Earth with LiDAR satellites(LiDAR衛星による地球の3Dバーチャルレプリカを実現)」というアイデアを提案しました。

Spiral Blueは宇宙用のエッジコンピュータの運用や販売を行う企業です。これまでに8機の宇宙用のエッジコンピュータ搭載衛星を打ち上げ、2024年は少なくとも2機の打ち上げを計画しています。これまでにオーストラリア宇宙庁や国防省ともプロジェクトを実施した実績があります。

Spiral Blueは今後も宇宙用のエッジコンピュータ事業に注力すべきだと考え、S-Booster 2023で受賞したLiDAR衛星事業はスピンアウトさせ、新たに創業したのがVidi Astraです!従業員はパートタイムのメンバーも含め、5人になりました。Vidi AstraではSpiral Blueの技術を活用していますし、Spiral Blueの株主の一部はVidi Astraの株主としても参画していただいています。

せりか:Vidi Astraの創業にはそういう経緯があったんですね!

樹木や建設物の高さ・形状が測定できるLiDAR衛星とは?

せりか:Vidi Astraの衛星に搭載される予定のLiDARという種類のセンサとは、どのようなものですか。

タオフィクさん:LiDARとは、レーザーを照射して、跳ね返ってくるまでの時間から距離を測ることで、対象物までの距離や形を高精度に測定できるセンサです。衛星に搭載するLiDARは、宇宙から地表面にレーザーを照射し、樹木や建設物の高さなどを測定できます。大きさが同程度の光学衛星やSAR衛星と比べると、LiDAR衛星は、例えば3D地図は約10倍、森林バイオマスの測定は約3倍正確に測定できるのが特徴です。

私たちがLiDARに注目したきっかけは、オーストラリアで約10万平方kmに及ぶ土地を管理している顧客をSpiral Blueで支援していたときに、どのセンサを使うのがいいか検討したことでした。

クライアントにLiDAR衛星のことを初めて話すと、だいたい「あり得ない」「本当に宇宙からそんなことができるんですか?」といった反応が返ってきます(笑)。だからこそ、クライアントの関心を引くことができているとも思っています。

せりか:なるほど。Vidi AstraではLiDAR衛星をどのように活用する計画ですか?S-Booster 2023で提案していた「3Dバーチャルレプリカ」とはどのようなものなのでしょうか?

タオフィクさん:まず、Vidi Astraのビジョンは、惑星や小惑星を含む太陽系の3D地図を作ることです。将来的には太陽系外の地図も作ってみたいと思っています。そのために、まずは私たちが住んでいる地球の3D地図作りから始めることにしました。

せりか:地球の3D地図作り、興味深いです!顧客にはどんなサービスを提供する予定ですか。

タオフィクさん:ひとつは、カーボンクレジットのための森林による炭素吸収量のモニタリングです。LiDAR衛星は、樹木の上部から地面までを測定することができます。つまり、エリアごとの炭素吸収量を正確に測定できるんです。

LiDAR衛星の解像度は、水平方向5m、垂直方向30cmを目指しています。最初の衛星は2027年頃に打ち上げる予定です。20機のコンステレーションを構築すれば、地球全体を毎年測定できるようになります。クライアントからの要望があれば、特定の場所を高い頻度で測定することもできます。

電力を大幅にカットする技術でLiDAR衛星の民主化を実現

せりか:LiDAR衛星は宇宙機関が打ち上げるケースはこれまでもありましたが、民間企業による打ち上げは珍しいように思います。LiDAR衛星の開発や打ち上げにはどんなハードルがあるのでしょうか。

タオフィクさん:LiDAR衛星の最大の課題は、常に膨大な電力を必要とすることです。電波を地表に放射し、その反射から地表の様子を観測するSAR衛星と同様に、LiDAR衛星も大きな電力を消費します。

私たちは、衛星の寿命を通して電力を約1/10まで削減する技術を開発し、現在は特許を申請しているところです。この技術があれば、衛星を小型化することができますし、打ち上げにかかるコストを下げることができ、結果的にクライアントにより低価格でたくさんのデータを提供できるようになります。S-Booster 2023が特許出願にかかる費用を提供してくださったことに感謝しています。

10年前、LiDARは自動運転車への導入が期待されていました。ところが当時はLiDARがまだ高価で、一般の車に搭載するのは不可能だという人もいました。ところが最近は、LiDARの価格は10分の1程度にまで下がり、iPhoneやロボット掃除機にまで搭載されるようになりました。LiDARは防衛や科学のための技術から、一般消費者向けのガジェットへと変わりつつあるのです。

せりか:LiDARの活用の幅が広がってきているんですね。LiDAR衛星技術を使って挑戦してみたいことはありますか。

タオフィクさん:オウムアムア(2017年に発見された恒星間天体)のような天体を調査できれば、絶対に面白いでしょうね!当時はみんな、オウムアムアはエイリアンの宇宙船のようだと言っていましたよね。

オウムアムアのイメージ 
©︎European Southern Observatory/M. Kornmesser

将来の話はさておき、今後数年はやはり月面に注目が集まるでしょう。特に、月の南極付近は、水が氷の状態で存在している可能性があり、探査機を送る計画が増えていますが、山や岩が多く、安全に着陸するには精度の高い地図が必要です。月の南極付近は暗いので、光学衛星では地図を作成できません。ですから、私たちのLiDAR衛星を使って、地図を作成できればいいなと思っています。

せりか:月面探査でもLiDAR衛星の活躍が期待されているんですね!最後に、タオフィクさんが、宇宙開発が必要だと考えるわけを聞かせてください。

タオフィクさん:大航海時代に新大陸を目指した理由が人それぞれだったように、宇宙を目指すモチベーションも人によって違うでしょう。私の場合は、人類が宇宙を飛び回る未来ほどワクワクするものはないと信じているから、宇宙を目指しています。宇宙ではほかの生命体や新しい資源を見つけられる可能性もあります。宇宙は人類の文明を発展させるチャンスです。将来的には全ての産業を宇宙に移して、地球は庭として維持できるようになるといいなと思っています。

せりか:タオフィクさん、ありがとうございました!

せりか宇宙飛行士との対談シリーズ第27弾のゲストは、Vidi Astraの創業者兼CEOのタオフィク・ハクさんさんでした。

次回は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で、陸域観測技術衛星「だいち2号」のプロジェクトマネージャを務める祖父江真一さんに地球観測衛星の貢献についてうかがいます。お楽しみに。


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