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Orbital Insight に聞く、宇宙から見守る持続可能なものづくり【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#4】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第四弾となる今回は、シリコンバレー発のベンチャー企業Orbital Insight(オービタルインサイト)のマイク・キムさんをゲストにお迎えしました。

Orbital Insightは衛星データや地理空間情報などのビッグデータを活用して、経済活動を分析するプラットフォームを提供しています。このプラットフォームは、持続可能なものづくりに貢献しているといいますが、一体どういうことなのでしょうか。

AI研究の第一人者が創業したベンチャー企業Orbital Insight

マイクさん:はじめまして。Orbital Insightでアジア太平洋地域の統括責任者兼東京オフィスのゼネラルマネージャーを務めている、マイク・キムです。

kimさん

マイク・キムさん ©︎ Orbital Insight

せりかさんのブルースーツには、NASAのワッペンが付いていますね。我々Orbital InsightとNASAは、実は深い繋がりがあるのですよ。

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©︎小山宙哉/講談社

せりか:というと?

マイクさん:Orbital Insightを創業したAI研究の第一人者ジェームズ・クロフォード博士は、NASAの火星探査プロジェクトで、ローバーに搭載する自律型のソフトウェアを開発する責任者のひとりだったのです! そういう経緯で、NASAとは今も親交があり、Orbital Insightの社内にはNASA出身のエンジニアもいます。

せりか:そうだったのですね! 私もミッションにアサインされているときは、NASAの施設で訓練を受けることが多いので、親近感が湧きます。

ところで、クロフォード博士はどうして衛星データを使ったソリューション開発を始めたのでしょうか? 火星の探査ローバー開発と衛星データは全く違う領域のようにも思えます。

マイクさん:クロフォード博士は、宇宙探査だけではなく、書籍の全文検索サービス「Google Books」の開発や気候データを使ったソリューション開発を率いていたことでも知られています。

彼がプライベートでも、仕事でも、一貫して大事にしているモットー「地球上で起きていることや地球そのものに起きている事象を解き明かす」は、そのままOrbital Insightのミッションステートメントになっています。

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「Orbital Insight Go」は、主に、画像認識・物体検出・位置情報分析による、車両・船舶検知、動態分析が可能(上図は動態分析の画面) 
©︎ Orbital Insight

Orbital Insightの地理空間分析プラットフォーム「Orbital Insight GO」は、AIと機械学習を活用しており、衛星画像から工場の稼働状況を調査したり、衛星画像から検知した駐車場の車両の台数とGPSデータをもとに計測した来店客数で、店舗の経済効果を推定したりすることもできます。

せりか:すごい! そんなことまで、わかるなんて!

パーム油のトレーサビリティを確保し、森林破壊を防ぐ!

せりか:Orbital Insight GOの利用事例は、まだまだたくさんありそうですが、一番インパクトがある利用事例は何だとお考えですか。

マイクさん:先ほど紹介した我々のミッションステートメントを物語っているのは、サプライチェーンの把握ですね。大手消費財メーカーのユニリーバは、商品の生産に使われるパーム油の調達先である農園を把握するために、Orbital Insight GOを採用してくださいました。

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アブラヤシの実

パーム油とは?
アブラヤシの実から採れる油です。洗剤やシャンプー、歯磨き粉、口紅などの日用品、インスタント麺や菓子パンなどの加工食品に使われています。

パーム油をどこから購入しているかは把握していても、パーム油が生産された搾油工場や、原材料のアブラヤシがどこの農園で栽培されたのかまでは辿れない企業がほとんどでした。それがOrbital Insight GOを使うとサプライチェーンのファーストマイルを把握できるのです!

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サプライチェーンの分析結果 ©︎ Orbital Insight

せりか:パーム油の生産量を増やすためにアブラヤシの農園を拡大した結果、森林破壊を招いてしまった地域があると聞いたことがあります……。ユニリーバさんは、日用品や加工食品の生産に使うパーム油が環境に負担をかけていないことを確かめることで、持続可能なものづくりを実現しようとしているのですね。

サプライチェーンを辿るのは難しいと言われているようですが、Orbital Insight GOではどのような仕組みで把握しているのですか。

マイクさん:我々のソリューションの重要な要素は、GPSシグナルを使用して取得できる位置情報と衛星画像を解析するAIのアルゴリズムです。まず、点状になっているGPS位置情報を繋ぎ合わせて、マップを作成します。そこに建物や道路、森林の位置を検出した衛星画像を重ね合わせることで、サプライチェーンと森林伐採の状況がわかるようになっています。

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衛星画像を独自のアルゴリズムで解析し、土地被覆分類を行う 
©︎ Orbital Insight

せりか:なるほど。それなら、監視カメラやセンサーを設置しなくてもいいので効率的ですね!

日本の事業規模は世界No.2!初の海外拠点、東京

せりか:ところで、マイクさんは東京オフィスのゼネラルマネージャーを務めているとおっしゃっていましたね。日本でも衛星データや地理空間情報への関心が高まってきているのでしょうか。

マイクさん:そうですね。私は本社を設立した2013年から初期メンバーとしてOrbital Insightに参画しています。

2016年の夏にとある日本の企業から「事業について詳しく知りたい」とメールが届いたときのことは今でもよく覚えています。その年の冬に現CEOのケビン・オブライエンとふたりで東京に訪れてみると、衛星画像や地理空間情報を使ったデータ分析にかなり関心が集まっていることがわかりました。

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私は家族と一緒にサンフランシスコから東京への移住を決断。そして、アジア太平洋地域の統括責任者兼東京オフィスのゼネラルマネージャーに就いたのです。東京はOrbital Insightにとって初めての海外拠点となりました。日本の事業規模は本社があるアメリカに次いで2番目です。

せりか:2番目! それは驚きました。日本ではなぜそこまでデータ活用への関心が高まっているのだとお考えですか。

マイクさん:イノベーションを起こすこと、デジタル化、新規事業の創出を進めていきたいという意欲が高まっているところに、アメリカ発のテクノロジーに関心が高いことをはじめとする文化的な親和性が融合したことで、日本で受け入れてもらえたのではないかと思います。

せりか:確かに、イノベーション・デジタル化・新規事業の創出は、どれも日本でよくキーワードになる言葉ですね。

当面のゴールは、衛星画像の「毎日更新」

せりか:今後、より多くの方のニーズに応えるために、見えている技術的な課題は何かありますか。

マイクさん:お客様からは「より早くデータを提供してほしい」というご要望をいただきます。

Orbital Insight GOはログインすると、1日前の衛星画像が表示されますし、衛星が画像を撮影してから地上でダウンロードするまでにかかる時間は、かなり短縮されてきています。しかし、求められるスピード感はお客様の利用用途によって異なり、当面の目標は毎日データを更新することです。

せりか:ワープスペースが進めている光通信サービスが普及すれば、世界中の衛星画像を毎日撮影してダウンロードすることも、夢ではないですね。

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©︎ワープスペース

マイクさん:おっしゃる通りです。私たちは、衛星事業者から衛星画像を購入しています。なので、ワープスペースの光通信を衛星事業者が使うことで、私たちはより早く衛星画像を手に入れられるようになる……つまり私たちは光通信の受益者になるわけです。

特定のエリアの衛星画像を取得するためには「この画像をください」とオーダー(タスキング)を入れなければなりません。それがOrbital Insight GOの画面上で、例えば「明日の東京駅」「2時間後の東京駅」とオーダーするとすぐに画像が取得できるようになれば魅力的だと思います。

せりか:衛星画像のダウンロードにかかる時間が短くなれば、1機あたりの衛星が撮影できるデータ量が増えるので、データの価格は自然と下がっていきますよね。そうすれば、データ活用の裾野は広がっていきそうですね。

最後に日本の宇宙産業やスタートアップ企業に期待していることを聞かせてください!

マイクさん:高解像度の衛星画像を迅速にご提供いただける衛星事業者とは、ぜひ提携させていただきたいと思っています。東京駅など客足が多いエリアの衛星画像は、複数の企業から衛星画像をご提供いただければ、分析できる事柄が増えますから。

せりか:パーム油のサプライチェーンのように、今まで見られなかったものが見えるようになると、私たちの生活も変わっていくかもしれませんね。ありがとうございました!

宇宙飛行士との対談シリーズ第四弾のゲストは、Orbital Insightのマイク・キムさんでした。マイクさんのお話から、衛星データや地理空間情報が、私たちの暮らしに身近な日用品や食品の持続可能な生産に役立てられていることがわかりました。衛星が画像を撮影してから地上に届くまでの時間が短くなっていけば、衛星データ活用の裾野が広がっていきそうです。

 次回第五弾は、ワープスペースCFOの北原が登場します。宇宙やディープテックに取り組む現場に求められるダイバーシティ&インクルージョンについて議論する予定です。

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